【第2話 湖の底から美少女がこんにちは(してこなかった)】
朝。
リシアは湖畔に生えたばかりの草の上で、ぽかんと座っていた。
「……寝ぼけてたわけじゃないよね」
目の前に広がるのは、昨日まで絶対にあったはずの砂漠が消えて、代わりにできた鏡みたいな巨大な湖。
面積は軽く隣国一個分はある。
水深は……底が見えない。
「うわ、マジでやっちゃった……」
「聖女様ぁぁぁ!!」
背後から甲高い声が飛んできた。
振り返ると、昨日から泊まり込みで野営している商人団の連中が、朝っぱらから土下座してる。
「どうか我がキャラバンにも水を! 一滴でいいんです! 金なら払います!!」
「いやいや、勝手に湧いてるし、無料だし?」
リシアが指差す先では、湖の縁からチョロチョロと水が溢れ、小川になって流れ始めていた。
もう数日もすれば、この辺一帯は草原になるだろう。
「聖女様のご加護に感謝をっ!!」
「だから聖女じゃないって……」
ため息をつくリシアの横を、突然ド派手な馬車が駆け抜けた。
金ピカの鎧を着た騎士団だ。
「湖を生みし者よ! 帝国皇帝陛下が直々に謁見を望んでおられる! 共に帝都へ!」
「は? いや無理無理、Fランクの私が行ったら処刑されそう」
「ではこの場で陛下をお迎えせねば!」
「え、マジで?」
数時間後。
湖畔には絨毯が敷かれ、豪華な天幕が立ち、皇帝本人が到着した。
五十代くらいの厳ついおじいさん。
でも目がギラギラしてる。
「ほう……これが噂の“湖を生みし魔女”か。年端もいかぬ小娘とはな」
「……魔女って言わないでくれる?」
皇帝はニヤリと笑った。
「名は?」
「リシアです。Fランク冒険者です」
「Fランクだと? 笑わせるな。この湖は帝国の領土だ。お前は我が帝国の国宝とする!」
「え、ちょ、勝手に!?」
そのときだった。
湖の中央が、ぶくぶくと泡立ち始めた。
「……ん?」
全員が湖を見た。
泡がどんどん大きくなり、ついに水柱が立ち上がる。
そして、水の中から現れたのは——
銀髪の美少女だった。
歳はリシアと同い年くらい。
透き通るような白い肌に、深い青の瞳。
水滴を纏ったまま、ふわりと湖面に立つ。
「誰……?」
皇帝も騎士団も固まる。
美少女はゆっくりとリシアの方を見た。
そして、にこり、と笑った。
「やっと会えた。私の“主”」
「は?」
美少女は一歩、水面を歩く。
「私はこの湖の底で千年眠っていた水の精霊王、アーテリア」
「精霊王!?」
「あなたが地下水脈を貫いたとき、私の封印が解けた。……ありがとう」
アーテリアはリシアの目の前まで来ると、ぺこりとお辞儀をした。
「そして、これより私はあなたのもの」
「え、ちょっと待って!?」
「契約は完了しています。あなたの魔力が、私の核に触れた瞬間から」
アーテリアはにっこり。
「よろしくね、ご主人様♡」
周囲が凍りついた。
皇帝の顔が真っ赤になる。
「な、なに!? 精霊王が契約だと!? しかも小娘に!?」
騎士団長が剣を抜く。
「陛下! 危険です! 精霊王を奪還せねば!」
リシアは頭を抱えた。
「……私、ただ水飲みたかっただけなのに」
湖畔は一瞬で修羅場と化した。
皇帝軍vs精霊王(+やる気ゼロ少女)。
そして遠くでは、湖底に沈んだ古代遺跡の扉が、静かに開き始めていた。
第2話 終わり。
(次回予告)
皇帝「この湖も精霊王も、すべて帝国のものだ!」
アーテリア「ご主人様以外に膝を屈する気はありません♡」
リシア「ちょっと待って、私まだ朝ごはん食べてないんだけど!?」
第3話『皇帝陛下、湖で溺れそうになる』
お楽しみに!




