第18話 公式発表
毎日、ぼくら四人は図書館にあつまった。
数日かけて、ありとあらゆるスポーツを調べる。
だけど相手の能力がわからない、という状況は、どのスポーツを選ぶべきか答えがでない。
基本的なねらいはある。ルールが複雑であり、競技も複雑であること。
宇宙人が初めてやって、混乱する競技。これにつきる。
いつものテーブルで、四人それぞれに本をめくっていると、ウィルが声をあげた。
「キアーナ、戦いの流れを教えてくれないか?」
四人がそれぞれ本を読んでいたが、キアーナが読んでいるのは銀河憲章だ。ぶあつい銀河憲章をとじ、となりに座るウィルを見た。
「いいわ。こまかいところは、はぶくわね」
テーブルをはさんで座っている、ぼくとスタッビーも手にしていた本を置いた。
「999メセタのあいだに、第一戦目を申請する。すると今度は、準備する時間が最大で、999メセタね」
「最大でってことは、それ以下でもいいってことか」
ウィルが疑問を入れた。
「そうね、双方の合意ができれば、すぐにでも始められるわ。でもこれは、こちらが競技を決められるという利点があるのに対して、むこうがその準備をする時間だと思うの。だから、すぐにってことは実際にはないと思う」
ウィルはうなずき、次にななめまえのぼくに顔をむけた。
「タッツ、999メセタって地球の時間でいうといくつなんだ?」
「減り具合を数えてみたけど、だいたい一ヶ月ぐらいかな」
一日にどれぐらい進むのだろうかと、まえに数えていたことがある。だいたい一日たつと33ほどカウントダウンが進んでいた。
「いまいくつだ?」
ぼくは腕の通信機を見た。
「667だね」
「ワオ、もうすぐ666だ」
ぼくのとなりに座るスタッビーが言った。アメリカやヨーロッパでは「666」という数字は悪魔の数字と言われている。
「じゃあ、政府の放送は、悪魔の時刻にするというわけだ」
ウィルの言葉で思いだした。今日の13時から政府の公式発表がある。
「ねえ、昼食をすませておかない? 政府の発表を聞いたら、食欲なくなるかも」
キアーナの意見に、三人とも賛成した。
ところが、四人で図書館をでて近くのデリにいってみると臨時休業だった。すこし遠いハンバーガーショップまで歩いていくと、思いのほか時間がかかった。
それぞれ好みのハンバーガーを買って帰り、図書館のテーブルで食べ始める。
「そろそろ時間だわ」
キアーナが言った。時計を見ると、12:57、三分前だ。
先日にウィルが持ってきたTVが、低い本棚の上に置いてある。電源を付け、全国放送のチャンネルにして待った。
どんな発表があるのか。まったく予想できない。あれからぼくのほうに、アメリカ軍や政府の人からの連絡もなかった。
四人で静かに待つ。放送が切りかわり、はためく合衆国の国旗が映しだされた。
「アメリカ合衆国の国民のみなさま、合衆国大統領のルイス・ジェファーソンです」
執務室の大統領がでてきた。
ちょっと気の毒なのが、この人は「初めて宇宙人と会話した大統領」と呼ばれていいはずである。
だけどネットのあだ名では「初めて宇宙人にケツをねらわれた男」と言われている。
そのケツをねらわれた男が、現在の状況について説明し始めた。
「前回の放送で、おどろかれた人も多いでしょう。ですがいま、宇宙人と地球は停戦状態にあります」
停戦?
ぼくは意味がわからなかった。
「今後の交渉については、はっきりとは明言できませんが、戦争が起こることはない、と断言いたしましょう」
ほかの三人を見たけど、みんなも顔が「?」になっている。
「各国首脳と緊密な連携を取り、この問題には取り組んでいきます。国民のみなさまには、いままでと変わらぬ生活を保障いたします」
大統領が、ここでひと呼吸置いた。
「さて、もうひとつ、重大なお知らせがあります。いま現在、宇宙人と地球人で、ベースボールの親善試合を計画しております」
ベースボールの親善試合?
ぼくはもう、ワケがわからない。そんな気分だったけど、ななめまえに座るウィルがつぶやいた。
「そうきたか」
そうきたとは、なんだろう。まだ大統領が話をつづけているので、ウィルにはあとで聞いてみることにする。
「日時と場所は、決まり次第にお知らせいたします。それでは、現在の宇宙人の状況を国防長官からご説明いたします」
大統領がそういい終えると、画面が切り替わった。
画面には国防長官があらわれている。これはたぶん録画した映像だ。宇宙船が何隻、どこにいるか、などを説明している。とくにあらたな情報はなかった。
停戦。あの大統領はそう言った。ぼくは敵のグリーン提督から、そんな話は聞いていない。
それにベースボールの親善試合。ぼくにはまったく意味がわからなかった。