2. 起きたら既に二日が経ってました。
目が覚めるともう水の中でも外でもなかった。
ベッド……?
そう思うと同時に女の人の声が聞こえた。
「っ、お目覚めに……!」
慌てるように私の顔を覗き込んで言った女の人はやっぱり慌てるように「失礼します…!」と言ってどこかへ行ってしまった。
身体を起こそうとしたけど、力が入らない。
息もまだ少し苦しい。
頭も痛い。
起きるのはまた誰か来たときにしよう。
そう思って目をつぶると、すぐにバンッ!とドアが激しく開く音がした。
びっくりして目を開けて重い身体を起こすと、もうすぐ横に男の人の顔があった。
イケメンだ。
酷く心配そうな顔をしてるのに、物凄いイケメンだ。
この場にマコ(友達)がいたら顔を赤くしてキャーキャー言いながら私の腕を捻り潰してるに違いない。
でも、ここにマコ(イケメン好き)はいない…
「許可なく部屋に入り申し訳ありません。どうかまだ起き上がらず横に…」
イケメンさんは心配そうな顔をそのままにジッと私を見つめて言った。
そんなに体調悪そうに見えるのかな?
確かに良くはないけど起き上がっていられない程ではないんだけど…
というか、あれ?この声…
「あ、あの…」
「はい」
「助けてくれて…ありがとうございました。あの、風邪…引かないように…」
そんなにガン見しないで欲しいなぁ…と思いながら言うとイケメンさんの顔は心配そうな顔から驚いた顔に変わって、そのあと少し困ったようなふっと優しい顔になった。
水から上がった時、私を助けてくれたのはこの人だ。
あの時は頭がボーッとしてたし、助けてくれた人の顔もボヤーっとしか見えてなかったけど、間違いない。
「風邪を引かないように、と言うのは…私たちに言って下さってると思って間違いないですか?」
…私たち…?
あ、そうだ。
私を水から上がらせてくれたのはこの人だったけど、その後ろには他にも何人かいた気がする。
水、中々に冷たかったのに…
「はい。皆、無事ですか?」
私は心底心配で聞いた。
溺れた人を助けようと他の人も…なんて話は毎年夏になると必ずニュースでやってた。あんなにも悲しい事故は…嫌。
心配です。と目でも言ってみるとイケメンさんはまた困ったように微笑む。
「あれから丸二日程経っていますが、私含め皆風邪も引かずに無事です。もしこれより先に風邪を引いたとしても関係はございません。私共のことよりも、どうかご自身の身体を労わって下さい」
イケメンさんはそう言うと「失礼します」と言いながら私の肩に優しく触れて私をベッドに横たわらせてくれた。
おぉぉ…めっちゃジェントル。
ここにマコ(若干変態)がいなくてよかった。
マコがいたら間違いなく鼻血出してると思う。
…なんてことはおいといて、よかった。みんな風邪引かなくて。何より無事でよかった。
……って、待って。
このイケメンさん、今、丸二日って言った?言ったよね?
私、丸二日も人様の家で寝てたの?!
ガバッと慌てて起き上がるとイケメンさんの優しかった表情の裏になんだか凄みを感じる。
怒って…る?
でも…
「二日もお世話になってすみません!今すぐ出てきます!!」
ベッドの端に足をかけて降りようとするとまたイケメンさんの手が肩に触れた。
「ご自身の身体を労わるように言いましたよね?」
あ、これ確実に怒ってらっしゃる。
目は笑ってるけど、目の奥が怒ってらっしゃる。
その証拠に肩に触れてる手の力がさっきより強い。
優しいけど、強い。
さっきはベッドに横たわらせてくれた、って感じだったけど今は横倒しにされたって感じだ。
「ご、めん、なさい……」
名前も知らないイケメンさんに怒られてしゅんとなってしまった私にイケメンさんは「いえ…申し訳ありません。強く言い過ぎました。本当に…申し訳ない」とご丁寧に何度も謝ってくれた。
さっきとは違いもう目の奥に怒りは微塵もなさそう。むしろ最初と同じ、酷く心配そうな顔をしてる。それでいて、その目の奥は少し焦ってる?感じ。
今更だけど…やっぱり私、異世界転移…したんだろうな…
そう思うのは今、目に見えるもの全てが私の国の私の生きてた時代のものとは異なるから。
さっきいた女の人やこのイケメンさんの服も、周りにある家具も全部違うから。
”ここ”へ来る前、どの異世界転移ものを読もうか少し調べてた時、異世界転移の転移先の定番は中世ヨーロッパ風な場所が多いなぁと思ってたけど、実際今私のいる部屋もザ、中世のヨーロッパ的な感じだから。
だから、やっぱり異世界転移したんだろうな…
マコ(漫画好き)が知ったら…なんて言うかな?
イケメンいたよって言ったら、見たい!って騒ぐんだろうな。
想像するとふっと笑える。
イケメンさんを見るとイケメンさんもふっと笑ってた。
急に眠気が襲ってきた。
二日も寝通してるらしいのになんでこんなに…もう目を開けてるのも辛いくらい眠い。
「お眠りください」
睡魔と必死で戦ってることに気付いたのか、イケメンさんは言ってくれた。
「すみません、何も出来ず…寝たきりで…」
限界にきた私は目を瞑ったまま、最後の力を振り絞って伝えた。
優しい手が肩ではなく頬に触れた気がした。