【第1話 砂漠が湖になった日】
「はぁ……今日も喉カラカラだよぉ……」
灼熱の太陽が容赦なく照りつける大砂漠「エルト・ドライ」。
Fランク冒険者の少女、リシア=アクアリットは、ぼろぼろのマントを頭から被りながら、よろよろと歩いていた。
銀色の長い髪は砂埃でくすみ、青い瞳は虚ろ。
唇はひび割れ、持っていた水筒はとうに空っぽ。
「……もうダメかも」
と、力尽きてその場に座り込む。
「……水、欲しいなぁ……」
その瞬間。
リシアの脳裏に、転生前の記憶がフラッシュバックした。
(そうだ、私……前世は地球の大学生で……死ぬ間際に「水のど乾いた〜」って呟いたら、謎の女神様に「じゃあ水魔法極めなよ!」って言われて……)
「…………いや、それで転生したのかよ! 女神様センス終わってんな!」
思わずツッコミを入れてしまう。
でも、確かにこの世界に来てから、彼女は「水魔法」だけが異常なまでに使いやすかった。
他の属性はゴミみたいな威力なのに、水だけは……。
「ちょっと……本気、出してみる?」
リシアは立ち上がり、両手を砂漠の空に向かって掲げた。
「水魔法の詠唱など、最初から不要だった。彼女にとって水は「理解」そのものだった。
「——水よ、ここに在れ」
ズドンッ!!
空気が震えた。
次の瞬間、彼女の周囲の空気中の水分が一瞬で凝縮し、手のひらに小さな水の玉が現れる。
……いや、小さくない。直径一メートルはある。
「うわ、でかっ!」
驚くリシアをよそに、水の玉はさらに膨張していく。
二メートル、三メートル、五メートル……
「ちょ、ちょっと待って!?
「やばいやばいやばい!! 止まらなーーーーい!!」
ドゴォォォォォォォォォォン!!!
凄まじい水圧とともに、超高密度の水流が一直線に砂漠の地中へと突き刺さった。
まるで神の槍。
砂が吹き飛び、岩盤が粉砕され、地下数百メートルに眠っていた巨大な水脈が——
ブチ抜かれた。
「…………あれ?」
リシアが呆然と立ち尽くす。
その足元から、じわ……じわじわ……と水が湧き出していた。
最初は小さな泉のように。
でも十秒後。
ゴォォォォォォォォ!!!
地割れから、信じられない量の水が噴き上がった。
まるで世界がひっくり返ったかのように。
水は空高く舞い上がり、太陽の光を浴びて虹を作る。
そして降り注ぐ。降り注ぐ。降り注ぐ。
「うそ……だろ……?」
リシアは、自分の足元がもう湖になっていることに気づいた。
いや、湖どころじゃない。
視界の果てまで、水。
昨日まであった砂丘は跡形もなく消え、
代わりに広がるのは、鏡のように澄んだ巨大な湖。
「……私、これ、やっちゃった?」
そのとき、遠くから馬のいななきと人の叫び声が聞こえてきた。
「み、見ろ! 砂漠が……砂漠が湖になってるぞ!!」
「奇跡だ! 神の奇跡だ!!」
「湖だ! 本物の湖だ!!!」
商人、冒険者、難民、帝国の兵士……
あらゆる人々が、涙を流しながら駆け寄ってくる。
そしてリシアの目の前に跪いた。
「あなたは……あなたこそが“湖を生みし聖女”……!」
「え、ちょ、ちょっと待って!? 私ただのFランクだよ!?」
誰も聞いてない。
もう、伝説は始まっていた。
砂漠を一夜にして湖に変えた少女の、
のんびりすぎる世界変革ファンタジー、ここに開幕。
第1話 終わり。
【次回予告】
聖女扱いされて困惑するリシア。
しかし湖の出現で動き出した大国、闇ギルド、そして……湖底から目覚めた“あの人”。
第2話『湖の底から美少女がこんにちは』
(してこなかった)』




