表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/40

第13話 あつかましい注文

 キアーナは、ハワイ大学の法学院生だった。


 はっきりとは聞けない。けど、ウィルとキアーナは、以前に付きあっていたのだろう。


 そしてキアーナは、ウィルにパンチを入れた。ふたりがわかれたのは、ウィルのせいにちがいない。


 キアーナを仲間に入れ、ここまでの経緯をまた説明することにした。


 だれもいない図書館にある四人がけのテーブルにつく。ぼくのとなりがスタッビー、テーブルをはさんでキアーナだった。


 ぼくは正面にいるキアーナにむけて、身ぶり手ぶりをまじえて説明した。


 説明が終わると、ぼくのななめまえ、キアーナのとなりにいるウィルが口をひらいた。


「そういうわけで、法律の専門家、法学院にかよっているキアーナを呼んだわけさ」


 ウィルは笑顔で言ったが、話を聞いたキアーナは、ご多分にもれず固まっている。


「あの宇宙船、そんな背景があったのね」


 ようやく事態が飲みこめたのか、うなるようにキアーナが言った。


「そう、だからキアーナ、助けてよ」


 なぐられた相手に笑顔でたのめる。ぼくはウィルの神経の太さに感心した。


「まあ、おれは政府にまかせたほうがいいと思うけどな」


 よこから言ったのはスタッビーだ。


「いいわ。手伝うわ」

「ほんとに?」


 ウィルが聞き返した。キアーナがうなずく。


「タッツの話だと、ハワイ島に核ミサイル打ったんでしょ。ちゅうちょなく。馬鹿な男どもにまかせておけないわ!」


 キアーナはそう言って、眉間にシワをよせた。


「で、その銀河憲章ってのは、どれ?」


 キアーナの質問に、男ども三人は顔を見あわせた。


「・・・・・・とりあえず、飲みものでも買ってこようか」


 ウィルの提案に、ぼくは大賛成だった。


「まったく男どもって馬鹿だわ!」


 飲みものと食べものを買ってきて、すこし休憩したあとだった。テーブルのむかいに座るキアーナは、怒りながら本をめくっている。


 めくっている本は法律のぶあつい本だ。政府にぶんどられた銀河憲章を、どうにか取り返せないかと方法を探していた。


「ごめん、そこを考えてなかった」


 わざわざ呼んでおいて、かんじんの銀河憲章がない。これはもう、あやまるしかなかった。


 ウィルはさきほど「TVを調達してくる」と言って、でかけたままだ。


 スタッビーが、おそるおそるキアーナのとなりに座った。


「取り返せそう?」

「むずかしいわね」


 それはそうだろう。ここの図書館の本は借りていくだけだが、政府を相手にそれはできない。


 それにもう、あの本はワシントンに送られているはずだ。


「思ったんだが、そんなに、むずかしくないんじゃないかな」


 ウィルがTVをかかえて帰ってきた。


 TVを壁ぎわにある本棚に置く。腰の高さほどの本棚で、下にならんでいる大きな本は、ハワイの風景を撮ったフォトブックのようだった。


 ウィルはTVを置くと、長いアンテナコードを接続し始めた。


「ウィル、どうやって銀河憲章を取り返すのさ?」


 スタッビーが聞いた。でも返ってきた答えが意外すぎた。


「銀河憲章をください、って言うんだよ」

「冗談だろ、マクドナルドでケチャップもらうんじゃないんだ。政府だぞ。アメリカ合衆国政府!」


 スッタビーの言うとおりだ。まあ、ぼくはマクドナルドで、ケチャップをたのむのも勇気がいる。だけど銀河憲章を政府からもらうのは、それの100倍はむずかしい。


「政府じゃないよ。やつらにさ」


 そう言って、ウィルはTVを点けた。画面には巨大な宇宙船がうつしだされている。ハワイ島の沖に浮かぶ、異星人の船だ。


 到着時に三つだった宇宙船は、そのあとさらに増えた。空に浮かぶさまざまな形状の巨大船が、いまでは六つ。


「あ、かれらにか!」


