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ある日突然、庭に若い娘さんがいた1

ある日突然、庭に若い娘さんがいた。

小さな子供と手を繋いで。


こんにちは。山上小吉やまがみ こきちもうすぐ51歳です。

早期退職をして田舎に山を買い、車で20分ほどの麓でたまに働く。そんな悠々とした隠遁者を目指してここに越してきたのは1年前の春のこと。


両親の結婚しろ口撃も形を潜めて(ようやく諦めたのだろう)くれた今日この頃。

両親のことは兄夫妻にお任せして、そろそろ終の住処を探しますと旅に出て辿り着いたのがここだ(5日で見つかったけど)。ネットがある現代って凄いなぁ。

何軒か回ってそこそこ近くに集落があって、そこそこ優しい人達が住んでいるのが確認取れたので、えいやっと山を買いました。安かったよ。維持費が大変らしいよ。

まだ一冬しか越してないからわからないけど、寒かった。雪すごかった。以前住んでいた人がしっかりした家を建てていたようで助かった。来年に向けて床暖房の工事が必須だとは思うけど。うん、寒くなったら考えよう。(来年も同じこと言ってそうだな)


ようやく雪も溶け、そろそろ働こうかなあと考えながら庭の草むしりをしていた時にガサガサと近くの草むらが揺れたので、すわ熊かと慌ててそちらを振り向いた。

良かった熊じゃない。

ただの女性と子供だ。


………。


いやいや、何それこわっ。


なんで20代前半くらいの女性と俺の膝くらいの背丈の子供がこんな山奥にいるの?ここ麓から車で20分ぞ?

ワンピースにヒールの靴でこれるような平和なハイキングコースじゃないぞ?


白い肌、日に当たると金色に光る茶系の髪。明らかに日本人では無いと分かる出立の2人はこちらを凝視している。


こわっ

え?こわっ。夜なら幽霊かと思うわ。

ここ、実は事故物件?キイテナイヨ。


とにかく衝撃で思考が固まってしまった俺は二人を見たまま。向こうもひたすら凝視してくる。

そんなひたすら無言の空間を女性が先に破った。


「あ、あの」

日本語はなしたー!


「えーと、ど、どうされました?」

おずおずと声を出した娘さんに、どもりながらもどうにか返答する。

出来るだけ優しい声で返そうと心がけたのは娘さんの隣の子供が幾分か怯えて見えたからだと思う。

決して娘さんが美人さんだからなどという若々しい理由では無いはずだ。


「ここは、どこでしょうか?」

なんと異なことを。

「山です」

「いえ、それはわかります」

ですよねー。ツッコミ早かったなぁ。

「○○市にある山です」

「??」

首を傾げる娘さん。隣で娘さんを見上げるお子様が一緒に首を傾げるのが可愛い。

「ん?○○県○○市の山ですが、、迷子ですか?」

ますます困惑気なのを見てとり、まさかと思いつつ質問してみると。

「ルーフィリアから参りました、ティリミナと申します。あの地名をおっしゃっていたのでしょうか?ルーフィリアか、マルセルという名をご存知ありませんか?」

えーっと。

「ティリミナさんというのが貴方のお名前でよろしいですかな?

申し訳ないがその名に聞き覚えがないのだがどこの国の地名かな?」

「国名です」

そうかぁー。国名かぁ。

「あーー日本とかアメリカとかイギリスとか聞き覚えはありますか?国名ですが。」

これはあかんヤツだぞ。俺自体が何の質問してるのか訳分からんくなってくるんだが。

頭おかしい人か、記憶喪失の人か、はたまた厨二病の方か。

首をゆるゆる振った娘さんに、関わったらやばい人なのではとドキドキしてきた。早々にお引き取り頂かねばいかんかも。


そんなタイミングで初めて子供が声を出した。

「かあさま」

クイっと娘さんのスカートを引っ張り気をひくと

「ここ、ちがうせかい、だとおもう」

恐ろしいことをのたまった。


違う世界とな?

その言葉に娘さんことティリミナさんは右手を口元に当て

「まあ!」

と上品に驚いた。驚いてる割にまったりしてるなぁ。

「てんいじんにむりやりのったから。たぶんへんなところにとんだとおもう」

テンイジンに無理やり乗った?テンイジンってなんだ?


「あら、でもちゃんとお金を払ったし、行き先も伝えたわよ。全然無理やりじゃないわ」

「きょうはむりっていってた」

「魔力が乱れてるからとか言ってたけど、よくあることだもの。いつもなら平気でしょ?」

「でもむりっていってた」

「なにか他に理由があったのかしら?でも他にも一緒に転移陣に乗った人はいたわよね?」

「ん。いっぱいいた」

「私たちだけ変なところに飛ぶかしら?」

「わかんない。でもくにめいしらないもん。おかしい。」

なるほどなるほどとティリミナさんは頷くと、こちらを振り向いた。

「話し込んでしまって申し訳ありません、こちらわたしの息子のジンクティルです。」

「じんくてるです。3さいです」

ペコリと頭を下げるとコロンと前に転がりそうだ。

名前がちゃんと言えてないとこも可愛い。


「これはご丁寧に、俺は山上小吉です。小吉が名前だよ」

「コキチさん?ですね。よろしくお願いします。」

「はい、よろしくお願いします。ティリミナさん、ジンクティル君」


「さきほどの質問の答えですけど、知らない国名でしたので息子の言う通り異世界へ飛んでしまったようですわ。よければ転移陣のある場所を教えて頂けませんか?」

イセカイヘトンデシマッタ、、、何語かな?と遠い目をしたい気分だ。

そもそもの、こののんびりさは帰れると思ってるからなのか。

テンイジン、とは所謂小説とかで出てくる転移出来る何かなのだろう。どこでもドアみたいな?


