【第6話 連合軍、湖を見るなり撤退を決意する】
湖畔は、もはや戦場というより祭り会場だった。
五カ国の連合軍——総勢三万——が湖をぐるりと取り囲んでいる。
旗がひしめき、騎士の鎧が陽光を反射し、魔法師団のローブが風にはためく。
先頭に立つのは、インプライア帝国の元帥。
厳つい髭面で、拡声魔法を使って叫ぶ。
「湖の支配者よ! ただちに塔と湖の管理権を我々に委ねよ! さもなくば武力行使を辞さぬ!!」
ドライア王国の王女は後方で震えながら、
「お願い、戦争だけは……」と祈っている。
びしょ濡れ皇帝も別働隊を連れて再登場し、
「朕の湖を返せ!!」と喚いている。
リシアは塔の最上階バルコニーに出て、欠伸をしながら下を見下ろしていた。
隣にはアーテリアとミレーヌがぴったり寄り添い、
二人とも水でできた薄いドレス姿で、めちゃくちゃ絵になる。
「……うるさいなぁ。まだ朝の九時なのに」
塔の声が優しく響く。
『ご主人様、ご不快ですね。敵軍を排除しますか?
推奨モード:高さ百メートルの津波を三発。生存率ゼロ♡』
「いや、殺すのはダメだって」
リシアはため息をつき、軽く手を振った。
「じゃあ、ちょっと脅すだけ」
その瞬間。
湖全体が静まり返った。
水面が鏡のように平らになり、風すら止む。
連合軍の兵士たちがざわつく。
「……なんだ?」
次の瞬間——
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!
湖の水が、ゆっくりと盛り上がり始めた。
十メートル、二十メートル、五十メートル……
百メートルを超える巨大な水の壁が、湖の外周をぐるりと取り囲むように立ち上がる。
まるで世界の端に水のカーテンが張られたよう。
水壁は透明で、中を泳ぐ魚や湖底の遺跡まで見通せる。
そして、水壁の頂上から、リシアの声が穏やかに響いた。
塔が拡声してくれたらしい。
「ねえ、みんな。
ここ、私の湖だから。
帰ってくれる?」
元帥が顔を上げ、青ざめる。
水壁の高さは、すでに二百メートルを超えていた。
しかも、まだ上がっている。
兵士たちの間に動揺が広がる。
「ば、馬鹿な……あれだけ的水量、どこから……」
「落ちたら……全軍即死だ……」
「撤退だ! 撤退しろ!!」
元帥が叫ぶ前に、もう兵士たちは我先にと後退を始めていた。
馬が暴れ、旗が倒れ、魔法師団は転がるように逃げ出す。
びしょ濡れ皇帝は馬から落ちて転がり、
「待て! まだ戦いは……ぐぼっ!」と水溜まりに顔を突っ込んだ。
わずか三分後。
湖畔に残っていたのは、ドライア王国の王女だけだった。
彼女は震えながらも、リシアに向かって土下座した。
「聖女様……! どうか、わが国に水を……! 国民が干ばつで死にかけています……!」
リシアはバルコニーから身を乗り出した。
「……別に独占する気ないよ。
飲みたい人は飲んでいいし、農業したい人は水路引いてもいいよ」
王女が顔を上げる。
「本当、ですか……?」
「うん。ただ、戦争だけはしないでね。めんどくさいから」
王女の目から涙がぽろぽろこぼれた。
「ありがとうございます……! あなたは、本当に聖女様です……!」
リシアは照れくさそうに頭をかいた。
アーテリアが耳元で囁く。
「ご主人様、優しいですね♡」
ミレーヌも微笑んで。
「これで、この湖はご主人様の領土として確定しましたね」
塔の声が満足げに響く。
『新国家樹立を確認。名称未定。
ご主人様、温泉で祝杯を上げますか? シャンパン代わりに炭酸水生成中♡』
リシアは苦笑いしながら、
「……まあ、いいか。今日はゆっくり浸かろっと」
こうして、砂漠を湖に変えた少女は、
意図せずして新国家の支配者となった。
もちろん本人は、
「領地経営とか面倒そう……」と思っているのだが。
第6話 終わり。
【次回予告】
湖は「アクアリシア連邦」と名付けられ、難民と商人が殺到!
リシア「人口増えすぎてやばい……」
そんな中、湖底から新たなる遺跡が浮上。
今度は「空を飛ぶ水の城」が登場!?
第7話『私の領土が空に浮かび始めた』
乞うご期待!




