【第8話 勇者様、湖に落ちてびしょ濡れになる】
天空水城は、ゆっくりと高度を上げながら大陸上空を漂っていた。
高度は約一千メートル。
下界は雲海のように見え、湖の水面は遠くに輝く青い宝石のよう。
リシアは城の最上階テラスで、温泉プールに浸かりながら足をぷかぷかさせていた。
銀髪を湯気に濡らし、目を細めて空を見上げる。
「……空に浮かぶ温泉、最高……」
アーテリアが水のドレス姿で横に座り、
ミレーヌが人魚尾びれを湯に浮かべて(今は半分人間)隣でくつろぐ。
「ご主人様、領民の申請がもう五万人を超えました♡
城の拡張機能で部屋は無限に作れますよ」
「五万人……? もう街じゃん……」
リシアがぼやくその時、城の警報が軽く鳴った。
塔の声が穏やかに。
『外部接近者確認。単独。武装:聖剣一振り。
自己申告:神託の勇者「レオン・ブレイブハート」
目的:天空の城を「神のもの」として明け渡せ、と』
「……勇者?」
リシアは面倒くさそうにため息をついた。
下界から、雲を突き破って一人の青年が飛翔してくる。
金髪、青いマント、輝く聖剣を構え、
まさに勇者テンプレそのもの。
彼は城のテラスに着地し、堂々と叫んだ。
「この浮遊城は神の意志により我が手に!
支配者よ、出てこい! このレオンが浄化してやる!」
リシアは温泉から顔だけ出して、
「……あー、はいはい。浄化って何?」
レオンがリシアを見て一瞬固まる。
(……少女? しかも温泉に浸かってる……?)
だがすぐに気を取り直し、聖剣を構える。
「貴様がこの城を操る魔女か!
神託により、この城は地上に還るべきもの!
抵抗するなら容赦せんぞ!」
リシアはあくびしながら手を振った。
「抵抗とかしないよ。めんどくさいし。
でも、ここ私の家だから、出てってくれる?」
レオンが聖剣を振り上げる。
「ならば力ずくで! 神の雷よ!!」
雷撃魔法が放たれる。
しかし——
城の周囲に張られた水のバリアが、
雷を吸収して虹色の光に変えた。
レオンが目を丸くする。
「な、何だこのバリアは!?」
塔の声が優しく。
『防衛モード:水鏡反射。
ご主人様、排除しますか? 推奨:軽い水没♡』
「いや、殺さないで。ちょっとびしょ濡れにさせるくらいで」
リシアが指を軽く鳴らす。
次の瞬間、テラスの床が水の渦に変わり、
レオンを丸ごと飲み込んだ。
「うわあああああ!!」
ドボン!!
レオンは城の外周の湖(城の下に作られた人工湖)に落ち、
びしょ濡れで浮上する。
聖剣はどこかに飛んでいき、マントはペタペタ。
「……ぐぼっ……」
リシアは温泉から手を振った。
「ほら、帰って。
次来たら本気で雨降らせるからね」
レオンは雲海に落ちながら叫ぶ。
「く、くそぉぉ……覚えておけぇぇ!!」
彼はパラシュート魔法でなんとか脱出。
城内ではアーテリアとミレーヌが拍手。
「ご主人様、かっこよかったです♡」
「勇者なんて、ただの水没要員ですね♡」
リシアは再び湯に沈み、
「……次はもっと面倒なのが来そう……」
その予感は的中する。
下界では、勇者の敗北が瞬く間に広がり、
今度は「神託の教会」が本格的に動き出し、
大陸中の勇者予備軍が集まり始めていた。
第8話 終わり。
【次回予告】
教会が「神の敵」として大軍を送り込んでくる!
リシア「雨でみんな帰るまで待とう……」
でも、意外な援軍(?)が現れて……?
第9話『教会軍、雨に打たれて撤退ラッシュ』
乞うご期待!




