冒険者になる 01
「……それで、私たちは、どうしてここに?」
草原の真ん中で、私たちは向かい合って座り込んだ。
空はどこまでも青く、見渡す限りの草と花。アスファルトも電線も、どこにもない。
さっきまでバスに乗ってたのに――今は、完全に別世界だ。
「私……女神様に会いました。そこで《聖魔法》というスキルを授かったんです」
未紀が胸の前で手を握る。真面目な顔だけど、その声にはまだ少し驚きが混じってる。
「なんか……体もすごく軽くて……病院にいた頃とは別人みたいです」
「わたしも〜。《音魔法》っていうのをもらったよ〜」
伊緒がニコニコしながら手を振る。
「音が……聞こえるんだよ〜。夏那ちゃんの声も、未紀ちゃんの声も」
そう言って、私の方をじっと見つめてくる。その視線が妙にうれしい。
私は胸を張って言った。
「私もスキルをもらったよ。《身体操作》! どんな動きもできるってやつ!」
その場で軽くステップを踏んでみせる。自分の足がちゃんと地面を蹴る感触が、何度やっても信じられない。
「……だから、動けるんですね」
未紀が納得したように頷く。
「そういうこと〜」
伊緒も笑う。
3人で顔を見合わせて、改めて今の状況を共有する。
――突然の事故、女神との出会い、スキルの授与。
「たぶん……ここは、異世界なんですよね」
未紀が空を見上げながら言った。
「街を探しましょう。水や食べ物も必要ですし、情報も欲しいです」
「おっけー! じゃあ歩こう!」
「うん〜」
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私たちは並んで草原を歩き始めた。
歩きながら、自然とそれぞれのスキルを試してみることになった。
伊緒は両目を細めて立ち止まり、周囲を見回す。
「……これが音……色で見えるみたい〜。遠くの草の揺れとか、小さな虫の羽音までわかる〜」
その指先が空をなぞるたび、見えない輪郭が浮かび上がるように感じた。
未紀は両手を胸の前で合わせ、そっと息を吐く。
すると、指先から柔らかな光がにじみ出た。
「……温かいです。これが魔力……なんですね」
その光はすぐに消えたけれど、見ているだけで心が落ち着くような輝きだった。
「へぇ〜、魔法ってかっこいいなぁ!」
私はというと――やっぱり身体を動かしたくてうずうずしていた。
軽くスキップ、ジャンプ、回し蹴り。さらに調子に乗って、バク転! ……からの逆立ち!
「見て見てー!これもできるよ!」
「ちょっと、危ないですよ」未紀が苦笑する。
「夏那ちゃん、元気すぎ〜」伊緒がゆるく笑う。
もう動けることが楽しくて、止まってなんていられなかった。
そんなふうにふざけながら進んでいたとき――。
「……二人とも、止まって〜」
伊緒の声が急に真剣になる。耳を澄ませるように顔を傾け、前方をじっと見つめた。
「何か……変な音がする〜。草の揺れる音……普通じゃない」
私と未紀は顔を見合わせた。
その直後、前方の草むらがガサガサと大きく揺れ、中から灰色の皮膚と小柄な体――牙をむいた生き物が現れた。鋭い耳と黄色い目。手には粗末な槍を持っている。
「……ゴブリン……?」
未紀が小さく呟く。小説やゲームでよく見るあの姿が、今は生々しく目の前にいる。
しかも、こっちを見てニヤリと笑った。
「ちょ……これ、ヤバいやつだよね!?」
私の声が裏返った瞬間、ゴブリンが武器を構えて突っ込んできた――。