第21話 お祭りの準備
次の日。
いつものように図書館で調べものをしていた。
司令官から腕の通信機へ連絡があり、例の白い球体ミサイルが飛んできた。
今回は中庭でミサイルを待つ。
飛んできたミサイルは地面にぶつかる寸前、理屈はわからないけど急ブレーキがかかった。ころりと地面にころがる。
あんなにさわぐ必要はなかったというわけだ。
球体のなかをあけ、書類を確認する。ぼくのサインの下に、司令官のものと思われるサインがあった。
マーキング、と呼ばれる拇印もあった。半透明な固まったもの。これが司令官のツバなんだろうか。
そんなこと考えていると、視界のすみに黒服の男を見つけた。
はいはい、とぼくはスマホを取りだし連絡をする。
「ギャザリング参謀議長、いまぼくに近づいてくる黒服の男」
「ああ、まちがいない。さっさと、わたしてくれ」
「了解しました」
近づいてきた黒服に書類をわたす。
なんてことはない、ぼくは書類配送サービス。フェデックスとおなじだ。
地球の代表というから、つねに気が重くなっていた。でも郵便配達員ならば、ぼくでもつとまる。
そう考えていたのだが、甘かった!
書類のやり取りをすればいいと思っていたのだが、そうではない。
むこうとの話しあいは、すべてぼくがおこなうのだった。
第一戦がベースボールに決まってから、激務のような毎日がきた。
試合日時の設定、球場はどこか。そこまでの移動は、異星人でも可能なのか。
また異星人の選手はどこから会場に入る、いや、相手ベンチに水は必要なのか?
あらゆることを、ぼくが聞かなければならない。
解決しなければならないことがあまりに多かったので、途中からウィルたち三人にも手伝ってもらった。
ウィルの家が、どこかのイベント会社の事務所みたいになった。決まったことを壁に貼る。決まってないこと、思いついたことは、ホワイトボードに書いておく。
「ESPNだって?」
ぼくはおどろいて声をあげた。受話器を持っていたウィルがうなずく。
ウィルの家に設置された電話は四つあり、すべてがアメリカ政府とのホットラインだ。
「今回の試合を独占放送させてくれってさ」
「政府がいいなら、なんでまた」
「ESPNが放送権料について、むこうと交渉したいそうだ」
「ええ?」
ぼくの疑問に、キアーナがすぐ説明してくれた。
「銀河憲章で、そこも決まってるのよ。戦いにおいて利益がでる場合、かならず50%ずつの取り分になるって」
そんなことまで規定されてるんだ!
「いいわ、わたしがでる」
「助かるよ」
放送権とかなんて、なにを聞いて、なにを話せばいいかもわからない。
日に日に、問いあわせは増えていく。
ありとあらゆる所から、宇宙人への連絡希望や問いあわせがあるらしい。
そのため、アメリカ軍は専用の窓口を作った。名称は「アメリカ軍宇宙人交流窓口」というものだった。
メール、電話、ファックス、手紙。そこで検査され、許可されたものが、ぼくらのところにくる。それをぼくは、グリーン提督にすべて聞かなければならない。
検査済みの書類も山のようにくる。メジャーリーグの協会、各種のイベント会社。
ESPNのことは、キアーナとグリーン提督がやり取りした。ぼくが同席していれば、グリーン提督も地球人と話すことができる。
ちなみに、キアーナは放映権料をESPNの歴代最高額を勝ち取ったらしい。全世界同時中継。たしかに、視聴数すごいことになるだろうな。
そして放映が決まったら、なにがくるか。広告だ!
どの広告がNGなのか、それも聞かないといけない。地球でも国によったらタバコの広告はダメとか、いろいろある。
まったく、これほどグリーン提督に聞くことや、連絡事項が多いとは思わなかった。
でもそうか。ぼくら四人は、これが地球をかけた戦いだと知っている。しかし世間はちがう。地球人VS宇宙人の親善試合。
それも地球側はメジャーリーグのオールスターだ。お祭りにならないわけがない。戦いへの準備というより、お祭りの準備となった。
日を追うごとに、着々と試合の詳細が決まっていく。
試合会場はなんと
「ドジャーズ・スタジアム」
となった。カリフォルニア州の大都市ロサンゼルスにある巨大スタジアムだ。56,000人の座席数をほこる。
ここでひとつ問題が発生。むこうの司令官、グリーン提督も「試合が見たい」と言うのだ。
また、観客席も確保してほしいというのだ。そのためのチケット料金はESPNの放映権料で支払うと。
100人分ほど用意すればいいだろう、と思ったら、希望は2,000人分。
巨大な宇宙船には、いったい何人が乗っているのだろう。
司令官の席はセキュリティの問題から、政府要人が観覧できるVIPルームだ。敵の司令官ではあるが、ここは最大の注意が必要になる。
地球人のだれかが司令官を攻撃し、あのグリーン提督がもし亡くなると即刻、地球の負けになる。
そしてグリーン提督がくるとなると、自動的に、ぼくも試合観覧に参加となった。
ウィルとスタッビーも試合を見たがったので、人数に入れる。
「私は無理、かれらとなんて怖いわよ!」
めずらしくキアーナが言った。
「通信した時は堂々としてたのに?」
「あれは映像でしょ!」
なるほど。あれかな。子供のころ、空手チャンピオンだった女の子が、ヘビのおもちゃで泣いた。あれとおなじだろうか?
「でも、キアーナがこないと、アメリカ政府と対等に話せないよ」
「いやよ。宇宙人も地球人も腐るほどいるのよ。どうやって身を守るの!」
「そこは、三人がいるじゃないか」
「三人って、あなたたち?」
ぼくら男子三人で見あった。うん。ウィルは護衛の役ができそうだけど、見るからに弱そうなぼく。そしてちょっと太めで背も小さいスタッビー。護衛は無理か。
護衛、と考えて、ある人が思いついた。
「プロの護衛をつけるよ」
「アメリカ政府の人はいやよ」
「いや、ぼくの知りあいだ」
そこまで言って、ようやくキアーナの了承を得た。
それからも準備に追われ、あっというまに試合当日がきた。
いよいよ、その日がやってきた。
地球防衛戦争の第一戦、ベースボールの開幕だ!