【第9話 教会軍、雨に打たれて撤退ラッシュ】
天空水城は、雲の上を優雅に漂い続けていた。
高度一千五百メートル。
下界は完全に雲に覆われ、地上の様子はほとんど見えない。
それが逆にリシアにとっては最高の環境だった。
城の中央庭園にある巨大温泉プールで、
リシアは浮き輪(水で作った)に乗ってぷかぷか浮かんでいる。
銀髪を湯に濡らし、目を閉じてリラックス。
「……雨の音、聞こえる?」
アーテリアがプールの縁に座って微笑む。
「ご主人様が軽く降らせた雨ですよ。
今、下界は大雨で、教会軍がずぶ濡れです♡」
ミレーヌが尾びれを水面に叩きながら。
「教会の『神託の軍勢』、総勢二万。
聖騎士団、魔法師団、神官団まで揃えて、城を『神の敵』として討伐に来たそうです」
リシアは目を閉じたまま呟く。
「ふーん。
じゃあ、もうちょっと強く降らせて、みんな帰るまで待とう」
彼女が指を軽く動かす。
雲海が一気に厚くなり、
下界に向かって豪雨が叩きつけられた。
塔のスクリーンに、下界の様子が映し出される。
教会軍の陣営は、泥濘と化した平原。
テントは倒れ、聖旗はびしょ濡れでへばりつき、
聖騎士たちは鎧の重さで動けず、
神官たちは祈りの詠唱が雨音にかき消される。
大司教が拡声魔法で叫ぶ。
「神の名において、この魔女を討て!
天空の城は神のものだ!」
しかし、次の瞬間——
ゴロゴロゴロ……ドーン!!
雷が落ちる。
いや、雷じゃない。
リシアが「ちょっと雷っぽくした」だけの水の電撃。
バチバチッ!!
聖騎士の一団が感電して転がる。
「ひぃぃぃ!!」
「これは神の怒りか!?」
「いや、神託のはずなのに……!」
大司教の顔が引きつる。
さらに雨が強くなる。
まるで滝のような垂直の雨。
兵士たちは視界ゼロ、足元は川状態。
馬はパニック、荷物は流され、
ついに後衛の神官が叫んだ。
「撤退です! これ以上は神罰です!!」
大司教が悔しげに歯噛みする。
「……くそっ、この雨……この城……!
だが、必ず……」
彼の言葉は雨に飲み込まれ、
教会軍は総崩れで後退を開始した。
撤退ラッシュ。
二万の軍勢が、泥まみれで逃げ惑う姿は滑稽ですらあった。
城内のスクリーンでそれを見ていたリシアは、
温泉で伸びをする。
「……終わった? よかった、静かになった」
アーテリアが優しく頭を撫でる。
「ご主人様の雨、一撃で二万を退けたんですよ。
本当に最強です♡」
ミレーヌも目を輝かせて。
「これで少しは平和になりますね。
次は領民の街づくりを手伝いましょうか?」
リシアは浮き輪に沈みながら。
「……街づくりとか面倒……
とりあえず、もうちょっと寝よ」
しかし、塔の声が静かに報告。
『ご主人様、新たな接近者検知。
単独。身分:謎の使者。
メッセージ:「湖の聖女よ、会談を望む。
内容:大陸の平和のため」』
リシアはため息。
「……また来るのかよ……
誰だろ、今度は」
下界の雲を抜け、一人の影が城に向かって飛んでくる。
それは、黒いフードを被った、
どこか懐かしい雰囲気の人物だった。
第9話 終わり。
【次回予告】
謎の使者が城に到着!
正体は……意外な人物!?
「実は私も水魔法使いで……」
リシア「え、同業者!? めんどくさい……」
第10話『同業者(?)が「一緒に世界征服しませんか?」って言い出した』




