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第3話 地球のみなさまへ

 あれから起きたこと。


 ハワイ島のみんなは知っているだろう。


 でもそれは一部だ。後日になったいま、ぼくがすべてを書いておく。


 いちおう機密保持の違反とかで捕まらないよう、このオープンWEBスペースの公開は一年後の設定にしておいた。


 今後、ぼくになにが起こるかわからない。せめてぼくの身に起きたことを、なにかに残しておきたい。


 話はもどり、スーパーストアーズの倉庫でもあり、警備室でもある部屋だ。


 ぼくは、ゲージのなかに入らされていた。もともとは貴金属の在庫を置くためのスペースだ。


 せまい金網のなか。扉の鍵は警備員が持っている。


「ぼくをだしてください!」


 大きな声で言ってみると、巨漢の警備員はふり返った。手にはシナモンロールを持ったままだ。


「ポリス・オフィスで、薬物検査を受けろ。そして完全にドラッグがぬけるまで、保護してもらえ。これは、おまえのためでもある」


 ちくしょう! 完全にジャンキーあつかいだ。


 こんなときに弁護士の知りあいでもいれば。そう思ったら、アパートのオーナーを思いだした。


 ぼくの家のオーナーは弁護士だ。だが、ハワイ島でもケチで有名な弁護士である。


 先日も家賃催促やちんさいそくの電話があった。数日遅れただけなのに!


 となりの人に聞いた話では、1週間、払いが遅れただけで玄関の鍵を替えられたそうだ。仕事を終えて帰ってきた本人は、鍵があかなくてびっくり。


 故障したのかと思ってオーナーに連絡を取ると、「すぐに家賃をはらえば、あたらしい鍵をやる」と言われたそうだ。


 おまけに鍵の付け替え代金は、後日に請求されたらしい。


 また、ちがうパターンもあった。二階に住むおじいさんに聞いた話だ。三日支払いが遅れたとき、水と電気を止められたらしい。


 やはり、いくら弁護士でもオーナーを呼ぶのはやめておこう。


 態度を変えてみるか。このままではダメだ。


「あー、ミスター。じつを言うと、ちょっと酔ってたんです。もう酔いもさめたし、そろそろ帰してくれませんか?」


 ハイイログマがふり返るように、ゆっくりと大きな灰色の制服がふり返った。じっとこちらを見つめる。


「・・・・・・嘘だな。」


 そう言うと、またTVにむかった。ちくしょう、なんでそこは勘がいいんだよ!


 それに、さっきから食べてるシナモンロールとコーヒーが、大変おいしそうだ。ぼくは三日前にライトビールは飲んだ。あれから、まともに食事をしていない。


 デスクの上、フタのついた紙コップの飲みものは、ふたつある。


「ミスター、お願いです。できればそのコーヒーを。のどがかわいて・・・・・・」


 そう言いながら、金網の隙間すきまから手をのばしたときだった。


 ウー! と、外からサイレンの音が鳴り響いた。


 パトカーの音じゃない。室内にいてもわかる。北から南から、あっちこっちから聞こえてくる。これは災害用のサイレン、街角のスピーカーからだ!


 ハワイ島で災害のサイレン。マウナケア火山が噴火したのだろうか。でもそれなら噴火のまえに煙があがる。今朝にそんな予兆はなかった。


 警備員さんが、壁にあるスチールのロッカーへ近づいた。ダイアル式の鍵をあける。なかに入っていたのは、大きなギターケースだ。


「あの、それは……」


 ぼくの声に警備員さんが反応した。


「念のためだ。だれにも言うなよ」


 そう言って床にギターケースを置いた。アタッシュケースのようながねをパチンとはずす。なかに入っていたのは、小さな拳銃。それにホルスターのついたベルトだ。


 だれにも言うな。そう聞こえた。では無許可ですか!


 警備員はベルトをつけると、拳銃の弾を確認した。そして腰のホルスターに入れる。


 それからいちど、外にでていく。でもすぐに帰ってきた。大きなスチールデスクの上にある電話の受話器を取る。どこかに電話をかけ始めた。


 しばらくコールしても相手はでなかったらしく、電話を切った。


「なんだ、なにが起きてんだ!」


 警備員はそう怒って、またちがう場所へ電話をかけ始めた。


 ぼくは外を見たかったが、ここは倉庫で無理だ。そもそも窓がない。


「ミスター、TVを!」


 かれがTVに視線をもどす。7回裏。4-3でカブスが1点リード。


「ちがう、ケーブルのほう!」


 ぼくの言葉でわかったらしく、TVを地元ケーブル局のローカルチャンネルにした。


 映った画面に、ぼくは口をあんぐりとあけた。警備員さんは手にしていた電話を落とした。


 ハワイ島上空に、巨大な飛行船がおりてきていた。それもひとつではない。ふたつ、いや三つだ!


 巨大な飛行船、それはピカピカに光る銀色の円盤ではなかった。「未知との遭遇」のようなキラキラした光も発していない。


 ごてごてしい鉄のかたまりで、全体的には黒くすすけていた。ところどころに修復したような箇所もある。まるで使い古された人工衛星のようだ。


 三つの巨大飛行船は、上空にぴたりと止まった。


 カメラが切りかわり、別の映像をとらえる。戦闘機だ!


 おそらくオアフ島のアメリカ軍基地から発進したのだろう。戦闘機が巨大飛行船にせまっていく。


 いきなり、ミサイルを発射した。


 もう撃つのか! そう思ったが、TVでは聞こえないだけかもしれない。無線で警告はしていた可能性はある。


 ミサイル攻撃が当たる! と思った瞬間、飛行船の手前で爆発した。


「バリア・フィールド!」


 ぼくは思わずさけんだ。バリアが存在する。ぼくの専攻は天文学で、科学や物理ではない。でもこれで、いくつかの法則には修正が必要になったのではないか。


 ぼくのような天文学をこころざす者は、いつも心の中で願っていた。「宇宙のどこかに、“かれら”はいるはず」と。


 しかしいま、目のまえにあらわれた感想は「オー・マイ・ガッ!」だ。


 TV以外の情報を確認しようとPCを見た。各SNSにも映像が寄せられている。そのなかに「チャンネル5を見ろ!」という、いくつもの書きこみを見つけた。


「ミスター、チャンネル5です!」


 警備員さんが、あわててチャンネルを変える。


 ふだんは全国ネットのチャンネルだ。だがそこには、映像ではなく文字だけが映しだされていた。


 タイトルは「Declaration of battle」、宣戦布告だ!


 そして自動音声で作ったような、機械的な声でこう言っている。


「地球のみなさまへ、これより侵略を宣言いたします。銀河憲章にもとづき、すみやかに対応してください」


 警備員さんが青ざめた顔で、こっちを見ている。


「だからぼくが言った。ここからだして!」


 ぼくのさけびより、警備員はTVのチャンネルを変えた。



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