アルスvs襲撃者
「ライトプロテクト、トラッキングカトルペネトレイション」
光防御魔法と同時に追尾する4つの光攻撃魔法を放ったが、エクウスの炎を纏った剣でそれらの魔法は弾かれていった。
「チッ、やっぱ森精族相手はめんどくせーな。」
鬱陶しそうな表情をアルスに向けたが、まだまだ余裕そうではあった。
光攻撃魔法を弾いたエクウスはアルスに距離を詰めに行った。
「ホーリーレイ。なら早くやられたらどうですか?その方が楽ですよ。」
「いや...てめぇを殺す方が楽そうだな。コンフラグレイション」
正面から放たれたアルスの魔法を避け視界から消えると、背面から上級炎攻撃魔法を放った。
しかし炎に包まれていたアルスは無傷のまま姿を現した。
「どういうことだ?中級防御魔法で上級魔法が防げるはずがない...」
「さぁ?何故でしょうね。ライトディセミネイション。」
上級魔法を防がれた事に驚きつつ距離を取ったエクウスに対してアルスは追撃を辞めなかった。
「フレアディセミネイション」
「ホーリーレイ」
拡散された光攻撃魔法に対して同じく拡散型の炎攻撃魔法で対処したエクウスに、アルスは再び中級光攻撃魔法を放った。
「その程度の魔法を何度撃とうが俺は倒せねぇぞ。」
「クッ、ライトプロテクト、ライトディセミネイション」
しかしまたもや避けられ、エクウスが今度は剣でアルスに対し近接攻撃をし始めた。
アルスは光防御魔法で防ぎつつ、光魔法で攻撃を放ち、一定の距離までエクウスを引かせた。
「(こいつ、俺を倒そうとしてるわけじゃないのか?一体何が目的だ...)」
距離を取らせられたエクウスは、アルスが上級以上の魔法を使っていないことに疑問を抱いていた。
「僕なんかに苦戦するなんて、あなた大したことないみたいですね。」
「さっきから俺に何の有効打も与えられてねぇじゃねぇかよ。」
何かを考えている様子のエクウスに対して煽るようにアルスが話しかけた。
それにムカつきながらも、下手に動くのは相手の策にハマると思っていたエクウスは、煽るだけにした。
「そうですか?僕の方が魔力量が多いですし、このまま魔法の撃ち合いをしていれば、僕が勝ちますよ。」
エクウスが何を考えているのかをアルスは分からなかったが、何かを思いつき自分が今考えていることを話した。
「なるほどな。てめぇ、俺の魔力切れを狙ってたって訳か。だがそれは俺の魔力が切れるまでてめぇが生きてたらの話だろ。」
「ライトプロテクト」
「コンフラグレイション」
炎を纏った剣で斬りかかったエクウスだったが光防御魔法で防がれると、間髪入れずにゼロ距離から上級炎攻撃魔法を放った。
「ホーリーレイ(テレポート)」
中級光攻撃魔法が正面から飛んできたが、その魔法を弾いた後アルスの姿が見えなかった。
しかし、アルスが魔法を使ってくると思ったエクウスは背後からの攻撃が来ると感じ取った。
「後ろだろ。」
振り向きながら剣を振ったエクウスだったが、その剣は空を斬りアルスに当たることはなかった。
「リレイズ。アクセラシオン、フィズインクリース、エンチャントリース。」
アルスはエクウスの持っていた剣に纏っている炎魔力を解除したのち、加速・物理強化・光魔力付与の3つの魔法を同時に自分に掛け、エクウスの横腹を蹴り飛ばした。
蹴り飛ばされたエクウスは周辺にあった建物に激突し、その衝撃で倒壊した建物の瓦礫に埋まった。
「魔法使いで非力な森精族に蹴られる気分はどうですか?」
「クッソ最悪な気分だ。だが3種類の魔法の同時詠唱って手の内は見せるべきじゃなかったな。」
ドヤ顔なアルスはエクウスに向けて嘲笑していた。
瓦礫の山から出てきたエクウスは不機嫌そうにしていたが、アルスの攻め方を知り、少し余裕が出来たようだった。
「別にいいですよ、どうせ魔法だけで倒せるとは思っていなかったですし。これで少しでもあなたにダメージが入ってるなら、手の内を明かした価値はありますよ。建物は後で仲間に直してもらうので気にする必要はないですしね。(ソイルさん、すみません。)」
「ッハハ!いいぜ、こっちは元からてめぇを殺す気だったんだ。互いに手の内をさらしての本気の戦い。面白いじゃねぇか。」
ドヤ顔嘲笑を続けながら解説していたアルスに対してイラつきながらも、久々に楽しめると感じたエクウスはさらにやる気を出した。
「イビルレイン」
「ライトプロテクト。シャイニングディセミネイション。ブライトペネトレイション」
今までのような炎魔法ではなく、闇属性の魔法が雨のように降り注いだ。
アルスは光防御魔法と上級光攻撃魔法を2つ放った。
1つはエクウスが放った魔法と相殺させ、もう1つはエクウス本人への光線型の攻撃魔法だった。
「メランゼーデル。カースド・レイ。アクセラシオン。」
しかしアルスが放った光線型の攻撃魔法は上級闇攻撃魔法の斬撃と相殺した。
さらにエクウスは上級の闇属性光線型の魔法をアルスに対して放った。
「シャイニングプロテクト」
「1つに集中させたな。」
エクウスから放たれた魔法を防ぐために展開した上級光防御魔法は、正面からの魔法攻撃を防ぐことはできたが、その魔法に魔力を集中させたため、その隙をエクウスに突かれたアルスは、背中に剣での斬撃を受けてしまった。
