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第19話 第一種目決定

「停戦って、なんだろう?」


 ぼくは三人に聞いてみた。


「かなり、大胆な手ね。すべてふせるつもりだわ」


 キアーナが答えた。そこにウィルがつづけて言う。


「混乱をおさめるには、有効かもしれないが、バレないのかな。ああ、そうか!」

「そうよ。今回に限っては、宇宙人とのコンタクトは取れない。タッツ以外はね」


 なるほど。ぼくも理解できた。


 ふつうなら、各国のマスコミ、そしてジャーナリストあたりがこぞって真相を究明する。


 でも今回は無理だ。いくらあの宇宙船に話しかけても、まったく返答がないだろう。そういうふうに銀河憲章で決められてしまっている。


 停戦というウソ。それもいいのかもしれない。ひとのいないワイキキ・ビーチや閉鎖されたアラモアナ・ショッピングセンターのわきを通ると、戦争中というのが、いかに非常事態なのかと痛感する。


「そうか、それで親善試合だ!」

「そうよ、なにタッツ、いまわかったの? これもおなじ。タッツとアメリカ政府がだまっていれば、地球を賭けた戦いだとはバレないわ。ほんと、敵とだれも交信できないって便利よね」


 そう言ってハンバーガーの残りを食べようとしたキアーナが、ふと手を止めた。


「あの大統領、人気を取るのが上手なだけかと思ったけど、あんがい役者なのかも。各国の首脳と会談をかさねているのはニュースで見たわ。諸外国に対し、なにも真相は言ってないのね」


