森の小道と初めての夢
セイルは森の小道に立ち、世界の色や匂い、音を初めて体験する。
そこで、近所の鍛冶屋の少年と出会い、彼の夢の断片を目にする。
夢を記す行為の意味と、現実世界との距離を少しずつ理解し始める。
木漏れ日の下、森の小道は穏やかに揺れていた。
小鳥のさえずり、風にそよぐ葉の音、遠くでせせらぐ水の音。
前世の大学生活では意識もしなかった細やかな音と匂いが、
今は鮮明に心に届く。
「……こんな世界が、あったんだ」
星生――いや、セイルはそう呟く。
手にした夢の書はまだ白紙だが、重みだけは確かに感じられる。
一歩、一歩踏み出すたびに、世界の息づきが伝わってくる。
そのとき、道の向こうから少年の声が聞こえた。
「おーい、遅いぞ!」
少年は小さな鍛冶屋の店から飛び出してきた、まだ汗の残る顔をしている。
短く刈った髪、煤で黒ずんだ手。
町の片隅で生きる、ありふれた日常の一コマ。
セイルは無意識に立ち止まる。
少年の胸の中――心の奥――に、淡く光る夢の断片が浮かび上がる。
それは、鉄を打つ音、火花の匂い、そして誰かに認められたいという小さな願い。
「……これが、夢……?」
触れることなく、夢の温度が手のひらに伝わる。
セイルは夢の書をそっと開き、何のためらいもなくその光景を記す。
文字は自然とページに現れ、夢の断片が本の中に宿った。
少年は何も気づかず、店に戻っていく。
セイルは背後で静かに見送る。
世界のすべては、こうして静かに流れていくのだ。
「夢を……記す、って、こういうことか」
まだ淡い理解しかない。
だが、初めて目にした人の夢は、セイルの心に小さな震えを残した。
そして彼は、確信する――
この世界で、夢を見つめ続けることが、自分の旅の始まりなのだ、と。




