33. この世界に呼んでくれてありがとう。
外は誰もいなくて静かで、ダンスを踊って少し熱くなった体には丁度いい風が吹いてる。
「寒くないですか?」
「丁度いいです」
「生まれてすぐの時は…透き通るような白に近い金色をしてましたよね」
私の髪をひとすくい取って言ったルーフェスさん。
やっぱりあの声は、あの男の子はルーフェスさんだったんだ。
ていうか……
「生まれてすぐの時って…!そんな頃から私たち会ってたんですか?!」
私が聞くとルーフェスさんは懐かしむように頷いた。
「女神様の泉の近くでスヤスヤと気持ちよさそうに寝ているあなたを今でも鮮明に思い出せますよ」
私目線ではその場所がどこかも男の子の顔も見えないけど、男の子目線では全部がちゃんと見えてるって聞いたのは…何回目に会った時だったかな。
あの場所は…女神様の泉だったんだ…
私はずっと前からこの世界と繋がってたんだ…
「御使様はこの世界の人と夢で繋がるんですか?」
「いえ。そういった史実の記録は一切ありません。ですが、確証は何一つなかったですが、私はその生まれたばかりの子供が数十年後に現れる御使様だと確信めいたものを感じていました」
「…セドさんにその話は?」
「しましたよ。父にはただのお前の願望だろうと言われましたが私が実際にはまだ一度も行ったことのない女神様の泉の様子を細かく語ったので半信半疑で信じてくれていたと思います。母は…まぁ、アレなんで。信じる信じない以前に勝手に妄想を広げて盛り上がってました」
「アハハハ、そのリアージュさん、めちゃくちゃ想像出来ます」
「ハハ、でしょう?実際現れた御使様がエマ様で…私がどれ程嬉しかったか…分かりますか?」
髪に触れていた手が、私の頬に触れたそうに、触れずに下ろされた。
「もし、現れた御使様がエマ様じゃなかったら絶望して女神様の泉に飛び込んでいたと思います」
「…冗談ですよね?」と私が聞くとルーフェスさんは黙ったままニコっと笑う。
冗談だよね……?!
「私に愛しいと、そういう感情を初めて教えてくれたのはエマ様です」
「不思議ですよね。エリックが生まれた時にはそんな感情は微塵も沸かなかったのに…」と足された言葉には心の中でエリック……と可哀想に思っとくだけにしといた。
「勿論、その時に感じた愛しいは恋愛感情の愛しいではなかったと思いますが…それが恋愛感情の愛しいに変わるのにそう時間はかからなかったと思います」
…私がルーフェスさんへの思いに気付いたのはいつからだろう。セドさんたちへの愛と違うと気付いたのは…いつからだろう。
「あなたの他に欲しいと思うものはありません。あなたが私の全てなんです」
ここで”私もルーフェスさんが好きです”と言ってもいいんだけど…私の気持ちはもうルーフェスさんに伝わってる…はず。出ないと言った夜会に突然来た理由を答えた時点で気付いてくれた…はず。
「エマ様、私は…期待してもいいんでしょうか?」
「して…ください。してもらえないなら、一生かけて伝えます」
まっすぐ見つめられた目に最初は恥ずかしくて晒してしまったけど、最後はまっすぐ見て答えた。
「うわっ!」
答え終わると同時くらいに私の体はルーフェスさんに強く抱きしめられた。
「やばい…嬉しすぎて死にそう……」
「アハハ、だめですよ」
「はい。死にません。まだまだ死にません。死ぬ時は年老いてからです。最期はエマ様と手を繋いでエマ様と同じタイミングで死ぬって決めてるんです」
「ハハ、最初の御使様と騎士さんの話みたいですね」
「あの話を読む度、大好きな人と、あなたとそんな風に死ねたらといつも思っていました」
「ロマンチストですね」
「だとしたら遺伝です。母がアレですからね」
「アハハハハ!」
「結婚してくれますか?」
体を離してまた目をまっすぐに見て言われた。
言い終わりと同時にドラマみたいに花火がちょうどよく上がった。
「結婚………は……ちょっと待ってください…」
ドーン
また花火が上がる。
「…な、なぜですか…?」
ルーフェスさんはまさに絶望みたいな顔してる。
「だって…私子供出来ないですよね?」
今までの御使様で子供を産んだ人は誰一人いないらしい。きっと私も例にもれないんじゃないかと思う。
ルーフェスさんをチラっと見ると「は?」って顔をしてる。
「ルーフェスさんは王子様だから後継とか産まなきゃじゃないですか…私、ルーフェスさんが他の人と踊ってるかもって思うだけでモヤモヤするんですよ?誰かとヤッてるのなんて…想像しただけでも」
「ヤ……?!〜〜っ、あなた以外とするわけないでしょう!!あーーー、もう無理。まじで可愛すぎる。好きすぎる…」
ルーフェスさんは少し大きめの声を出して私の話を遮るとまた私をギュっと抱きしめた。
「後継なんてどうとでもなります。エリックの子供に任せてもいいですし、従兄弟たちの子でも…とにかくそんな気持ち悪い想像は不要です。あなた以外を抱くなんて…吐き気がする。私にはあなただけです。一生。約束します。だから…もう一度言います。私と結婚してくれませんか?」
ドーン
また花火が空に大きく咲く。
断る…わけがない…
「は、い…」
花火の音で掻き消されたかと思ったけど、私の声はきちんと届いたらしく。ルーフェスさんはホッとため息を一つ吐くと「本当にやばい…幸せ過ぎる…」と言ってキスの一歩手前まで顔を近付けてきた。
近い近い近い。
「キス、していいですか…?」
「恥ずかしいからダメで……」
すを言う前に塞がれた口。
ずるい。聞いといてするなんて。
「ダメって言ったのに……」
暗くても分かるくらい今度は私が顔を真っ赤にしてると思う。
何がルーフェスさんを刺激したのか、ルーフェスさんは何も言わずにまたキスをお見舞いしてくる。
「ルーフェスさん、もう本当にダメ…恥ずかしくて死んじゃ…」
息継ぎの間に袖を掴んで懇願すると今までで一番深いキスをされた。
「……っ、」
恥ずかしいって言ってるのに、なんでもっと恥ずかしくなるようなキスするの?!と思うけど…この感情が怒りじゃない辺りやっぱり私はルーフェスさんが好きなんだ。
「こうやって歯止めが効かなくなるからもう可愛い顔も言葉も禁止です」
ルーフェスさんは私の髪に名残惜しそうにキスをして言った。
顔は離れたけど離れたからこそ恥ずかしくもあって。自分からルーフェスさんの胸に顔を埋めるとルーフェスさんのドキドキが聞こえた。私と同じくらい鼓動が早い。
「っ、可愛い行動も禁止ですよ。本当に…身が持たない…」
「お返しです」
私はそう言うと少し背伸びをして軽めのキスを自分からルーフェスさんへした。
「………っ!!」
真っ赤な顔をして「禁止だと言ったのに…」と少し恨めしそうに言うルーフェスさん。
誰もが納得のイケメンなのに、こんなにも可愛い。
「ルーフェスさん、私を呼んでくれてありがとう。私、この世界に来れてよかったです」
その言葉を言うにはまだ早すぎると分かってはいるけど…無性に言いたくなった。伝えたくなった。
でもきっと、死ぬ前にも私は同じ言葉を伝えると思う。
ルーフェスさんの言葉を借りるなら、私もそう確信めいたものを感じている。
「愛しています、エマ様。本当に、本当に…心の底からあなたが好きです」
ここまで読んで下さってありがとうございます。
これにて一旦完となります。
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