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6. 御使様とは。


ご飯も食べて(すりりんごだけど)することがなくなると「眠られますか?」とイケメンさんは聞いてくれた。


流石に全く眠くない。また急に眠気が来るのかもしれないけど、今はまだ大丈夫。


首を振るとイケメンさんは「眠くなったら遠慮なく横になって下さいね」と言ってくれる。


私は「ありがとうございます」と言ったあとなんとなくバルコニーの方を見た。

バルコニーに続く天井から床まである大きなガラス窓は開かれていて風がそよそよと入ってくる。

外の景色はレースのカーテンがかかっているので見えない。


私はいつまでここにいていいんだろう?

聞きたいけど…聞くのが怖い。



「…外に…出たいですか…?」



私の視線の先に気付いたイケメンさんは言った。


外に出たいと思って見てたわけじゃないけど、確かにずっとベッドの上にいるし外の空気を浴びたいかもしれない。



「出てもいいですか?」


「出来ればまだあと数日は、少なくとも普通に食事を取れるようになるまでは…」



イケメンさんはそこまで言うとその後の言葉を噤んだ。言葉にしなかったけどその後に続く言葉は”出ないで欲しい”なんだろう。


流れ的にてっきり”では出ましょう”的な答えが返ってくると思ってたのに。


少しのすりおろしりんごでお腹いっぱいなくらいだか

普通に食事を取れるようになるまでってまだまだ先な気がする。

…ていうか、このイケメンさん、今、ベッドからも出ちゃだめって言った?



「心配なんです。その細さでは風に吹かれて飛んでいってしまいそうですし」


「……」



私は自分の腕を見た。


元々細い方ではある。細い方ではあるけども。

この四日くらい?何も食べてないからか、確かに今までより更に少し痩せたかもしれない。しれないけれども。

だけど、だからといって…

紙じゃあるまいし、さすがに風に飛ばされることはないと思う。



「それにまた急に眠くなられたとき、外は危険です。昨日のように私の肩に倒れてくださればいいですが、外では地面に頭を打つ可能性があります。ベッドの上以外は危険です」



!待って、私昨日この人の肩に倒れかかって寝たの?

申し訳なさすぎるんですけど。

マコ(恋バナ好き)に話したら所構わず叫ぶ案件だ。



「ですが、これは私の勝手な思いです。御使様の願いは絶対です。もし、出たいと仰るなら…私どもは御使様の御心のままに動くまでです」



イケメンさんは私から目を逸らして言った。



「…御使様ってそんなに偉いんですか?」


「この世の誰よりも」


「この世…」


「御使様より尊く偉大なお方はおりません。大国の王でさえ御使様の前ではただの人となります。御使様はこの国のみならず、この世界に住まう全ての者が崇め讃える存在です」



まさかの世界規模。そこまでとは…



「御使様っていうのは私の他にも…?」


「歴史上には。同じ時代に複数の御使様は現れませんので…」


「この時代には私だけ、ですか…?」


「はい」


「そう…ですか…」



一人で世界を背負うのは重いなぁと思うのと同時にそれで良かったのかなぁとも思う。


この世界に来る前、眠る前に読んだ異世界転移もの。

最後に読んだのは普通のOLが急に異世界に飛ばされて、イケメンと恋愛しつつ精霊の力を借りつつ自分の持つ癒しの力を使ってなんだかんだ最後は国を平和にするみたいな話だったけど、盛り上がりどころの一つとしてギャフンとされる人がいて、それが主人公と同じ世界、同じ国から転移してきたもう一人の女の子(性格悪)だった。


もし私の他にも御使様がいて、もしその子がその話に出てくるような性格の歪んだ子で無意味に敵視されても嫌すぎる…から…うん。これで良かったと考えよう。



「私は何をすればいいんでしょう?」



イケメンさんを見るとイケメンさんはまっすぐに私の目を見て微笑んで言った。



「何も」


「………」


「何もする必要はありません」



………それ、は…

異世界人でもお前には今までの御使様と違って何の力もないから何もするなってこと…でしょうか?


私はドキドキしながらイケメンさんを見た。


てっきり異世界からきた人は全員不思議なチカラ的なになかを持ってるんだと思ってたけど…

小説信用しすぎた?

御使様って言ってくれてるけど、もしかして私、この人たちにとってなんの能力もないただ異世界から来た無駄人だった…?

なんか、、申し訳なさすぎる…



「あ、すみません。言い方が悪かったですね。それに間違えました」



慌て焦る私に気付いたのか、イケメンさんは私の頭をそっと撫でる。


この人にこんなことをされたらコロっといく女性はたぶんきっとごまんといるんだろうなぁ。

流石の私もほんの少しだけドキッとした。



「御使様が現れたその日、既にこの世界は変わりました」


「そう、なんですか…?」


「はい」



私寝てしかいないと思うんだけど…寝ながらなんかしてたんだろうか…?

分かんないけど、ちょっとホッ。

いや、でも、とりあえずもう変化があったってことは…既にお役御免なのは違いない。もう不必要な存在なんだ。

だから何もしなくていいって…



「何もしなくていいと言いましたが、幸せでいて下さい」


「…え?」


「御使様には幸せでいてほしいんです」



この発言も大抵の女の人ならコロっといきそうだ。

だけど私は頭を撫でられた時とは違い、今度はドキッとはしなかった。


自分で言うのもなんだけど、私にはあまり乙女心的なものはない。

どんなに格好いい男の人を見たって顔面整ってるなぁって思うだけ。

話しかけるのに勇気がいることもなければ、キャー!だなんて友達とはしゃぐこともない。


どんなに格好いい男の人にどんなに素敵な言葉をかけられても少し気恥ずかしくなるだけでキュンとすることはない。


だからイケメンさんが今言った”幸せでいてほしい”の言葉にも私は微塵もキュンとすることなく、ただその言葉には何か理由があるんだろうなぁと思った。


どんな理由があるんだろう?


考えているとイケメンさんは一冊の本を持ってきた。



「これは”最初の御使様”について記された書物です。書物と言っても堅苦しいものではなく、子供に教え聞かせるために作られたものなのでそう難しくはありません」



「読んでもいいですか?」とイケメンさんは続けた。


子供じゃあるまいし自分で読みますよって言いたかったけどたぶんそれは出来ない。

私の言葉はきちんと伝わってるみたいだし、イケメンさんの言葉もきちんと分かるけどイケメンさんの持つ本の背表紙に書かれた文字は私には読めないから。


私は深々と「よろしくお願いします」と頭を下げた。


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