 ぼくが言うと、ウィルはうなずいて腕時計に指をさす仕草をした。


 なるほど、そうだった。ぼくはいつでも連絡ができる。


 かれらは「銀河憲章」を大事にしているのだから、一冊しかないとは考えにくい。


「待った!」


 スタッビーが声をあげた。


「手に入ったとして、その次も問題が。だれが読む?」


 スタッビーの指摘はもっともだ。ぼくはウィルを見た。ウィルが肩をすくめる。


「さすがに、言語学者の知りあいはいないよ」


 いないか。ウィルならそんな友人がいそうな気がした。


「考古学でもいいんじゃないか。エジプトの古代文字を解読するような」

「スタッビー、おれが友人を無限に持ってるなんて思ってないよな」


 ぼくは思ってた。おそらくスタッビーも思ってる。


「どちらにしても、まずは手に入れて、解読できそうな人を探そう」


 ウィルに賛成だ。たしかに、なんにしても本が必要となる。


「もう一冊くださいか。あつかましい注文だけと、言ってみるよ」


 自嘲気味じちょうぎみに言うと、ウィルが笑いながら、ぼくのとなりにきて座った。


「だいじょうぶ。べつにファルコン号をよこせって言ってるわけじゃない」


 ファルコン号、スターウォーズにでてくる銀河系最速の船か。


「ファルコン号? エンタープライズ号じゃなくて?」


 スタッビーがすぐ話に乗る。エンタープライズ号は、スタートレックだ。


「あっちは最速でもなんでもない。すぐにこわれるし」


 ふたりの会話を聞き流しながら、腕の通信機を押そうとした。


「ちょっと!」


 テーブルをはさんだ正面。キアーナの声で、スイッチを押す手を止めた。


「その、あつかましい注文、さらに、あつかましくできないかしら?」


 キアーナの言葉に、ぼくは首をかしげた。


「これよ」


 いままでめくっていた本だ。ぶあつい本の表紙をぼくに見せた。


「LAW OF JAPAN」


 日本の法律を英語でガイドした物。キアーナの言いたいことがわかった!


「銀河憲章も英語の翻訳をもらえってことか!」


 ぼくは思わず大声がでたが、残るふたりも納得の顔をしている。


 いやはや、かなりあつかましい。でも言ってみる価値はある。


 ウィルが立ちあがり、キアーナのよこに歩みよった。そしてキアーナの持つ本を見つめる。


「なんで、日本の法律なんて調べてるんだい?」

「ウィル、いい質問ね。これはタッツの状況を知るため」

「ぼくの?」

「そう。タッツのいまの状況って、すごくデリケートなのわかる?」


 わからない。ぼくは首をふった。


「あなたは日本人なの。基本的には日本の法律の下にいる。でもここはアメリカ。アメリカの法律が適用される」


 よこにいるウィルが大きくうなずいた。


「そうか。よくタッツは政府につかまらないなと思ってたんだが、そういう側面もあるのか」

「そうなのよ。日本人が、アメリカにいて、地球の代表になってる。これ、かなりややこしいわよ」


 なるほど、言われて気づいた。たしかにそうだ。


 あのギャザリング参謀議長が言った「これ以上、事態をややこしくしないでくれ」とは、ぼく自身のことだったのか。


「おもしろいな」


 ウィルが、人の悪そうな笑みを浮かべている。


「アメリカと日本か。じゃあアメリカが、タッツをつかまえたとする。日本はどう動くだろうな。ふつうなら黙認。でもタッツは地球の代表だ。日本は地球の代表になれるチャンスがある」


 おもしろいというか、それを聞くと、ぼくはアメリカだけでなく、日本からも追われるのだろうか。


「注目のマトだな、タッツは」

「ぼくは、ただの天文学生。そもそも天文学なんて、もっとも注目されない学問なのに」


 ぼくがそう言うと、三人とも「それは、まあ」とか「うーん」とか、あいまいに答えた。否定はしないんだなと、すこし笑えた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