「非常に申し上げにくいのですが、、、転移陣なるもの恐らくこの世界には無いかと思われます」

「はい?」

キョトンとされましても。

「えーっとおそらく違う場所へ瞬間的に移動する物だと思うのですが、そのような物は架空の物語でしか聞いたことがないのですよ。」

わお!みたいな雰囲気を2人から感じる。

いや田舎者だから知らないとかじゃありませんから!


「まあ、とりあえず。外は寒いですし、中でお茶でもいかがですか?」

我が家を指し示してみたら、ティリミナさんは少し考えた末に頷いた。


◇◇◇

「まあ。暖かい」

「エアコンついてますから」

ほう、と息をついたティリミナさんと、キョロキョロ家の中を見回すジンクティル君。

「暖かくしてくれる魔道具なんてあるのですね」

「マドウグとかではないでしょうね。」


時代の進歩に感動した顔をされた。多分違うよ。

「かあさま、いせかいだから」

ジンクティル君の言葉にティリミナさんはハッと目を開き

「そうでしたわ。異世界だもの」

すまん何かよくわからない納得されても困るんだが。



なんやかんや、頑張って意思の疎通を図った上で、どうにかこの世界には魔法関連のものが無いと言うことが通じた。通じたと思う。

言葉は交わせるのに意思の疎通が大変だった。ティリミナさんよりジンクティル君の方が理解が早かったよ。


「かあさま、まほうがないからてんいじんはつかえない。かえれない。」

「まあ、どうしましょう」

頬に手を当てのんびりと。あれ?焦ってないぞこの人。

「かあさま、のんびりすぎ」

「あらあら、焦っても何もできないもの。まずは先立つものね。通貨が違うのは困ったわね」

なになら売れるかしら?右手の中指に嵌めている指輪を触った。

まあ、売るとしたら貴金属だよなぁ。

なんて見ていたら

「ふお!!」

思わずでかい声がでたわい。

指輪からブォン!とでかい袋が出てきおった。

知ってるぞこれ!四次元ポケットだ!凄い!


「そうねえ、ジンクティルは服しか荷物なかったわよね」

「おかしもある」

「そうね。ジンクティルの大好きなクッキーはたくさん買ったものね」

「ん。」


ジンクティル君が同じく右手の中指の指輪に触れると一回り小さい袋がでてきた。

もう変な声は出さないぞ。


ジンクティル君はゴソゴソと袋の中を漁り、クッキーの小袋を手に取るとニコニコとこちらを見上げた。

「くっきー、たべる。こきちも」

「お、おう、俺も良いのかい?ありがとう」

袋から一個取り出し渡されたのでありがたく頂く。

素朴な、こちらの世界でもクッキーと呼ばれるものに見えるので、恐る恐る口にしてみると。

ほろほろと崩れる優しい甘さのクッキーだった。

まごうことなく、美味しいクッキー。


「美味しいな」

「ねー。」

ニコニコのジンクティル君。

味覚が同じでなによりです。


そんなこちらにお構いなしに、ずっと鞄を漁っていたティリミナさんが青い石を取り出した。親指と人差し指で作った輪っかに収まるほどの小さな石だ。

「コキチさん、これなんて売れるかしら?」

宝石では無く、青いきれいな石。子供が宝物にするタイプのツルツルした石にしか見えない。

売れないと思う。

「魔石よ。向こうではこの大きさは高いのよ」

「売れません」

キッパリ言い切ると、ええーっという顔をする。

「高いのに〜。ならこれはどうかしら?」


次々と、魔法関連のものを取り出すティリミナさん。

どうやら、まだまだ異世界を理解できない模様だ。

「かあさま、まりょくがいらないどうぐはないの?」

「魔力がいらないものねぇ。これとか?どうかしら?」

何度も却下されたからか、自信なさげにだしたものは


「髪留めですか?」

「はい、魔石と比べたら安いのですけど良い石を使っているのでお高いです」

「異世界の宝石のお値段が分からないので一度、大きい街で鑑定して貰いますかね。」

「はいっ。それで、申し訳ないのですが、その、生活基盤が整うまで住まわせて頂くことは、可能でしょうか?」

ですよねー。

異世界とかまた別の人に説明するとか大変だし、やばい人と出会ったら危険すぎるし。


「まあ、そうですね。部屋は余っていますし。良いですよ」


正直言おう。怪しい。

怪しいけどそれでも、どうぞどうぞの気分。

一年、1人で山暮らし。さらに雪が振ってからは麓にも食糧補給以外で降りてなかったし。

思ったより寂しかった模様。

まったく気づいてなかったけど人恋しかったようだ。


母さん、父さん、なんと田舎の山で同居人が出来ました!


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