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休息の来訪

 世界が滅びかけているのだという。私はただ夢を見る。眠っている時には鮮明に、起きている時には朧気に、幸せにひたる夢を見る。

 善と幸福だけが集まった精神世界があった。いつからか、私はそこに住んで暮らす夢を見ていた。人々の行動に善良さしかなく、毎日が幸福な生活だった。私は満足していた。

 夢の中で私は、ギリシャ神話の神々の一人だった。さらに、王侯でもあり、貴族でもあり、庶民でもあった。ギリシャの神々から尊敬を集めていた。神々と共に神殿を建造して遊んでいた。自分たちを礼拝する神殿を自分たちで作るのが楽しかった。神殿に攻め込んでくるものとは、仲間の神々と共に戦った。戦友との協力を心の底から喜びに感じた。私は、神々からも庶民からも尊敬され、毎日のように私を讃える会話を聞いた。私たちは庶民と仲が良かった。私たちは異民族の運命すらも決めていた。善良に幸福に決めていた。キリスト教では、神はすべてのイデアのひとそろいであるという。ギリシャ哲学では、万物は「善のイデア」から始まり、やがて最後に「善のイデア」に至るという。私は、夢の中で「善のイデア」に近付いた世界に住んでいるのだ。

 悪意のもたらす損失がなくなった世界。私たちはすでに「善のイデア」に至ったのだろうか。誰が私の夢を維持しているのだろうか。

 誰かが私に、世界が最後にはこのような幸せな結末で終わることを教えてくれているのだ。現実では世界は滅びかけているのに。滅びかけた世界で生きる我々を勇気づけるために、誰かが私たちに善と幸福しかない世界を夢で見せているのだ。

 物質世界という資料の世界から離れ、精神世界である形相の世界に生きている。神の霊があるかもしれない霊体の世界に生きている。私の体の霊体が夢の中で精神世界を訪れている。ここが本当の世界なのだ。本当の世界の夢を私は見ているのだ。

 私たちは地上に影を落として生きていた。私たちは愚かであるので、自分が精神世界のイデアであることに気付かなかった。私たちは地上に落ちた自分の影を見ていた。私たちは本当はみんな善であり幸福である精神世界のイデアだったのに。

 この夢は覚めることはない。世界の真実が地上の影ではなく、精神世界のイデアにあるために。

 私はだんだん精神世界のことがわかってきて、自分の地上の影を使って遊ぶようになった。私は地上でも神々の一人になろうとして、地上でも自分の神殿を建築しようとした。そして、地上でも神殿に攻め込んでくるものに対して、神々の仲間と協力して戦った。

 私の地上の影はなかなか優秀で、束縛の多い地上でちょっとは成功した。そんな夢を私はずっと見ていた。

 ここがこの世界の本体だ。外なる神が攻めてくるなら、このイデアの世界に攻めてくるはずなのだ。勝てるだろうか。


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