「うっ...フラッシュ、テレポート。(カモフラージュ)」
痛みをこらえながらもエクウスの視界から外れるべく、閃光魔法と転移魔法を使い、建物の陰に隠れた。
「てめぇが同時に詠唱できるのは中級魔法まで、だが6位階魔法であるカースド・レイを防ぐには上級光防御魔法が必要だ。...早く出て来いよ。じゃねぇと、この辺り一帯ごとてめぇを燃やしてやるよ。」
エクウスは同時詠唱の事について堂々と話し始めた。
それと共に、姿を晦まし先程までの戦闘から一気に逃げに回ったアルスに怒りを覚えていた。
「(...レータ。これであいつ、多分だけど最上級魔法を撃ってくるはず。僕が最上級魔法で相殺させるから、魔導書にある魔力を使って精霊術式でとどめを刺して。)」
一方アルスは、上級偽装魔法を使い、魔力感知から逃れながらレータと話していた。
アルスがエクウスとの戦闘中に思い付いた作戦であり、相手を倒すには確実性があった。
「(そのために魔導書を使ってなかったんだ。でもそれじゃあアルスが...)」
確実ではあるものの、アルスの“魔力残量の激減から起きる様々な症状に見舞われる可能性”という点をレータは心配していた。
「(大丈夫。死なない程度の魔力は残せるから。僕を信じて...お願い。)」
レータからの心配はもっともであったが、これ以外に確実に倒せる方法が無いと思ったアルスは、出来るだけ心配をかけないようにと笑顔で話した。
「(......前にもこんな事あったな~。あの時も賢者たちは無理しようとして、でもそれを信じた結果、暗黒神の封印が出来た。だから今の賢者のアルスを、私は信じるよ)」
その笑顔に旧賢者と一緒にいた時のことを思い出したレータは、心配な気持ちはありながらも、アルスの作戦を実行することにした。
「(ありがとうレータ。それじゃあ、行くよ。)」
自分の事を思ってくれるレータに感謝しつつ、アルスは今自分にできることを精一杯やろうと、建物の陰からエクウスの前に出た。
「やっと出てきやがったな。だがここら一帯ごとてめぇを焼き殺すのは辞めねぇけどなあ!」
「でしょうね。でもそれは僕が止めますよ。」
最初からそのつもりでいたエクウスに対し案の定かと思いながら、この国の人や仲間に影響を与えないために向き合った。
すると二人は互いに集中し、決着をつけるため最上級魔法の詠唱を始めた。
「紅蓮の業火、深淵なる闇...」
「聖光を示す輝きよ...」
詠唱を始めたエクウスには自身の周りに魔法陣が展開され、その遥か頭上と足元にはアルスが詠唱している魔法の魔法陣が展開された。
「災禍を齎す焔となり、焼却せよ。」
「神託を顕現し、判決を下せ。」
2人が詠唱を進めていくと、初めの時よりも何段階も大きく、それに合わせて魔法陣は複雑になっていった。
そして2人の詠唱が同時に完了すると、互いに最上級魔法を放った。
「カラミティー・インシネレート」
「ジャッジメントディヴァイン」
アルスの放った最上級魔法は光りの柱となり、エクウスの使用した最上級魔法は自身を中心として発動され、光りの柱から黒い炎が少し出てきていた。
しかし、アルスが放った魔法により黒い炎が収まり始め、やがて2人の魔法が消失した。
アルスはすでにその場に倒れており、エクウスはギリギリの状態で立っていた。
「は、はははははは!俺の勝ちだ!てめぇが俺に勝てると、本気で思ってたのか?哀れだなあ!!」
目の前の光景に自身の勝ちを確信し、聞こえているかどうかなどどうでもいいというように、一人でに叫んでいた。
「イマジナリーエンフォーサー」
「!?」
だが、勝利の余韻に浸っていたエクウスは何処からか声が聞こえたと認識した時には謎の光に包まれ、最後に声を出すことも許されずに消滅した。
「アルス!」
「...レータ。」
その光を放った正体、レータの姿と消滅したエクウスが居た跡を見たアルスは、自分の作戦が成功したことに安堵した。
すると今度は金髪の少女が急いで駆け寄って来た。
「アルス!大丈夫!?」
「エリス...うん、少し休めば大丈夫。それと、レータ。僕を信じてくれてありがとう。レータが居なきゃ倒せなかったよ。」
アルスは虚ろな目でエリスとレータを見ながらも笑顔で話した。
しかし体は動かないようで、金縛りにあったかのようになっており、さらには体温まで下がっているようだった。
「傷に障るから、落ち着いてからでいいよ。エリス、悪いけど暫くアルスの近くにいてあげて。私は皆にこの事を伝えとくから。」
「わかった。」
「!?」
そう言うとエリスはアルスに口づけをした。
突然のことで何が起きているか分からなかったが、魔力が流れ込んできていると理解すると、されるがままになっていた。
次第に体温も戻ってくると、アルスは静かに寝息を立て始めた。
その表情を見て安心したエリスは口を離し、膝枕をし始めた。
「レータ、皆には内緒にしてね。」
「皆察してそうだけど、分かった。」
そうして突如ストルム王国にやってきた襲撃者の一人は賢者アルスによって倒されたのだっ