表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/40

第14話 未知との遭遇

 ぼくは腕にある通信機をかまえた。


 なぜか三人は、テーブルのむこうへ座り、ぼくを見つめている。


「なんで、一列でながめてるの?」

「そりゃそうさ、地球人と宇宙人のコンタクトだ。生まれて初めて見る」


 ウィルの言葉に納得だ。三人は期待のこもった目でぼくを見ている。


 ぼくは腕の通信機を持ちあげた。まちがえないように押さないと。


 まえにウィルが適当にボタンを押すと、近くの自動販売機がゆれるという現象が起きた。


 たしか上部にふたつある豆ほどのでっぱり、その左側が呼びだしボタンのはずだ。


 おそるおそる押してみると、たしかにカチッと音がした。


 しばらくすると、通信機から声が聞こえる。かなり小さかったので、耳に当てた。


「司令官ですか?」

「ミスター・オチ。申請の準備ができたかね」


 こちらの部屋では、スタッビーがウィルの耳にささやいていた。


「あれで会話できるの?」

「そう。しかも、たぶん電子レンジにもなる」

「まじか!」


 スタッビーの声は大きかった。しー!とキアーナに怒られている。


「だれか、まわりにいるのかね」


 司令官の声に、ぼくはあわてて答えた。


「すいません。友人が三人います」

「そうか。ならばスクリーンで話そう。通信機の上のでっぱりを引きぬいて、まえに置いてくれたまえ」


 でっぱり。腕時計を見た。さきほど押した左側のボタンではなく、右側のでっぱりか。


 豆ほどのでっぱりを指でつまんでみる。引いてみるとぬけた!


 ぼくはテーブルにむかっていたが、三人はテーブルのむこうだ。ぼくのほうがイスを回転させて、三人が背後にいるようにした。


 四人の前方に置いてみる。距離はどのあたりだろう。わからないので5メートルほど前方にした。


 床に置いた豆のような金属が光る。編み目のような青い走査線が周囲に走ったかと思うと、とつぜんに司令官の執務室が現れた!


 ぼくらの目のまえには、デスクに座る緑の司令官が見える。


「オー・マイ・ガー!」


 イスに座っていたスタッビーは、うしろにひっくり返った。


 さらにおどろいたことに、ウィルが立ちあがった。テーブルをまわってまえにくる。


「これは司令官閣下。おはようございます。おれの名はウィル・ジョーンズ。地球での暮らしはいかがですか?」


 おどろいて目が飛びだしそうだ。なんてウィルは礼儀正しいのだろう。いやでも、おどろきはそこではない!


「私は、きみたちの上司ではないので閣下は付けなくていい。ミスター・ジョーンズ。だが、ありがとう。みな、すこやかに生活している」


 緑の顔した司令官は、いつもの調子だ。それよりウィルの心臓の強さに、ぼくはあいた口がふさがらない。


 ぼくとは反対に、ウィルは会話をつづけた。


「お名前は、なんとお呼びすれば?」

「ミスター・オチには、なんでもいいと伝えてある。緑のクソ野郎でも」

「よいジョークですね。では、グリーン提督ていとく。こう呼ぶのはいかがでしょう?」

「かまわんよ」


 グリーン提督と名づけられた司令官は、あらためてぼくを見た。


「要件はなにかな、ミスター・オチ」


 ぼくは気を取りなおし、背筋をのばしてイスに座った姿勢を正した。


「前回にいただいた銀河憲章。もし英語ヴァージョンがあれば、もらえませんか?」

「問題ない。急ぐのかね?」

「あー、できれば」

「よかろう。用意でき次第、そちらに送る」

「ありがとうございます」


 よかった。意外に簡単だった。


「ちょっと待って」


 背後から声がした。今度はキアーナがテーブルをまわってまえにくる。


「キアーナ・カウラナと言います、司令官。すこし質問してよろしいですか」

「ミス・カウラナ、ミスでよいかな? 答えられる質問であれば、答えよう」

「ミスですが、キアーナで結構。9つの戦い、とはスポーツもふくまれるのですか?」


 いきなりの切りこみだ!


