表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/17

冒険者になる 05

 ギルドでの手続きを終えたあと、私たちは受付嬢に宿屋の場所を尋ねた。


「宿泊なら、この先の通りにいくつかありますよ。食事付きや素泊まり、いろいろ選べます」


 案内を聞きながら歩き出そうとしたとき、未紀が小さく首を傾げた。


「……あれ? 夏那さん、お金はどうしますか?」


 伊緒が私を見て、私も首を横に振る。もちろん、ポケットの中は空っぽだ。異世界に来てから、そもそもお金をどうやって手に入れるかなんて考えていなかった。


 受付嬢は、そんな私たちの様子に気付いて、くすっと笑った。


「もしかして、この大陸のお金を持っていないんですか? それなら……お手持ちの物を売ってみてもいいかもしれませんね。見たところ、こちらでは見かけない装飾品を身に着けていますし、こちらで高く買い取れますよ」


 なるほど、確かに今の私たちにはそれしかない。


 伊緒が自分の髪を触りながら、少し迷ったように言った。


「じゃあ……私、このシュシュを売るよ〜。お気に入りだけど、また作ればいいし〜」


 私は手首のブレスレットを外して、受付嬢に見せる。


「じゃあ私はこれ。今は生き延びるのが先だし」


 未紀は耳元のピアスを外して、小さく微笑んだ。


「私も売ります。宿泊できないのは困りますから」


 受付嬢は品物を丁寧に受け取り、奥の商業部へ運んでいく。数分後、小さな革袋を手に戻ってきた。


「全部で銀貨九十枚ですね。宿泊費は一泊銀貨二枚、ご飯付きなら銀貨三枚なので……三十日くらいは大丈夫でしょう」


 革袋を受け取った未紀が、中身をざっと数えて頷く。


「これなら、しばらくは安心ですね」


「おすすめの宿屋はこの先を右に曲がったところです。料理が美味しくて、おしゃべり好きな女将さんがいる宿ですよ」


 こうして私たちは、初めての異世界の宿へ向かった。



=====



 受付嬢に教えられた通り、通りを右に曲がると、木造二階建ての宿屋が見えてきた。入口には花の鉢植えが並び、温かい雰囲気が漂っている。


「いらっしゃい!」


 カウンターの向こうから、ふくよかで笑顔の女性が手を振った。


「ギルドの紹介で来ました。三人で泊まりたいんですが」


「はいはい、空いてますよ。かわいい女の子たちだね」


 鍵を受け取り、簡単な自己紹介をすると、おばちゃんは目を輝かせて身を乗り出した。


「お客さんたち、この街は初めてかい? ここルーデンは商業の町でね、服屋や武器屋がひしめいてるんだよ。 ただ、街の外に出るときは気をつけな。昼間でもゴブリンやオークが出るし、夜はもっと危険さ。魔物の目が光って、あっという間に囲まれるんだから」


 伊緒が少し身をすくめる。


「……やっぱり、夜は出ない方がいいね〜」


「そうそう。日が沈んだら、みんな宿で過ごすもんさ」


 銀貨三枚を渡すと、「夕食は一時間後だからね」と言って、二階の部屋へ案内してくれた。


 部屋はこぢんまりとしているが、木の温もりが感じられる作りで、窓からは夕暮れの街並みが見える。ベッドは二つしかなかったが、私たちは並べて三人で寝ることにした。


「……なんか、修学旅行みたい〜」


 伊緒がベッドに倒れ込みながら笑う。


「たしかに。でも、これからのことをちゃんと考えないと」未紀が真面目な声で言った。


 私も靴を脱ぎながら、明日の予定を思い浮かべる。


「まずは、もう一度ギルドに行こう。今日は登録だけだったし」


「そうですね。できそうな依頼があるか、聞いてみましょう」未紀が頷く。


「お金も少しは稼がないとだし〜 新しい服も買いたいね〜」伊緒がベッドの上で足をぱたぱたさせる。


 明日の動きが決まると、少しだけ安心した。


 異世界での一日目の夜は、こうして静かに更けていった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