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C級昇格依頼 05

 ――ぐしゃり、と鈍い音を立てて、巨大な蜘蛛が完全に沈黙した。


 私は荒い息を吐きながら、トンファーを地面に突き立てた。胸が大きく上下し、全身から汗が噴き出している。心臓の鼓動がまだ戦いの余韻を叩き続けていた。


「っはぁ、はぁ……やった……のかな……」


 崩れ落ちるように膝をついたとき、かすかな声が耳に届いた。


「……夏那、さん……」


「未紀!」


 横たわっていた未紀が、少しずつ上体を起こしていた。顔はまだ青ざめていたが、その瞳にははっきりと光が戻っている。彼女は震える手でロッドを握りしめ、唇を動かした。


「――《キュア》!」


 ロッドの先端が光を帯び、柔らかな光の粒子が私たちを包み込む。じんわりと温かさが染み渡り、痺れていた手足に血が巡っていくのが分かった。


「……あ、動ける!」


「うぅ~……生き返ったぁ~」


 私と伊緒は同時に声を上げる。麻痺毒で鉛のように重かった体が、徐々に軽くなり、指先まで自由に動かせるようになっていた。


 未紀はまだ地面に横たわったままだったが、治療の光を保ちながら小さく笑った。


「大丈夫……少しずつ、完全に抜けますから……」


 伊緒はすぐに立ち上がり、ワンドを手に洞窟の奥を見渡した。鈴がシャリンと鳴り、音の波が広がっていく。


「……うん。もう敵の気配はないよ~。蜘蛛も、他の魔物もいないみたい~」


 その言葉に、私は胸をなでおろした。


 しばらく静かな時間が流れる。私たちはそれぞれ、無事を確かめ合うように視線を交わした。


「……危なかったですね」


 最初に口を開いたのは未紀だった。まだ体を起こすのも辛そうにしながら、真剣な顔で言う。


「ほんとだよ~」


 伊緒も肩を落とす。


「ちょっとした油断で、命を落とすところだったんだもん」


 私は唇を噛んでうつむいた。


「私……楽しかったんだ。体が動くのが嬉しくて、夢中で戦って……でも、二人が倒れたとき、心臓が止まるかと思った。遊びじゃないんだって、思い知らされた」


 重い沈黙。だが、それは決して暗いものではなく、三人が同じ思いを共有した時間だった。


「うん。命がけ、ですよね」未紀が言葉を締める。


「でも、一緒に生き残れたのは、すごく大きな意味があると思いますよ」


 私はうなずき、伊緒もにっこりと笑って同意した。


 私たちは、まだ未熟だ。けれど、この経験が次につながる。そう強く思えた。


 やがて未紀も完全に動けるようになり、私たちは蜘蛛の死骸に近づいた。


「魔石……回収しないとね」


 腹部を切り裂くと、紫色に光る魔石が姿を現した。通常のものよりも二回りは大きい。両手で抱え込むようなサイズで、妖しくも美しい輝きを放っていた。


「わっ……すごい大きさ」


「ボスだったのかな~?聞いていた話と違ったね~」


 私たちは目を合わせ、思わず笑みをこぼした。命懸けの戦いをくぐり抜けたことで、そこに立っていること自体が奇跡のように感じられた。


 他の蜘蛛からもいくつか魔石を回収し、袋に詰める。


「これで依頼は達成ですね」未紀が安堵の息をつく。


「うん。早く外に出よう」


 洞窟を歩き、暗闇の出口が見えたとき、胸の奥に光が差したような気がした。


 冷たい湿気の空気から、外の風に変わる瞬間――生き延びた実感が込み上げてくる。


 こうして、私たち三人は洞窟を後にした。

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