白紙のページ
大学生だった星生は、ある日目覚めると見知らぬ空間に立っていた。
そこは光も闇も静かに溶ける神秘的な場所。
風もなく、時も止まったような空間。
星生は目を開けると、いつもの大学の教室ではなく、白く光る広間に立っていた。
空気は静かで、しかしどこか柔らかく、胸の奥をほんの少し温める。
「……ここは、どこだ……?」
声にならない声が漏れる。
そのとき、空間の中央に光が差した。
まるで光そのものが形を取ったかのように、白い衣をまとった女が立っていた。
その瞳は静かで深く、どこまでも神秘的だ。
だが、どこか母のような優しさを湛えている。
「あなたを呼んだのは、私、セレスティア。世界を見守る者です」
星生は言葉もなく、ただその場に立ち尽くす。
前世での自分の生活、平凡で、何の目的もなかった日々。
それが今、すべて溶けてしまったような気がした。
「ここで、あなたに与えたい使命があります」
女神の声は風のように柔らかく、でも揺るぎない。
その一言で、星生の胸に、奇妙な静寂と確かさが同時に訪れた。
「人は夢を見る。夢は光となり、時に生を導き、時に希望を照らす。
だが、その夢は消えゆくものでもある」
光の粒が周囲に漂い、まるで言葉が形になったかのように浮かぶ。
そして女神は告げる。
「あなたは――夢精霊として、人の夢を見届け、記す者となるのです。
この世界のすべての夢を、本として綴りなさい」
彼女の手元に、一冊の本が現れる。
表紙は白く、まだ何も書かれていない。
ページは無限にも思えるほど真っ白だ。
星生は手を伸ばし、自然とそれを受け取った。
「――夢を、記す……?」
前世の自分なら、この言葉を笑って受け流したかもしれない。
しかし今の彼には、不思議な納得があった。
目的も希望も持たずに生きていた自分が、初めて“使命”というものに触れた瞬間だった。
女神は微笑みともつかぬ表情で、静かに空間を満たす。
「人は夢を見、そして消える。しかし、あなたが記すことで、夢は形として世界に残る。
それを通して、あなた自身もまた、自分の道を見つけるでしょう」
その言葉とともに、光はやわらかく揺れ、星生の体を包み込む。
視界が白から青へ、青から緑へと移ろい、次第に世界の色が広がっていく。
――気がつくと、彼は森の小道に立っていた。
木々のざわめき、風の匂い、遠くで水のせせらぎ。
現実よりも鮮明な、しかしどこか夢のような世界。
「――ここが……セイル……?」
女神の声はもう聞こえない。
しかし星生の胸には、静かな決意とわずかな興奮が芽生えていた。
彼は夢精霊として、この世界の夢を見て、記し、理解していくのだ。
手にした本――夢の書。
その白紙のページが、彼のこれからの旅路を待っている。
小鳥のさえずり、森の息づき、微かな光のきらめき。
すべてが、まだ誰のものでもない物語の始まりだった。
夢って難しいものですよね。実際私も夢なんて思いつきません。だから自分もこんなふうに他の人の夢を見るのが好きなんです。




