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白紙のページの彼方  作者: 夢幻
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炎のゆらぎと、届かない腕

鍛冶屋の少年リアンは父の背中を追いながらも、

自分の夢が「本当に自分のものなのか」揺れ始めていた。

町を訪れたセイルは、炎の精霊のささやきと共に、

夢を書き留めるだけでは救えない“現実”があることを知る。

夕暮れが町を染めるころ、鍛冶屋の店から赤い光が漏れていた。

炎がゆらめき、金属を焼く音が、静かな町の空気を震わせている。

セイルは店の前に立ち、しばらくその音を聞いていた。

昼間のリアンの表情が、ずっと胸に残っていたのだ。

「……また失敗か」

扉の隙間から、少年の悔しそうな声が漏れる。

中に入ると、火床の前でリアンが鉄を握りしめていた。

赤く熱した金属は、打たれるたびに微妙に歪み、

まるで意思を持ったように形を拒んでいる。

「リアン、今日は調子が悪いの?」

セイルが尋ねると、少年は気まずそうに笑って首を振った。

「調子は……悪くないんだ。ただ……俺の腕が足りないだけ」

その言い方は、あまりにも自分を責めすぎていた。

セイルはそっと火床をのぞき込む。

そこには、小さな炎の精霊がいた。

赤い粒となって燃え、鉄の周りをふわふわと漂っている。

炎の精霊は言葉こそ発しないが、鍛冶師の心を反映するらしく――

揺れている。

迷っている。

迷う主に寄り添うように、不安げに。

セイルは気づく。

リアンの夢が揺らいでいるのと同じように、精霊も不安定なのだ。

「……父さんはさ」

リアンがぽつりと言う。

「父さんは、誰が相手でも最高の剣を打つ。その姿をずっと見てきた。

俺だってそうなりたいって、ずっと思ってた。

でも……本当に“俺の夢”はそれなのかな」

打ちかけた鉄が、カシャン、と音をたてて落ちる。

夕陽が差し込み、リアンの頬が赤く染まる。

その表情は、悔しさでも劣等感でもなく――

自分でも言葉にできない迷いそのものだった。

セイルは夢の書に手をかけて……ゆっくりと離した。

(……だめだ。これは書けない)

夢は断片として視える。

だけれど、それは本人が望んだ時にしか“形”を持たない。

リアン自身がまだ夢を掴めていないのに、

書に記してしまえば、それはただの“押し付け”になる。

夢は触れるけれど、導くことはできない――

女神の言葉が頭の奥をかすめた。

「リアン」

セイルは火のそばにしゃがみ、少年と同じ目線になる。

「夢は父さんの背中を追うだけじゃない。

追いかけて、見失って、また拾い直す……そういうものだと思う」

その言葉に、リアンは目を伏せる。

「拾い直せるのかな、俺にも」

「拾えるよ。

だって、君の炎の精霊がまだ消えてない。

ほら、ちゃんとそばにいる」

炎の光が揺らめき、リアンの手元を照らす。

精霊は小さく跳ねるようにして、鉄に光を落とした。

「……ありがとう」

リアンは再び金槌を握る。

力強くはない。

でも、確かに先ほどよりも迷いが消えていた。

カン、カン、と音が響く。

ゆらめく炎に、再び小さな光が宿っていく。

セイルは店を後にしながら、心の中でそっと呟いた。

(俺にできるのは、書き記すことだけじゃないのかもしれない)

風が通りを抜け、火床の光を揺らしていった。

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