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8. 他の御使様。


イケメンさんはその物語を慈しむように優しく本を閉じると「おーしーまい」と話の終わりを告げた。


話してくれたおかげでなんとなく分かった気がする。私が来た理由が。

この世界に夜を戻す為には異世界の人間が必要。だから、私が来た。



「少し長かったですかね?体調は大丈夫ですか?横になりますか?」


「大丈夫です。読んでくれてありがとうございました」



なんで”私”なのかは分からないけど、その理由は別に知らなくてもいい。


今朝、イケメンさんは言ってた。日が落ちて夜が来て、朝日が昇って現在に至る、って。

なんでわざわざそんな洒落た言い方をするのかと思ったけど…私が来て、日が落ちて、夜が来て、朝日が昇ったんだ。

自覚は一切ないけど私はたぶんきっと”最初の御使様”のように夜を呼ぶことができたんだ。この世界が求めてた”御使様”の役目を果たせたんだ。それなら、”なんで私なんだ”なんて理由は私は知らなくてもいい。



「続きを教えてもらってもいいですか?」


「?話はこれでおしまいですよ」


「最初の御使様のお話は、ですよね?」


「………」



最初の御使様の話は終わりでも、御使様の話は続くはずだ。”二人目の御使様”の話に。



「最初の御使様が亡くなったあと、百年夜が続いた”その後”はどうなったんですか?」


「………」


「夜はまた来なくなったんですよね?だって私は”二人目”ではないでしょう?」



私が何番目なのかは分からないけど、私の前にはきっと何人かの他の世界からきた人がいるような気がする。だってそうじゃなきゃ昨日のシブイケメンおじさんたちの態度はどう考えても大げさすぎる。


あんなにも腰を折って丁寧に挨拶してくれたけど、それは最初の御使様たった一人の実績でもらえるおこぼれじゃないと思う。

最初の御使様と私の間にいた何人かの御使様の実績やら功績やらのおかげでどこの骨とも分からぬ私にもこの人たちは優しいんじゃないかと思う。



「二人目の御使様はいつ頃現れたんですか?」


「…最初の御使様が亡くなって百数年後の夜が訪れなくなったその次の日に」


「三人目の方は?」


「…二人目の御使様が亡くなってから約百九十年後に。四人目の御使様は三人目の御使様が亡くなられたその後、約百六十年後に現れて下さったと伝えられております」


「…その間、夜は?」



私は少し嫌な予感を感じながら聞いた。


イケメンさんは頭をゆっくりと振る。


まさか…



「二人目の御使様が亡くなられた後は三人目の御使様がいらっしゃるその日まで、ずっと夜は来なかったそうです」


「……っ」


「そんな顔をなさらないで下さい。エマ様がそんな顔をされる必要はどこにもないのです。確かに長く苦しい時代が続いたとは思います。ですが……」


「……夜が続くよりはずっといい…?」



私が聞くとイケメンさんは小さく一回頷いてくれた。

私は本を沢山読んできたおかげか頭の回転は早い方だと思う。

シブイケメンおじさんは言ってた。御使様とはこの世界とは異なる世界から来た日を正すことの出来る人のことだ、って。

私はたぶん勘違いをしてた。御使様のチカラは”夜を戻すこと”じゃない。”日を正すこと”だ。



「夜が続いた時代も…あったんですか…?」



聞きたくないけど、聞かなくちゃいけない気がした。

イケメンさんは私と目を合わせないまま頷いた。



「三人目の御使様が亡くなられた後、世界は六十年程夜を失ったままだったそうです。そして…その後、四人目の御使様が参られるその日まで約百年もの間、闇が空に広がり、日は少しも空に昇ることはなかったそうです…」


「………」



想像が出来なかった。

いや、想像は出来る。白夜と極夜。私のいた世界のどこかの国にも確かそういうことが起こる地があった。

でも、白夜も極夜も一年も続くことはないし、白夜といってもずっと真昼のように明るいわけでもなく、夕方のような時間もあるって聞いた気がする。極夜といっても、薄明かり程度の日はさすって。


でも…この世界はそうじゃないと言う。

夜のこない時代に日は全く移動することなくそこに在り続け、日の昇らない時代にあるのは闇だけ。

この部屋に電気らしきものは見当たらないから”電気”という存在はこの世界にないのかもしれない。

だとしたら、日の昇らない夜はどれ程暗いのか……

何より、日があるのなら作物も育つだろうけど…



「今に至るまで、分かってることは御使様はおおよそ200年に一度現れて下さるということだけです。亡くなってから200年ではなく、前の御使様がこの世界に現れてくださってから200年後に、です」


「…御使様が早く亡くなればその分次の御使様が現れるまで時間空いてしまうってことですか?」


「その通りです」


「…私は何人目なんですか?」


「十人目の御使様です」


「それまでずっと同じような時代が続いたんですか?」


「三人目の御使様と四人目の御使様の間のような時代、日がささない日が続いた時代はそれ以来ございません。時代によりますが、四人目の御使様以降は御使様が亡くなられたあとも十年から二十年は夜の時間にきちんと夜が来たそうです」


「そう…ですか…」



どうして二人目の御使様以降、最初の御使様が亡くなった後のように夜が続かなかったのか、どうして夜の来ない年月に違いがあるのか、どうして…夜が続く時代があったのか…

頭の中に浮かぶ”想像”は一つだけだった。

でも、それを確かめるだけの勇気は…今の私にはない。


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