 ぼくはおどろいたが、司令官はふつうに答えた。


「ルールでさだめた競技のことだね。もちろん可能だ。ルールブックを申請時にそえてほしい。こちらの審査が通れば問題はない」


 キアーナの視線がするどく動いた。おそらく、いま頭をフルで回転させている。


「さらに聞いてよろしいですか?」

「どうぞ」

「審査とは?」

「おもに公平かどうか。そして以前からあるルールか」

「以前とは?」


 単語のひとつひとつ。そうか、法律を学んでいるキアーナがいてよかった。


「今回の場合で言うと、ミスター・オチが当艦にむけ光信号によって返信したとき。あの地球標準時がボーダーラインとなる」


 背筋が寒くなった。ぼくの行動が、この戦いの始まる基準になっている。


「日時による境界線を決める理由がわかりません」

「理由は簡単だ。ルールの改変や、あらたに作る競技を禁止するためだ。極端な話、ルールで緑色は負け、と書かれたら、私は戦いようがない」


 ジョークだ。でもキアーナは、にこりともしない。


「では、いままでに存在したスポーツでなくてはならない、ということですね」

「理解が早い。基準となるのは公平さなのだ」


 グリーン提督がほほえんだ。でもキアーナは眉をよせ、おどろくことに詰めよった。


「でも、おかしい。公平さと言うのなら、侵略戦争自体が公平ではないわ」

「戦争はスポーツではない。軍事力の勝負だ。公平さは関係ない」

「ではなぜ、スポーツでもいいの。戦争なら、あなたたちが余裕で勝つわ」


 ぼくはウィルを見た。ウィルも、じっとふたりのやり取りを見つめている。


 空中に映しだされたグリーン提督は、考えているのか、すこし間があいた。


「星間戦争の長い歴史を知らないようだ。星と星との戦いでは、いきつくさきは星の消滅までありうる。それを回避するために生まれたのが銀河憲章だ」


 長い歴史と言った。ぼくら人類が月を歩いたと感激していたのが1969年。宇宙はすでに戦いの場だったのか。


「軍事力による戦争をするかどうかを決めるのは、きみたちだ。われわれは銀河憲章にそっている。そして銀河憲章は、どちらにも公平にできている」


 今度はキアーナのほうが考えに沈んだ。あまり間があくと、この会談が終わる。おそらくキアーナはそう思っているだろう。キアーナから、すごい緊張感が伝わってくる。


「地球人は、あなたたちのことを知らない。それでも公平なの?」

「相手チームを研究するかどうか、これはルールとは関係ない。それとも、地球という星では、相手チームの研究はルール違反なのかね」


 キアーナがだまった。考えをめぐらしている顔だったが、それがふっとゆるんだ。


「ありがとうございます、司令官。生意気な口調をおゆるしください」

「なにも、問題はない」


 キアーナはさがった。グリーン提督がそれを見てうなずく。


「それでは」


 グリーン提督が通信を切った。


 ウィルとキアーナが、おなじようにため息をついた。


「これは・・・・・・多分、手ごわいな」

「ええ。ちょっと衝撃的だったわ」


 ぼくは、ふたりの肝の太さにあきれた。


 ふたりは未知との遭遇が終わったが、イスごと倒れている人がひとり。


 スタッビーをみんなで引き起こすと気がついた。自分が失神していた状況に気づき、頭をかかえる。


「うわー、歴史的瞬間を見のがした!」


 ウィルがスタッビーの肩に手を置いた。


「これから、いくらでも見れるって」

「はずかしいよ。おれだけ」


 スタッビーの言葉に、ぼくは笑えた。


「それなら、ぼくのほうが、はずかしい。宇宙人に会うまえに倒れたんだから」

「ほんとに?」

「そう。宇宙船に入った瞬間に」

「うわっ、それ、おれも自信ない!」


 ぼくだけでなく、ウィルとキアーナも笑った。それはきっと、スタッビーの臆病さに笑えたのではなく、すなおすぎる言いかただろう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