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雨の日心模様

作者: 狭間梗也


――雨の日が好きか嫌いか。


 私はその日の気分で変わるものだと思う。


 子供の頃、お気に入りの傘や長靴を買った日なんか雨が待ち遠しくて仕方なかったのに。


 雨が降って、水溜りから跳ねた泥で汚れた時は、一気に気分が沈みこんだ。


 同じ雨でも、ちょっとした出来事で、心はあっちこっちとせわしない。


 だから感情や気分を天気で例える事はよくあるけれど。


 それが雨の日だけでも十分表現できると思う。


――ある時の私は雨が好き。


 しとしと降る雨の音が心地よく、余計な雑音をかき消してくれるから。


――ある時の私は雨が嫌い。


 どんよりとした雲が全てを覆い隠してしまうから。


 その日その時で答えが変わる。


 あっちへふらふら、こっちへふらふら。


 もう答えが変わる事がないと思っても、それでも変わる心模様。


 そんなコロコロと変わる問いに。


 今日の私はこう答える。


 私は――。













「あっ、雨がふってる」


 その日の部活が終り、帰り支度をして外に出てみると。


 天気予報では晴れだったはずなのに、雨が降りだしていた。


 ザーザーとたたき付ける激しさはなくても、しとしと無数の雨粒がせわしなく降り注ぐ。


 こんな日には傘は必需品。


 最近買った淡い青を基調とし、小さな花がアクセントの傘を広げ、時折くるりくるりと回しながら歩いていく。


 そうやって外を歩きたいのに今はできない。


 理由は単純で、天気予報を信じていた私は傘を持ってきてないからだ。


 だから私はこれからこの雨に打たれて帰らなければならない。


 気合を入れてセットした髪がくずれて。


 今まで似合わないと遠慮していたけど、今日は頑張ってしてきた化粧がおちてしまう。


 それを想像して、吐き捨てるように呟いた。


「――――雨なんて大っ嫌い」


 昇降口から映る景色をイライラしながら眺めた。

 

 そんな時に。


「よっ」と声をかけてきたのは先輩。


 同じ部活に所属している、私の好きな人だった。


 高校に入学して同じ部活で出会い、ふとしたきっかけで好意を持つ事になった人。


 今日は用事があると言って部活に参加していなかった。


 折角先輩に見せるために気合をいれておめかししてきたのに。


 だから憂鬱な気分で外を出れば雨が降っていて。


 それが自分の頑張りを馬鹿にされたように感じて余計に腹がたったのだ。


 けれど、そんな気分も先輩に会えればすぐに変わる。


 先輩の姿と声で心がぽかぴかと温かくなる。


 私は笑顔になって「先輩も今から帰りですか」と尋ねた。


 すると「ああ、用事が終わった頃には部活も終わってたから、一人寂しく帰ろうとしていた所だよ」と大げさに肩をすくめる先輩。


 そんな姿にくすくすと笑っていると「今日はいつも違う感じがするなと」じっとこちらを見つめて言うものだから、「……わかります?」と頬を染めて尋ねた。


「普段も、か、可愛い、けど、その……いつも以上に……可愛いと……思う、ぞ?」


 言っている途中で恥ずかしくなったのか、先輩は目を逸らして答える。


 先輩が人を褒める時に照れるなんて珍しい。そう思いながらも内心でガッツポーズを取った。


 先輩が私の頑張りを認めてくれてるっ。


 それがとても嬉しくて、今から濡れて帰っても全然構わないと思った。


 けど、嬉しい事は更に続く。


 先輩が傘を持っていた。それは紺一色で統一されたシンプルな傘。

 

 作りがしっかりしているのがよくわかる。


 そんな傘を私に手渡して貸してくれるという。


 最初受け取ろうと思ったが、予備はないと聞いて返そうとする私。


 けれど、先輩は受け取ってくれない。


 少しの押し問答の末、辿り着いた答え。


 それは相合傘。仲の良い男女が行う定番のシチュエーション。


 先輩は最初戸惑っていたが、「じゃあ先輩が傘使ってください」という私の言葉に折れた。


 だから、学校から駅までの時間。二人で肩を並べて一緒に帰る。


 雨に濡れないように、いつもより距離を詰めて。


 唐突に起こった出来事に、私の心はとても晴れやか。

 

 雨の日でも、太陽の柔らかい日差しを受けている気分。


 だから、今の私は雨が好き。


 雨の冷たさは気にならず、雨音と一緒に耳に入る先輩の声がとても心地良い。


 好きな人がこんなに近くにいてくれる。


 とても幸福な時間だと思えた。


「ねえ、先輩」


「んっ?」


 まだまだ、素直に先輩の思いは伝えられないけど。


 それでも、今この状況を先輩にもいいなと思ってほしくて。


 私は口を開いて尋ねた。



――先輩は、雨って好きですか?



 先輩は少し考えた素振りを見せた後で返事をし。


 その答えを聞いて、私は満面の笑みを浮かべるのだった。


最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 雨をテーマに心模様があれこれ変化する描写が、とても素敵でした。 主人公と先輩のこれから何か始まりそうな予感が印象的でした。
[良い点] 主人公であるわたしのわたしの心の動きがとても丁寧に描かれており、また何気ない描写も細かく描かれているため、頭の中に情景を浮かべやすいです。 [気になる点]  先輩はちょっと不器用な感じです…
[良い点] これぞアオハルですね! 主人公の女の子が可愛いです。 雨の日には、気持ちがこっちに傾いたりあっちに傾いたり、というのもよく分かります。 ちゃんと主人公の変化に気づいてくれた先輩も素敵です。…
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