表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/22

冒険者になる 07

 ポーチやリュックを買った後、私たちは薬草採取で街を出た。


 夏の光が林の木々の間から降り注ぎ、葉の隙間をすり抜ける風が心地よい。土の匂いと草の青い香りが混ざり合い、私たちの足取りを軽くする。


「林ってもっと薄暗いかと思ったけど、案外明るいんだね〜」


 伊緒がそう言って、両手を広げて深呼吸した。


 未紀は頷きながら、視線を木の根元へ落とす。


「薬草はこの辺りの木の根元に多いみたいですね。……ほら、白い蕾がついているでしょう」


 彼女が指さした先、緑の葉に包まれるように白い蕾が顔を覗かせていた。小ぶりだが、確かに依頼書に描かれていた薬草と一致する。


「ほんとだ! ゲームのアイテムみたい!」


 私がしゃがみ込んで摘もうとすると、伊緒が耳を澄ませて首を傾けた。


「音魔法で見つけられるかも~。この辺りにもっとあるよ〜」


 伊緒の《音魔法》は、どうやら物の細かな形を感じ取ることにも使えるらしい。音の反響で周囲の様子を探る――まるで超音波を使った探索のようだ。


 彼女に案内されながら歩くと、確かに薬草が次々と見つかっていった。


「これなら効率的に集められますね」


 未紀が感心したように微笑む。


 私たちは次々と薬草を摘み、束ねていった。2時間もすれば十分な数――十束を超える薬草を集めることができた。


「よーし! 依頼達成だね!」


 腰に手を当てて声を上げると、伊緒がくすっと笑った。


「うん。でも……なんだか物足りないな〜」


「せっかくならモンスター倒したいよね!」私が頷く。


 薬草探しは順調だったけれど、胸の奥にわずかな不満が残る。


 せっかく異世界に来て、スキルを授かったのだ。歩いて草を摘むだけでは、どうにも退屈だ。やっぱりモンスターを相手に、自分たちの力を試してみたい――そんな気持ちが強くなる。


 そのとき、ぴちゃん、と湿った音が響いた。


「……音?」


 伊緒がぴくりと肩を震わせ、耳を澄ませる。


「近くに何かいる……前方、十メートルくらい」


 私たちは思わず身構えた。木々の隙間から、ぷるん、と半透明の塊が跳ねて出てきた。


 陽光を受けてきらめくゼリー状の体。全身が震え、どろりとした粘液が滴り落ちる。


「スライム……だよね、これ!」


 思わず声が上ずる。


 スライムはぴちゃん、と音を立てて跳ね、じりじりとこちらへ近づいてくる。動きは遅いが、確かに敵意を向けているのが分かる。


「……私、やってみる!」


 伊緒が一歩前に出た。胸の前で両手を組み、力を集中させる。


「《音撃》!」


 高く鋭い音が空気を震わせた。次の瞬間、スライムの体が大きく波打ち、内側から弾け飛ぶように破裂した。


 ゼリー状の欠片が辺りに飛び散り、残ったのは小さな青い結晶の魔石だった。


「……やった! 一発だ!」


 伊緒が目を輝かせて振り返る。


「すごい……本当に魔法で倒せるんですね」


 未紀が驚きながらも魔石を拾い上げる。


「これだよ、これ! こういうのが異世界って感じ!」


 薬草を摘むよりもずっと心が躍る。自分の力で敵を倒す――その実感に、思わず拳を握りしめた。



=====



 林を後にし、ルーデンの街へ戻る。夕暮れの中、私たちは冒険者ギルドに入った。


 カウンターの向こうにいた受付嬢が笑顔で手を振る。


「おかえりなさい! どうでした?」


「薬草は十束集まりました。それと……スライムを一体倒しました」


 未紀が差し出した袋の中には、束ねた薬草と小さな魔石。


 アンナは品物を受け取り、慣れた手つきで確認する。


「はい、薬草十束で銀貨一枚。それから、スライムの魔石が銅貨十枚ですね。お疲れさまでした!」


 机の上に並べられた銀貨と銅貨を見て、伊緒がちょっと首を傾げた。


「……思ったより少ないな〜」


 未紀が柔らかく補足する。


「でも今日は初日ですし。まずは無事に依頼をこなせただけで十分ですよ」


 そう言いつつも、私の心はまだ高鳴っていた。


 スライムとの戦闘。ほんの一瞬だったけど、確かに自分の力を使って異世界のモンスターを倒した。その興奮は、報酬の額よりもずっと価値があるものだった。






「よかったら、このあと一緒に食事しませんか? 近くに美味しい洋食屋があるんです」


 受付嬢のアンナがにこやかに誘ってくれた。


「え、いいんですか?」


「もちろん! 新人さんとお話できるの、楽しみなんですよ」


 私たちはアンナと連れ立って街の洋食屋へ。焼きたてのパンと香ばしい肉の煮込み料理、そして甘い果実のデザートが並ぶ。


「このお店のお肉、とても美味しいね!」


 私が目を輝かせると、伊緒は頬をふくらませながら「デザート最高〜」と笑う。


 アンナはそんな私たちを見て、嬉しそうに頷いた。


「これからも無理せずに、少しずつ慣れていってくださいね」


 異世界での知り合いも増えて、楽しい食事の時間はあっという間に過ぎていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