【番外】完全無欠のハッピーエンド
本編終了後、少しした後のお話です。
ミュリア王国に戻ってから、私たちは慌ただしい日々を過ごした。
そもそも、帰りの道中はトルイス帝国、カンス侯爵家の息が掛かったものたちから隠れながら王宮へ向かい、隠し通路から国王陛下と合流。
それからは、イリガード死亡の知らせと、隠し子の存在を否定するために大々的に知らしめる必要があったため、情報収集と社交の準備に勤しむ必要があった。
そして、準備を整え、大規模な夜会を行おうとした日。カンス侯爵家の赤子を、正式に後継と認めると思わせ、関係者を誘き出した、その日。
偶然か必然か、援兵を連れてきたカヴラグル王が登場したため、会場は混迷を極めた。
「ミュリア王よ!! 約定に従い、援兵を連れて参った!!」
カヴラグルの特産品を手土産に持って来ていたが、交易前の周知の目的もあったのだろう。宣伝をしまくり、カヴラグルの長所をこれでもかと伝えていた。
「か、カヴラグル王……」
「おお、聖女よ。イリガード殿も一緒か。いや、二人とも仲睦まじくて何よりだ」
更には、頼んでもいないのだが、イリガードがカヴラグルまで私を迎えに来た話を、良く通る声でしてくれた。
合間合間に、二人の愛に胸を打たれて聖女には触れていない、とか、我が国から離れるのは残念だが国同士仲良くしていきたい、とか耳障りの良いことを言い、ミュリア貴族からの好感度も稼いでいた。
やはり、強かな王である。
しかし、そのお陰で、動揺したカンス侯爵家の捕縛及び尋問はスムーズに行えたし、シノン・ジュダスに至っては、イリガードの顔を見た瞬間に顔を真っ青にして気絶した。
そこからは、二度と思い出したくないし、経験したくない忙しさであった。
私は、ひたすら茶会や夜会と社交に勤しみ、カヴラグルでの日々やイリガードとの馴れ初めを聞かれまくった。
空いた時間は、今回の件を受け、国王陛下が引退を早めることにしたため、詰め込みで王妃教育を受けることとなった。
イリガードは、軍議に参加してトルイス帝国との戦に備えるだけでなく、シノン・ジュダスの犯行について確認も行われた。
副官であったパトリックは、未だ行方がわかっていない。捜索も続けられているが、既に生存は絶望的だと思われていた。
以前と同じ、王宮で、いつでも会える環境に戻ったというのに、朝食の時間くらいしか顔を合わせることもないくらい、忙しい日々だった。
そんな日々も、トルイス帝国が正式に撤退、停戦協定を結び、カンス侯爵家の一件も裁判が終わると落ち着いて来て。
まともに三食共に過ごせるようになって一週間。昼間にデートに出かけること、二回。
そろそろ心の準備もできたということで、遂に、二度目の初夜を行うことに、なった。
「……その。そろそろ、落ち着いて来たし。今晩、いいか?」
「えっ」
盛大に声を上げてから、もう結婚式は終わってるし、初夜も中断したが一度は挑んでいるので、二度目のタイミングなんて、いつでも良いことを思い出した。
「…………嫌か?」
「そ、そんなことは、ない、デス……」
その会話をしてから、記憶が曖昧になっていて。気付けば、全身を磨かれ、スケスケの夜着を纏って。
純白のシーツの上に横たえられ、覆い被さるようにイリガードが迫っていた。
とても覚えのある展開である。
「…………今度こそ、邪魔は入らないから」
「イリガード……」
良い雰囲気だけど、それってフラグでは。そう思った、次の瞬間。
物凄く申し訳なさそうな、控えめなノックが部屋に響いた。
「…………まさか」
「すみません。が、明日の朝まで待った方が、怒るかと思いまして」
その声は、とても、覚えのあるもので。イリガードは私にシーツを巻きつけて、しっかりと抱えたまま扉へと走る。
「「パトリック!!」」
勢いよく扉を開き、押し倒す勢いでパトリックに抱きつく。全身、包帯が巻かれているが、しっかりと両足で立っている。ちゃんと、帰って来たのだ。
「…………ただいま、もどりました」
もちろん、この後は初夜を再開する雰囲気にはならなかったし、シーツを巻いただけの格好で出たことを、二人揃ってパトリックに叱られたのだった。
こちらの話と同じ世界の話です。
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