097 神聖教の異端調査官2名がスパエチゼンヤに調査に来た
ギーベル首席異端調査官に派遣された異端調査官2名が、スパエチゼンヤの門前に到着した。
「賑わっているな」
「出店も沢山出ていますね」
「楽しそうだな」
「生き生きしています」
「腹が減ったな。串焼きでも食うか」
「腹が減っては戦は出来ぬと言いますから」
「うまいな」
「そうですね」
「何を調査すればいいんだろう」
「先ずは銭湯に入ってみますか」
「靴はここで脱ぐのか」
「下足箱と書いてありますからその箱に入れて木の札を取るのでしょう」
「鍵になっているぞ」
「便利ですね」
「カウンターがあるぞ」
「料金をここで払うのか。安い、串焼き一本の値段だ。手拭いとか無料で貸してくれるらしい」
「次は、男と書いてあるからこっちだろう」
「脱衣所みたいですね」
「ここで脱いで箱に入れるらしい」
「箱に鍵が付いているぞ」
「みんなの様子を見ると鍵は手首にしておく様です」
「この紐は伸び縮みするぞ。便利だな」
「トイレがあるぞ」
「臭いませんね」
「大の方に入ってみろ。すごいぞこれは」
「おおお、おおおおお」
「風呂は」
「広い、明るい、清潔だ」
「ここで洗ってから入るらしい」
「おお、垢が出る」
「頭がさっぱりする」
「湯船はどうか」
「ああああ、極楽、極楽」
「ああああ、天国の様だ」
ハッと顔を見合わせる二人。
「「ーーーーーーー」」
「しかし、気持ちいいな」
「全く。神の仕業か、悪魔の仕業か」
「悪魔の仕業だろう」
「テメーら、何言ってやあがんだ」
「ここは神様がお作りになった温泉銭湯だ」
「ゴタゴタ言うんなら神様の代わりに俺たちが罰を与えてやる。表に出ろ」
「そうだそうだ」
「中で騒ぐと神様の顔に泥を塗ることになる。門の外でやれよ」
「おう、分かってらあ」
「堪忍、堪忍。ここは極楽の湯だーー」
逃げ出す二人。這う這うの体で外へ出る。
しばらく走り、誰も追いかけて来ないのを確認して、ほっと辺りを見回す。
「ここは何処だ」
「滝がある。涼しい風だ。水も澄んでいて冷たい。小川となって流れて行く。木々の緑が目に沁みる。自然に散らばる岩石。水の瀬音。極楽か」
「ああ、こんな、こんな世界があるなんて。森は魔物と盗賊の巣窟だったり、川はゴミと汚物に満ち臭く濁っているのに。ここは天国か」
「おう、旦那方、よく分かっているじゃねえか」
「ここは神様の恩寵の地よ」
「俺たちは神様がお示しになったこの世界に一歩でも二歩でも近づかなきゃいけねえ。オメエたちも頑張れや。ガハハハハ」
「「はい」」
返事してしまった、どうしようと悩む、異端調査官の二人。
キュ、キュと言いながら飛んでくる超小型ドラゴン。
「おい、ミニドラゴンが飛んでくるぞ」
「あれが調査対象の悪魔のドラゴンか」
「それにしては可愛いな。キュ、キュと鳴いているぞ」
「悪さをするとは思えないな」
「こっちへ来るぞ」
異端調査官の目の前で超小型ドラゴンがホバリングする。
「よしよし、どうした」
「お腹が空いたのか」
「門前で買った名物スパセンベーがあるからやろう。ほらお食べ」
「こっちは元祖エチゼンセンベーだ。ほらお食べ」
「実家で飼っている馬を思い出すなぁ」
「オラ達は田舎の次男坊で働き口が無かったから、司祭の紹介で神聖教国へ行ったども、家ばっかりで、田舎にけえりてえなあ」
「オメエ達に言ってもしょうがねえ。だどもオメエ達見てると馬あ世話して暮らしてえなあ」
「もっと食うか。元祖スパ温泉饅頭だ」
「こっちは名物エチゼン温泉饅頭だ」
「うまそうに食うなあ」
「もう行っちゃうのかい」
「達者でな」
「行っちまったな」
「オラあもう神聖教国にはけえりたくねえ」
「ああ、人を罪に落とし入れる様な仕事はしたくねえ」
キュ、キュとドラちゃんとドラニちゃんが見回りから帰って来た。
