表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/40

第23話 メジャーリーグ・オールスターズ

 スタジアムの熱気はすごかった。


「MAS! MAS! MAS!」


 強化ガラスにかこまれた特別席からの観戦。密閉された部屋だけど、ここまで観客の声援は聞こえてくる。


「MAS」というのは、「メジャーリーグ・オール・スターズ」の略らしい。


 なんでも教えてくれるのは、キアーナの護衛に呼んだ巨漢の中年。ヒロでぼくをつかまえた警備員のドミニクさんだ。


 このドミニクさんの同行、アメリカ政府から許可を取るには骨が折れた。


 伝えるのは必要最小限、そしてもちろろん秘密保持の契約。苦労して用意した護衛役だ。でもドミニクさんは、すっかり護衛を忘れて試合にのめりこんでいる。


「ベースボールには、ホームとビジターってのがある。この場合は、もちろん地球人がホームだな」


 ドミニクさんは、ずっとこまかく解説をつづけている。ぼくらのためと思うが、興奮したベースボール・マニアのひとりごとかもしれない。


 一回の表、攻撃はビジターである異星人チームから始まった。


 昨年の最多勝投手、リック・ジョンソンの第一球。直球。


「ストライク!」


 審判の声がひびく。ぼくらのいる特別席には、モニターもある。ちょうどガラス張りの窓と天井のあいだ、上から吊るすように設置されている。グラウンドを見ながら、同時にTV中継も見れるという便利さだった。


 第二球、今度も直球。だが外へはずれた。


「ボール!」


 ピッチャーマウンドに立つ背の高いリック・ジョンソンが、大きく肩をまわしている。さすがの大投手も緊張しているか。


 第三球、今度は逆にスローカーブ。外角へゆっくり落ちる。


「ストライク!」


 簡単にツーストライクまでいった。


 第四球、今度は直球。灰色の顔をした異星人の胸もとに、ずばっと決まった。


「ストライク、スリー!」


 バッターアウトだ。野球にくわしくないぼくが見ても、最多勝投手はダテじゃない。


 次の2番、3番バッターも簡単にストライクアウトを取った。


 異星人たちは、バットをふらなかった。ふる気がないのか、それとも打てないのか。


 一回の裏、今度はホームであるメジャーリーグ・オールスターズの攻撃。


「さて、宇宙人ってのが、どんな球を投げるかだな」


 ドミニクさんの言葉に、ぼくもうなずく。


 第一球、ボール。


 それほど早そうに見えない球。外角に大きく外れた。


 第二球、ボール。


 今度は高すぎた。ストレートだが、やはり早そうには見えない。


 第三球もボール。


 なんとワンバンした。キャッチャーがそらさなかったのが救いだ。


 ちゃんとストライクが入るのだろうか。


「ストライク!」


 モニターから審判の声が聞こえた。四球、五球目はストライクに入った。


「2ストライクと、3ボール。これで、フルカウントだぜ」


 ドミニクさんの言葉で、いまをフルカウントと呼ぶのだとわかった。


 六球目、思わず手をだした、という感じでバッドがふられた。それでも運よく三塁のうしろ、内野と外野のあいだに落ちてセーフ。


 地球チームの攻撃はつづく。


 二番バッター、マイケルなんとか。スタジアムの歓声がすごすぎて、モニターのアナウンスが聞き取れなかった。


 一球目、二球目、見送ってボール。


 カウント0-2、からの三球目。


 カンッと気持ちいい打撃音。低めのストレート。きれいにセンターまえへ打ち返した。


 いい調子でノーアウト、一塁と二塁へランナーがでた。


 三番バッターは、さきほどドミニクさんがさわいでいたレニー・チャン。


 一球目、どまんなかストレート。


 レニー・チャンが、ちょっと首をひねった。「こんな物か?」という感じだ。


 二球目、内角低めを軽々と打った。ボールは二塁と三塁のあいだをぬけ、きれいなヒットになった。


 ノーアウト満塁。


「さあ、きたぜ」


 ドミニクさんが、がぜん期待のこもった目をしている。


「さすがに、この四番は知ってます」


 ここで現在のメジャーリーグ最強打者、ぼくでも名前を聞いたことがあるホセ・オルティスの登場だった。


 どことなくドミニクさんを思い起こさせる褐色の巨漢。バッターボックスに入った立ち姿は、いかにも打ちそうに思えた。


 一球目。初球からフルスイング!


 ガン! という打撃音が客席まで聞こえた気がした。白球は高々にレフトスタンドへとのびていく!


 入った! なんてことだ。一回裏で満塁ホームラン!


 会場のムードは一気にのぼりきり、ぼくらが耳を押さえるほどの大歓声。


 あっというまに四点。4:0で地球がリード。


 つづく五番バッターも、軽々とツーベースヒット。


 六番は力みすぎたのが、ライトフライ。と、思ったらライトの守備がまさかのエラー!