 そういえば、ぼくが軍の施設に呼ばれたときはG20の会議で不在だった。各国の代表から、いろいろハワイにいる異星人について聞かれたはずだ。すべて、はぐらかしたのか。


「タッツも、宇宙人も、このハワイに封じこめる。つなわたりだな」


 あきれたようにウィルが言って、アボガドの入ったハンバーガーにかぶりついた。食べながら話をつづける。


「でも、タッツが逃げたらどうする気なんだ」

「ウィル、それは無理だよ」


 答えたスタッビーのまえには、まるまった包み紙がひとつ。肉のパテが二段重ねのハンバーガーを買っていた記憶があるけど、もう食べたのか。


「早いな、もう食べたのか」


 ウィルもぼくとおなじ意見のようだ。


「まだ食べ中だよ」


 そう言ってスタッビーは、紙袋からハンバーガーを取りだした。なるほど、ふたつだった。


「スタッビー、ぼくが逃げるのは無理とは?」

「もう飛行場は閉鎖されてる。だれも島からでれないし、よそからも入れない」

「そうなの? ニュース見ないから知らなかった!」

「うわぁ、典型的な天文学者だな。一万光年以下のことには興味ないんだろ」

「そんなことないけど」

「おれも見ないぜ?」

「ウィル、あなたは美人キャスターのときだけ見るでしょ」


 キアーナの言葉に、ウィルは肩をすくめた。それを見てスタッビーが笑っている。


「でも、こうなると、三人とも気をつけてね」


 キアーナのあらたまった言葉に、ぼくをふくめ三人が注目した。


「わたしたちの行動や通信は、絶対にアメリカ軍に傍受ぼうじゅされてる。ちょっとでも機密をもらそうものなら、今度はつかまるかも」


 そうか、アメリカは異星人からの侵略戦争をかくし通すと、はらを決めた。ぼくも銀河憲章で守られてるとはいえ、気をつけないといけないか。


「おもしろいな。タッツ、日本の家に電話をかけてみろよ」

「ちょっとウィル、冗談でも笑えない。政府を刺激してはダメ」


 キアーナの真剣さに、ぼくを取り巻く状況というのは、絶妙なバランスなのだとわかった。


 政府の臨時放送は終わり、TVは通常の番組へもどった。


 通常の放送にもどったTVでは、ニュースキャスターと天文学者が議論をかわしている。


 議論の内容は、いったい宇宙人はどれぐらいいるのか、という話題だ。


「これ、タッツの意見を聞きたいな」


 ウィルが聞いてきたので、思わず考えこんだ。半分ほど食べていたハンバーガーをテーブルに置く。


「むずかしいな。計算方法によってあまりに差がでる。なかなか結論がでないよ」

「最小と最大で言うと?」

「そうだな、ぼくらが見あげる夜空には、銀河系の星々が2000億個ぐらい輝く」

「2000億か」


 ウィルが天井を見あげた。図書館だから空は見えない。


「じゃあ、その2000億のうちのひとつが地球ってわけだ」

「ちがうよ、ウィル。地球のような惑星は見えない」

「見えない?」


 ウィルが顔をおろし、ぼくを見た。そうか、一般的に星は星だ。恒星だとか惑星だとか考えないか。


「この2000億は、太陽とおなじ。燃えて光る星なんだ」

「夕方ごろ最初に見える一番星は、金星じゃなかったっけ?」

「それは、太陽に照らされてるから。そして地球と金星が近いから見えてる。でも遠くからだと惑星は見えない」


 ウィルが納得したようにうなずいた。


「じゃあ、じっさいは、2000億よりもっと多くの星があるのか」

「そうなんだ。2000億の輝く星のまわりには、この太陽系とおなじように惑星がいくつもあるはず。そのなかで地球のような居住可能惑星がいくつあるのか。100億はあるという学者もいれば、いや10もない、という学者もいるんだ」


 すこし考えた顔をしたウィルが、肩をすくめた。


「100億の説と、10以下の説。まさに、天文学的な差だな」


 ウィルの言いように笑えた。たしかに天文学的だ。


「第一種目決定ってわけだけど。ベースボールってどう思う、スタッビー?」


 気を取りなおしたようにウィルがスタッビーに聞いた。今度はスタッビーが考えこんでいる。


「うーん。悪くはないと思うよ。こっちの話でも何度かでただろ。ベースボールならいけるかもって」


 そう、ぼくらが話していたなかでも、ベースボールはどうか、という案は何度もでた。


 まず、ベースボールはルールが複雑。ぼくらは当たりまえのように打ったら一塁に走る。でも、ベースボールを知らない人間から見たら、意味がわからないだろう。


 それに道具を使用するスポーツ、というのも良い点だ。道具をつかうということは、よりその道具になれている者が有利になる。


 そしてなにより、選手の多さ。世界的な競技人口の多さでは「サッカー」か「クリケット」だ。でもアメリカなら断然ベースボールだった。


 そしてベースボールと言えば、アメリカにはメジャーリーグがある。


 メジャーリーグのオールスターなら、さすがの異星人でもかなわないだろう、と予想できる。


 ぼくらも案としては何度もでた。でも最終的にベストな答えなのか、と考えると悩んでいたのだった。


 ぼくらとしては、ぼくらなりの案を決めて、政府に進言するつもりだった。政府が聞く耳を持たなければ、NASAのおえらいさんでもいい。


 一応ぼくは、国防長官、アメリカ統合参謀本部議長、NASA長官、この三人への連絡先は教えてもらっている。


 逆に言えば、この三人以外への連絡は禁じられている。


 せっかく大学という環境にいるのだ。教授や研究者の人たちに力を借りたいのだが、機密保持というやつで、だれにも相談できない。


 キアーナの交渉によって、この三人とだけ、話をすることはゆるされた。そして、この三人も機密情報の守秘契約にサインをしている。


「しかしまあ・・・・・・」


 いつのまにかハンバーガーを食べ終えたウィルが、包み紙をまるめながら口をひらいた。


「この世界で真相を知るたった四人の民間人。監視さえしておけば害はないという判断なんだろうけど・・・・・・」


 そこまで言って、ウィルはまた図書館の高い天井を見あげた。


「なによ、ウィル」

「キアーナ、やっぱりおれたち、学生なんだな」

「どういうこと?」

「軽く見られてるってこと」

「そうね。それはまちがいないわ」

「そうだな。なにもできないしな」


 だれもいない大学の、だれもいない図書館だった。


「ぼくには、心強いよ」


 三人にむかって言った。それは心から思っていることだった。


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