098 ドラちゃんとドラニちゃんが神聖教国に異端調査官の退職届を届けた
牧場からスパエチゼンヤに戻って来た。
エチゼンヤさんに会って、牧場の敷地を拡張したのでその届をお願いした。きっちり東西10キロ、南北15キロだから届けは簡単だろう。
昼食にしよう。
塩をアングレア王国とスパーニア王国に届けに行ったブランコとエスポーサはまだ帰ってこない。賑やかなブランコと静かなエスポーサ。対照的な二人だけど仲がいい。二人が居ないのは寂しいな。
宰相の執務室
ドアがノックされた。
「宰相、御ローコー様から牧場の敷地を拡張したとの届が出て来ました」
「そこに置いておけ」
「あのう」
「なんだまだ用か」
「スパエチゼンヤと敷地が同じ規模となりました」
「そうか。同じか。同じか」
頭に言葉が入り込まない宰相。どうもローコーとかスパエチゼンヤに頭が拒否反応を起こしているらしい。
「同じ規模の敷地か」
やっと理解した。広いことは広いが法律に違反しているわけでなし、他にこんな広く囲える奴もいないからいいかと書類にサインした。
さて異端調査官二人の退職届を神聖教国に出さなくちゃあね。ドラちゃんとドラニちゃんに行ってもらう。場所分かる?調査官二人の記憶を見たから分かるってか。すごいな。じゃ頼んだよ。キュ、キュと飛んでゆく。
神聖教国 教皇の執務室
ドッカーン。教皇の執務室の壁が壊れ土埃が舞う。部屋にいたピオーニ教皇とギーベル首席異端調査官は呆然と固まった。やがて埃が薄れると目の前に超小型ドラゴンが二頭浮かんでいる。圧が超小型どころではない。一頭が前足を振る。紙が2枚教皇の前のテーブルに現れた。『読め』と頭の中で声がする。読むとリュディア王国に派遣した異端調査官の退職届だ。『良いな』、再び頭の中に声が響く。恐ろしい圧だ。頭が破裂しそうだ。承諾以外の回答をしたら、頭が内側から破裂する事がわかった。
「承知しました」
声を振り絞って返答した。
二頭は壁の穴から飛んでいった。すぐドッカーン、ドッカーンと音がした。
なんだ、と調査官と顔を見合わせる教皇。
やがて衛兵が駆けて来た。宿舎の2部屋が超小型ドラゴンに破壊されたとの報告であった。
その時大音響と共に地響きがし、もうもうと土埃が押し寄せてきた。
土埃がやや収まったので外を見ると、いつも目に入る大神殿がない。神聖教の象徴の大神殿がない。大神殿が建っていた場所には瓦礫が積み重なっているのみ。神像も経典も祭壇も何もかもが瓦礫と化した。
空には巨大なドラゴンが2頭、悠々と飛んでいる。こちらを向きそうだ。全員慌てて伏せる。
キーンと音がしたと思ったら、ドッカーンと衝撃波がきた。建物がゆさぶられる。全ての窓が破壊された。
「行ったか」
教皇が衛兵に聞く。
「多分」
「あれに勝てると思うか」
ギーベル調査官に聞く。
「残念ながら」
「おい衛兵、被害を調査しろ」
「調査しろだと、じぶんでやれ」
「反逆する気か。異端裁判にかけるぞ」
「ふん。やれるもんならやってみな。首席だと思って威張り腐って。大神殿は跡形もないじゃないか」
「神を愚弄する気か」
「手も足も出ずドラゴン様に破壊されて、神聖教の神なんて、ただの偶像だったんじゃないか」
「おのれ衛兵の分際で」
「ギーベル、もう良い。衛兵の言う通りかもしれん。余は今まで神の声を聞いたことはない。いくら祈ってもだ。我らの神は我らが作った妄想の産物かもしれぬ」
「教皇様ーーー」
「ギーベルよ、余はさっき確かに頭の中にドラゴン様の声を聞いた。ドラゴン様は神か神の眷属だろうよ」
「そんな」
「二人の退職届は受理。すぐ各地の聖職者、異端調査官、特務を引き上げさせろ。教会は閉鎖。塩の販売制限も解除せよ」
秘書官が出て行った。
「それでは神聖教が潰れてしまう」
「余が各地の教会がやっている事を知らぬと思っているのか。神の名の元に不安を煽り人々の財を貪っているに過ぎない。異端調査官が異端の名の下に事実をでっち上げ、上下貴賤、気に入らぬ者を処刑し、財を盗んでいるに過ぎない。今回の事は神の怒りだろうよ。出て行った6人は今頃どこを歩っているだろうか。6人は真の聖職者だ。6人が羨ましいな。そうは思わぬか、ギーベル」
「変節漢、棄教者め、神は許さぬ。ピオーニ、死ね」
ギーベル調査官が懐から短刀を出し、教皇の腹部を刺した。
「痴れ者が」
ギーベル調査官は衛兵の一刀のもとに斬り伏せられ息絶えた。
「教皇様」
「衛兵か。神は許してくれると思うか」
「最後はご立派でした」
「まだ死んではおらぬ。これから死ぬところだ」
「ドラゴン様の御加護がありますように」
「ああ、世話になった。もう行け。いつまでも居ては変に疑われる」
「さらばでござる」