「夜のナイターは、あがった球が見えにくいなんて話を聞いた気が」

「馬鹿言え。メジャーリーグの試合なんて、ほとんど夜だ。プロなら目をつむってでも取れるぜ」


 いや、さすがに目をつむっては無理だ。でも異星人にフライはむずかしいのだろうか。


 次も地球の攻撃。七番バッター、今度は逆方向のレフトフライ。レフトの守備はフライを取った。


 それでも落下地点を見あやまったようだった。当初のかまえる位置から、あわてて走って取った。


 ひょっとして異星人チームは、野球が初めてなのか。


 打者、一塁二塁のまま。ワンアウト。つづくは八番バッター。


 異星人ピッチャーの第一球。初球から打った!


 しかし、これはおしいことに、一塁を守るファーストの正面へ、するどい打球となった。


 灰色の顔をした異星人のファーストは、まっすぐきた打球を顔のまえで取る。一塁の走者はベースを離れていたので、あわててもどったが間にあわない。タッチアウト。


 地球のメジャーリーグ・オール・スターズは、追加点のチャンスにおしくも失敗。敵の異星人チームからすれば、これでやっとチェンジだ。


 会場がざわついているので、よく見ると、異星人のかれらがベンチへ帰ろうとしない。


 守備の位置から、何人かはうしろへふり返り、電光掲示板を見ている。


「チェンジ!」


 ベンチに帰らない異星人を見かねたのか、審判が大声をあげた。その声でやっと灰色の顔をした選手たちが動きだす。


 ここはガラス張りなので、まわりの観客たちのようすも見える。観客は、異星人たちがあまりにシロウトっぽいので笑っているようだった。


 白い半袖に、細い縦線の入ったユニフォーム。胸には大きく「Mets」の文字。ミラクル・メッツのユニフォームを着た異星人。でも、かれはシロウトだ。


 二回表、異星人の攻撃。


「ストライク、スリー!」


 気づけば、モニターから審判の声がひびいた。


 かれらはバットをふらない。あっというまにスリーアウト。これは一方的な試合になるかもしれない。


 司令官は怒りださないのだろうか。離れた席にいる緑色の顔をした中年、グリーン提督を見た。予想に反し、にこやかに観戦している。なんともわからない状況だ。


 二回裏、メジャーリーグ・オールスターズの攻撃。


 今回は運がないのか、0点で終わった。投手のリック・ジョンソンが打ったのに、つづく一番から三番はアウト。すべて中途半端なフライをあげた。


「だめだな、ホームランを意識しすぎている」


 ドミニクさんの解説に納得だ。そういうことか。


 三回表、異星人チームの攻撃。やっぱり、かれらはバットをふらない。


「おいおい、だれか、やつらにベースボールを教えてやったほうがいいぜ」


 ドミニクさんの言葉は辛辣しんらつだが、たしかにすこし不憫ふびんに思えてきた。


 三回裏、地球チームの攻撃。


 さきほどのホームラン打者、ホセ・オルティス。今回も初球からねらっていた。


 またも入る! そう思った打球はフェンス手前で失速し、相手のセンターにキャッチされてしまった。これでワンアウト。


 だが、その後の五番、六番、七番が連続ヒット!


 あっというまに満塁になった。八番はディエゴなんちゃら。となりのドミニクさんが解説をしてくれているが、興奮しすぎて言ってる言葉がわからない。


 打球は一、二塁間へのヒット!


 と思いきや、セカンドがすべりこみながらキャッチすると、ホームへ矢のような送球。


 キャッチャーはホームを踏むとすぐに一塁へ。


 巨大スタジアムが静まり返った。流れるような動きでダブルプレー。会場がざわついている。あのプレイは、なんだったんだ。観客のだれもがそんな顔だ。


 その答えは四回表、すぐにわかった。異星人の攻撃。打者は一巡し、一番バッターから。


 リック・ジョンソンの第一球。異星人が打った。きれいにセンターへ打ち、一塁打。


 つづく二番、第一球目にまさかのスクイズ。あわてたキャッチャーは、一塁にも二塁にも投げれず。


 ノーアウト、一塁二塁。


 メジャーリーグの選手たちは、相手の豹変ぶりに困惑している。無理もない。選手どころか、見ている観客のだれもが困惑していた。


 特別席で手をたたく音がした。すこし離れた席にいる緑の司令官だ。


 グリーン提督を護衛する黒のフルフェイス四人。かれらは、まわりではなく背後に一列で立っていた。


 こうなると、グリーン提督がひとりで観戦しているようなものだ。話しかけてもいい気がした。


 自分の席をでて、グリーン提督に近づく。ぼくを見ると、提督のほうから話しかけてきた。


「ようやく、いい戦いになりそうだな」

「かれらは、強いのですか?」


 思わず聞いてみた。すると司令官のほうが、おどろいた顔をした。


「あのチームを知らないのか。銀河で、もっとも有名なチームだぞ」


 グリーン提督は言ったが、すぐになにかに気づいた。


「そうだった。この星は、ほかの星との交流がなかった。とうぜん、ギャラクシー・リーグには未加入か」


 聞きまちがいだろうか。ギャラクシー・リーグと聞こえた。


「宇宙には、ベースボールがあるのですか!」

「多少、ルールのちがいはあるが、にたような競技がある」


 おどろくこと、この上ない。ベースボールは宇宙においてもメジャーだった!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