閑話 伊緒の休日
その日は冒険の予定もなく、久しぶりに一人で街を歩いてみることにした。
伊緒は胸を弾ませながら、石畳を軽やかに進んでいく。
「今日はね~、音をいっぱい楽しむ日~!」
向かったのは楽器屋。
扉を開けると、木の香りと共に並べられたリュートやハープ、笛が目に飛び込んできた。
「わぁ~! 見てるだけでワクワクする~!」
店主に断って、リュートを軽く弾かせてもらう。
ポロンと弦をはじいた瞬間、柔らかい響きが空気を揺らした。
次に小さな笛を吹いてみると、澄んだ音が店内に広がる。
「ふふ~、どれもぜんぜん違う音色~。全部かわいい~!」
楽器屋を後にすると、街の外れにある草地へ向かった。
鳥のさえずり、犬の吠える声、遠くの牛の鳴き声……耳を澄ませば、いろんな声が重なり合っている。
「にゃー……わんわん……」
伊緒は真似をして口ずさみ、くすくす笑った。
そのまま広場へ出ると、ちょうど吟遊詩人が歌を披露していた。
弦を爪弾き、伸びやかな声が夕暮れの風に溶けていく。
伊緒は夢中で聞き入り、足でリズムをとりながら体を揺らした。
「わぁ~……やっぱり、生の歌ってすごい~!」
夜になり、帰り道。胸いっぱいに音を抱えて歩いていると、自然と口が開いた。
「ら~らら~♪ あはは、声も楽器みたいだね~!」
高い音、低い音、早いリズム、ゆったりした旋律。
自分の声を好きなように操りながら、石畳に歌声を響かせた。
「音って、ほんとに無限だね~。いっぱい聞いて、いっぱい遊ぼ~!」
伊緒の笑顔は、夜空に浮かぶ星のようにきらめいていた。




