1.異世界転移であってますか?
静か…
目を開けた時、最初に思ったのはそれだった。
そのあとに感じたのは気持ち良さ。…ううん、心地良さ、だ。
不思議な声が聞こえた瞬間落ちた暗闇の中。
暗闇だと思ったそこはいつの間にか水の中で。
水の中だっていうのに呼吸は全然苦しくなくて。
身体は勝手にゆっくり沈んでいくけど、不思議と上がりたいとは思わなかった。
「こんにちは」
女の人の声がした。
静かで、優しい、透き通るような声。
この水と同じ、心地いい声。
「驚かないんですね」
声に言われて私はやっと驚いた。
自分でもびっくりするくらい冷静なことに。
なんでこんな冷静なんだろう?と思うけど、きっとそれはこの場所とこの声のせい。ちっとも恐怖を感じさせない心地よさのせい。
もしここが怖いと感じる場所だったら、この声が怖いと思わされる声だったなら、居心地の悪い場所なら…確実に普通にめちゃくちゃあわあわしてると思う。
「ありがとう、来てくれて」
声は言う。
来てくれてありがとう…?
どこに?ここに?
行く…なんて言ったっけ?
…あぁ、そうだ。確かに言った。夢の中で。
この声じゃない声に応えて言った。
「ありがとう」
声はもう一度そう言うと「祝福をあなたに」と言って止んだ。
いなくなったのかな…?
そう思った瞬間、鼻に水が入ってきた。
………っ!!
え!なんで?!さっきまで全然大丈夫だったのに!
やばい!これ、このままだと死ぬやつだ!!
ぼーっとしてた頭はすぐに働き出して”ここ”に来る直前”の記憶を辿る。
寝る前、読んだネット小説…今まで全く手を出さなかったのに、急に読みたくなった異世界転移もの。
異世界転移…
現在進行形で私の身に起こってるこれはまさにそれな感じがする…
寝る前にバーっとだけしか読んでないけど、三作品、内容はもちろんどれも違うけど、最初の出だし、全部神様的な人出てきてたし。さっきの女の人の声、今思えば神様感しかない。
これが本当に異世界転移なら、私にもなんか役目があるんだよね、きっと。
三作品のうちの一つは転移したあと前の世界の知識を使って世界をより良く変えてたし、もう一つは神様からなんかチート?っていうのをもらって世界を救いつつのんびり暮らしてた。最後の一つは聖女の力で国を救ってた。
私は…?
私、転移されて早々死にそうなんですけど?
なんで?勘違い?異世界転移じゃなかった?
もしかして私、突然死でもしたのかな?ここ、三途の川の水の中だったりするのかな?
いや、きっと違う。
人単位なのか国単位なのか世界単位なのか分かんないけど、きっと誰かしらが困ってる。なんでか分かんないけど、無性にそんな気がする。
それなら…私は死んじゃダメ…!
必死で上へ上へ上がって、手を伸ばして、やっと顔だけでも水から出すことが出来た。
プハッと息を大きく吸うと息が苦しい。
何度も何度も息を吸い込むけど、吸い込めば吸い込むほど逆に苦しくなってってる気がする。
頭がボーッとする。
霞んだ目で辺りを見渡せば木がたくさん見える。見えるけど…そこまで泳いでいける気がしない。
やばい…この世界のみなさんごめんなさい…
神様に呼ばれたのに、神様がありがとうって言ってくれたのに…何も出来ずに死にそうです…ごめんなさい……
「っ!!!!」
沈んでくと思った身体は突然力強い手に囲われて浮上した。
「大丈夫ですかっ?!」
ぼんやりする中、必死そうな声が聞こえた。
さっきの神様みたいな女の人の声じゃない。男の人の声。さっきの女の人と同じ耳に心地良い声。
「ありが…」
ありがとうございますって言いたかったけど、最後まで声に出せたか分からない。
やっぱり息が苦しくて、私の意識はそこで途切れた。