なになに、神聖教国の異端調査官を見つけたってか。調査官を辞めて馬を世話したいと言っていた。良い人だよ。お前さん達、口の周りに餡子が付いてるよ。慌てて舐めてももう遅い。饅頭食らったな。
アカ、何?ほんとに良い人だって。そうかい。エチゼンヤさんの牧場でどうかって。神国から20頭連れて来て、エチゼンヤさんの牧場に預ければ、こちらに来ている20人が乗れる。20頭増えれば飼育員も増員する必要があるだって。なるほどそれじゃエチゼンヤさんに頼んでみよう。
エチゼンヤさんと話している間、二人を確保しておかなくてはならないが、アカが人化していくと皆が平伏してしまうからマリアさんに頼む。アカが転移でマリアさんとドラちゃんとドラニちゃんを連れて行った。
エチゼンヤさんに話した。それは良い、行動の幅が広がる。馬もローテートしたらどうかと提案された。勿論そうする事にする。二人を牧場に連れて行って牧場長が良いなら採用する事で話がついた。人件費と馬の預かり料を支払うと言ったけど断られた。じゃ、牧場の飼育員宿舎と厩舎でも作って使ってもらいましょうか。
エチゼンヤさんのOKが出たのでマリアさんの元に転移。あれ、牧場の場所は何処だ。アカとドラちゃんとドラニちゃんは知っているそうだから、アカに転移してもらう。エチゼンヤさんの門前出店から近くだった。
立派な土塁で囲んである。魔物はほとんど出ない筈だがご馳走があると来るかも知れないからだろうな。
管理棟で牧場長にエチゼンヤさんの指示書を渡した。牧場長はすぐ二人と面接をし、馬と会わせて問題がない事を確認し、採用となった。
試験が終わったので久しぶりにバトルホースに会いに行った。バトルホースは目ざとく僕らを見つけて駆け寄って来た。頭を擦り付けて来る。みんなにはお馬さんと遊んでもらう。マリアさんは馬に乗って駆けて行く。20頭増えると確かに狭いだろう。
牧場長さんに20頭増え、人も増えるから、厩舎と飼育員宿舎の増築をしたい、場所の希望はと聞いた。今あるものの拡張の希望だ。それと手狭になるので牧場そのものの拡張をすると話して了解をもらった。
さてやりますかね。厩舎と飼育員宿舎は大分古くなっているね。先ずはヨイショとどかす。その後に新築の厩舎と飼育員宿舎を設置する。ドドドーーンと設置しておしまい。温泉も掘って厩舎と飼育員宿舎で使えるようにした。厩舎には馬用温泉プール付きだ。
次は牧場の拡張だね。スパエチゼンヤと同じにしておこう。
東西10キロ、南北15キロだ。まずアカに手伝ってもらって新たな土塁を作った。高さ20メートル、幅5メートル。スパエチゼンヤと同じだ。新たに拡張した部分はきちんと整地した。馬が怪我するといけないからね。それから古い土塁を撤去した。マリアさんを乗せたバトルホースが駆けてくる。
「広くなっただろう。駆けてきていいよ」
マリアさんを乗せて喜んで駆けて行く。土塁に沿って一周する気らしい。他の馬も付いていく。
さて水飲み場を何ヶ所か作ろう。アカに場所を聞いて井戸を掘る。自噴した。バルブを付けて噴出量を絞る。水飲み場を作って、流れ出る先に池を作った。水浴びもできるだろう。すぐ小川ができるだろう。
次はどうするか。新築の建物と比べると管理棟が見窄らしいな。新築しよう。古いのをどかして新築した。旧管理棟からみんな飛び出てきた。
「牧場長さん、さっき話した通り建物は新築し、牧場は拡張しました。古い建物から引っ越しをお願いします。明後日古い建物を片付けにきます」
牧場長さんはじめ腰が抜けている。
そうだ、異端調査官2名に異端調査官の退職届を書いてもらおう。新築の管理棟に二人を連れて行って書いてもらった。二人の荷物は大したものはないそうだ。ドラちゃんとドラニちゃんに任せよう。退職届はドラニちゃんに預けた。
「皆んなスパエチゼンヤに戻るよ」
マリアさんを乗せたバトルホースが全速力で駆けて来る。気持ち良さそうだね。いい牧場になった。
さて戻ろう。久しぶりに僕たちも駆けようか。お馬さん、皆さん、またね。




