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冒険者になる 11

 森の出口が近づき、夕暮れの光が差し込む頃だった。


 伊緒がふと耳を澄ませ、顔をしかめる。


「……あれ~? すごい速さで何かがこっちに来る音がするよ~!」


 彼女の声に、私と未紀は身構えた。


 次の瞬間、茂みを突き破って現れたのは、大きな体躯の猪――グレートボアだった。人の背丈ほどもある巨体が、土煙を上げて一直線に突進してくる。


「危ない!」


 未紀が咄嗟に前へ飛び出し、両手を突き出す。


「《バリア》!」


 透明な光の壁が瞬時に展開され、突進してきた巨体を真正面から受け止めた。


 轟音と共に衝撃が走り、地面が揺れる。未紀の足元がずるずると押し込まれたが、壁は砕けず、グレートボアの動きを止めている。


「くっ……重いですが、止められます!」


 その隙に、横から伊緒がワンドを振り下ろした。


「えいっ!」


 シャリンと澄んだ音が響き、振動が一点に集中する。空気を震わせた音撃が、グレートボアの全身を直撃した。


「ブオオオッ!」


 巨体がのけぞり、苦しそうに呻く。


「夏那、今!」


「任せて!」


 私は地面を蹴り、止まった巨体の頭上へ飛び上がる。回転するトンファーを全力で振り下ろした。


 ガキィンッ!


 鈍い音と共に、分厚い頭蓋に直撃。グレートボアの体が大きく揺れ、そのまま崩れ落ちた。


 土埃の中で動かなくなった巨体を見下ろし、私は息を荒げながらも笑った。


「……ふぅ、なんとかなったね」


 目の前のグレートボアは、分厚い毛皮に覆われ、見た目には肉付きがよくて美味しそうに見える。


 伊緒はじっと眺めて、ぽつりと言った。


「ねえ……こういうのって、焼いたら絶対おいしいやつじゃない? アニメとかでよく見るやつ~」


 私も思わず唾を飲んだが、未紀が冷静に首を振った。


「でも、とても持ち帰れませんし……それに、この世界の魔物の肉は毒があることが多いと宿で聞きました。安全かどうかはギルドで確認しましょう」


「そっか~……残念」


 伊緒が肩を落とす。


 私たちは結局、魔石だけを取り出して荷袋に入れ、森を抜けてギルドへ向かった。



=====



 受付カウンターに魔石を並べると、アンナが目を丸くした。


「えっ……グレートボア!? 本当にこれ、あなたたちが倒したんですか?」


「はい。森の帰り道で襲ってきたので、協力して……」


 未紀が淡々と説明すると、アンナは驚きながらも笑みを浮かべた。


「いやぁ、すごいですね。グレートボアなんて新人が相手にする相手じゃないんですよ。熟練者でも油断すれば大怪我しますから」


「でも、思ったより強そうに見えなかったな。勢いはすごかったけど」


 夏那が肩をすくめると、アンナはくすっと笑った。


「そう感じられるなら本物ですね。……あ、ちなみに魔物の肉は危ないですよ。ほとんどの種は体内に毒素を持っていて、人間が食べると命に関わるんです。だから基本的に魔石以外は使い物になりません」


「やっぱり!伊緒が食べようとしてなくてよかったね」


「ちょっと! そこまでは言ってないよ~!」


 伊緒が頬を膨らませ、私たちは笑い合った。



=====



 アンナは魔石を一つ一つ確認していく。


「ゴブリン十体で銀貨二枚。そして……グレートボアは銀貨三枚ですね」


 小袋にまとめられた銀貨を手渡しながら、真剣な表情になる。


「あなたたち、もうC級相当の実力はありますよ。本来ならゴブリンの群れだけでも十分な実績なのに、グレートボアまで討伐できるなんて……。今後は指定依頼、つまりギルドから直接斡旋される少し難しい依頼も受けてみませんか?」


 私たちは顔を見合わせた。


 異世界に来てまだ数日。けれど、確かに自分たちの力が通用する手応えを感じていた。


「うん、それ面白そう!」


「次はもっと色んな依頼に挑戦してみたいですね」


「私も~。強い魔物に会っても、もう少し戦えそうだし!」


 自然と笑みがこぼれた。

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