C級昇格依頼 01
「指定依頼は……ダークスパイダー二十匹の群れ討伐です。この討伐に成功すれば、C級に昇格できますよ」
ギルドでアンナが差し出した依頼書を、私たちは覗き込んだ。そこには黒々とした蜘蛛の絵が描かれている。
「うわぁ~虫……」
伊緒が顔をしかめる。
「正直、私も苦手です……。でも、放置すると村に被害が出るって書いてありますね」
未紀が真面目な顔で依頼文を読み上げる。
私は腕を組み、少し唸った。
「蜘蛛かぁ……正直気持ち悪いけど、これも冒険者の仕事だもんね。やるしかないか」
アンナは頷きつつ、注意を促した。
「巣がある洞窟は街から歩いて一日半の距離です。食料やテントを準備して行ってください。途中の森にはゴブリンも出ますし、夜は特に危険ですから」
こうして私たちは、初めての長期探索依頼を受けることになった。
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翌朝、私たちはパンや干し肉、テントや簡易の調理器具を買い揃えて街を出発した。
「こうやって大荷物で移動すると、冒険者って感じがするね!」
「未紀のリュックが一番大きいけど、重さは大丈夫~?」
「ちょっと重いけど大丈夫です。長距離の移動となるとやっぱり体力いりますね」
途中、数匹のゴブリンに遭遇したが、これまでの討伐で自信をつけている私たちには大した相手ではない。伊緒の音撃と、私のトンファーがしっかり噛み合って、危なげなく倒すことができた。
日が傾き始めた頃、川辺の開けた場所でテントを張ることにした。
未紀が手際よく布を張り、伊緒が火を起こす。私は川で水を汲んで戻ってきた。
「よし、完成!」
並んだ小さなテントの前で腰を下ろし、パンをかじる。硬いけれど、歩き疲れた身体には十分に美味しい。
ふと空を見上げると、街では見えなかった無数の星が広がっていた。
「うわぁ……こんなに星が見えるんだ」
「すごいですね。流れ星まで見えますよ」
「ほんとだ~! 冒険してる~って感じがするね!」
パンを片手に、私たちはしばらく夜空を眺めていた。虫の声と焚き火のぱちぱちという音が、心を落ち着かせていく。
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やがて眠気が強くなり、交代で見張りをする約束をして横になった。
しかし、深夜。
「……っ!」
伊緒が目を見開いた。耳に届いた微かな音――木々のざわめき、草を踏みしめる足音。しかも複数。
「夏那ちゃん! 未紀ちゃん! 来るよ!」
私が寝ぼけ眼で起き上がるよりも早く、暗がりから七体のゴブリンが飛び出してきた。
「えっ!? も、もう来たの!?」
武器を掴もうとするが、身体がまだ重い。
「大丈夫、任せて~!」
伊緒は素早く立ち上がり、ワンドを振り下ろした。
――シャリン!
音の波が地面を駆け、敵の位置を正確に浮かび上がらせる。
続けて横に払うと、音撃が鋭く集中して二体のゴブリンを吹き飛ばした。
「次~!」
振動が連続して放たれ、立て続けに三体が倒れる。残り二体が叫び声を上げて突っ込んできたが、伊緒は冷静に足を踏み込むと、下からワンドを打ち上げた。
――ガァンッ!
響いた金属音のような衝撃で、残りの二体も崩れ落ちる。
私はようやく完全に目を覚まし、呆然とその光景を見ていた。
「い、伊緒……一人で全部?」
「うん……ちょっと驚いたけど、やればできるもんだね~」
伊緒は照れ笑いを浮かべ、未紀も安心したように息をついた。
私は頭を掻きながら、苦笑いをした。
「本当にごめん……寝ぼけてて全然動けなかった。助かったよ」
だが未紀は首を横に振った。
「仕方ありません。だからこそ、交代で見張りを続けるべきですね。誰か一人が常に起きていれば、こうした時も慌てずに済みます」
「そうだね。次からはちゃんと気をつける」
戦闘が落ち着き、倒れたゴブリンの魔石を回収してから、私たちは改めて交代で見張りをすることにした。
焚き火の赤い光がゆらめく中、それぞれが順番に夜を過ごし、やがて新しい朝がやってくる。




