094 神国名誉総領事館をスパエチゼンヤ内に設置すると宰相に届け出た
神国名誉総領事館設置の届をしに王都に向かい、王都の門も無事通過して、王宮の門に着いた。エチゼンヤさんが門番に宰相との面会希望を告げる。エチゼンヤさんがどういう人か知っているのだろう。門番の一人が奥に走って行った。
「宰相、面会を希望されている方が門前に来ています」
「誰だ、アポもないだろう。追い返せ」
「それが、御ローコー様、シン様、アカ様、マリア様、ドラゴン様二人です。とても追い返せません。宰相様、お願いいたします」
「そのメンツで追い返せるか。わかったことを。通せ、いやお通ししろ」
いつの間にかドラゴンも一人二人と数えるようになったか、官僚は変わり身が早いなと思う宰相。
エチゼンヤさんが腰低く宰相殿の執務室に入っていく。
「エチゼンヤのコシの隠居でございます」
「御ローコー様、冗談はおよし下さい」
「アッハッハハハ。これがなかなか楽しいのでね」
「今日は何用で」
「我が国に続き、アングレア王国、スパーニア王国が相次いで神国との国交樹立宣言をしましたのでな。シン様から我が国に名誉総領事館を設置したいとの希望があり、宰相殿にお届けに参った次第。場所はスパエチゼンヤ内。ついでながら、シン様からワシが名誉総領事に任命されましてな。こちらもご報告まで」
「それはおめでたいことで。国王陛下に報告しておきましょう」
名誉だから報告でいいだろう、先王の弟君だけど、相手が神国だから繋がりができて望むところかもしれないと思う宰相。
エチゼンヤさんは、用は済んだとばかり立ち上がりながら追加発言。
「そうそう、エリザベスの両親と爺や夫妻がスパエチゼンヤで働きたいと言うのでな、ご承知おきを」
「はい、そうですか。ーーー待て待て。待ってください。お待ちください。エリザベス様の御両親というと、賢王と名高いアングレア国王、爺やと言うとキレキレの名宰相でしょうが。何をおっしゃっているのでしょうか。我が国で働くのですか、他国の国王と宰相が。訳がわかりません」
「まだ連絡は来てないだろうが、今日、急に退位されましてな。いまスパエチゼンヤでエリザベスに絞られております。アッハッハハハ」
「アッハッハハハどころではありません」
「すぐ陛下にアポを取ってくれ。大至急だ」
宰相殿焦りまくりだ。
大変だ、大変だと青い顔をして冷や汗を流しているよ。喉が渇くだろう。魔の森の冷たい水に谷川の水をポタポタしたものを進呈しよう。黙ってコップを出すと、グイッと飲んだ。
「うまい。もう一杯」
コップを僕に差し出したところでハッと我に返ったみたいだ。
「これは、シン様、ありがとうございます。何やら体の芯から力が満ちて来ます。これが噂の御神水でしょうか」
「なに、ただの水です」
「いやいや御神水でしょう。ありがたいことです」
落ち着いたみたいだ。重畳、重畳。秘書がアポが取れたと帰って来た。
「シン様御一行様、御ローコー様、こちらへお願いいたします」
国王の執務室
「これはシン様、叔父上、皆々様、ようおいでくださりました。どうぞお座りください」
最初からテーブル席だ。謁見ではなくお客様だね。すぐお茶とお茶菓子が出て来た。ドラちゃんとドラニちゃんが手を出しながら、いい?勿論いいよ、食べな。美味しそうに食べてる。満足そうだ。
「叔父上が神国の名誉総領事に就任されたと聞きました。おめでとうございます。我が国も在神国リュディア王国総領事館の設置をすべきところ、残念ながら神国に行き着くことはできそうにありません。そこで叔父上に、在神国リュディア王国総領事館総領事をお願いいたします。当面所在はスパエチゼンヤ内と言うことで。勿論神国と我が国とで利益相反の事態になった時は、迷わず神国側を選択していただきたい。そうならないように我が国は努力する所存です」
ややこしい事態になったぞ。要はエチゼンヤさんが双方の国の領事になり、双方の領事館をスパエチゼンヤに置くと言うことか。前例はないだろうが、そもそも前例のない国なので妥当なところか。
「承知した。何かあればすぐ神国国民になってしまうのでよろしく。アッハッハハハ」
「叔父上、それは片付きましたが、大変な大物がスパエチゼンヤで働くと聞き及びましたが」
「隠居だ、隠居」
「はぁ、私よりも遥かに優れた王、我が宰相殿がやりこめられたことしばしばの切れ者宰相が我が国で働くなど、とても落ち着いて寝られたものではありません。そうだろうトラヴィス」
「全くその通りでございます」
「エリザベスにこき使われている人物など気にすることはない」
それはエリザベス様にとっては親と爺やだからな、と思う国王と宰相。もしかしたら最恐は鞭を持ったエリザベス女王様か、と思う国王と宰相。
「それに二人は神様関係者だ。悪いようにはならない。もし何かあれば一瞬で草原になっているだろうよ」
なるほど、草原化の方がよほど恐ろしいなと、どこか、何か違うと思いながら、なんとなく納得させられた国王と宰相。
「では叔父上、エリザベス様によろしくお願いします」
「大丈夫だ、今頃鞭を振るっているだろうよ」
やっぱり鞭を持った女王様か、と思う国王と宰相。
よく考えたら神国とシン様のことはエチゼンヤに押し付けたと同様の事態になったことに気がついてほくそ笑む宰相。
「トラヴィス宰相様、エチゼンヤさんとはいつでも連絡が取れますがこちらとは取れません。何かあったら、ドラちゃんとドラニちゃんを派遣しますのでよろしく」
宰相の夢は儚く消え去った。壁と窓の修理費用を予算に計上しておこうと思う宰相であった。
シン様御一行様、御ローコー様が帰って行った。
「トラヴィスよ、命が縮むな」
「まことでございます」
「お前、若返ったのと違うか」
「確かに力は湧いてくるような気がしましたが」
「御神水を飲んだのか」
「はい、気づかず飲んでしまいました」
「ふ・う・う・ん。余はいいがな」
剣呑な雰囲気だな。退散しよう。
王妃様が入って来た。
「トラヴィス・さ・ん、若返りましたね」
まずい、逃げなくては。退路を塞がれ、グッと顔を近づけられた。
「私などシワが増えて来たのに。何この肌。今度シン様が来たら貰ってちょうだい。御神水」
「相手は神様なので、こちらから申し出ることはできません」
「トラヴィスはどうしてもらったのよ」
「気づかぬうちに飲まされました」
「あなたなんとかしてください」
逃げ遅れたと思う国王。動機が不純だから神様が御神水をくれるわけはないと思う国王。あ、トラヴィスが逃げにかかっている。逃がすものか。
「トラヴィスよ。そちは、ドラちゃん、ドラニちゃんと懇意にしていると聞いている。王都中鳴り響いているぞ。頼んだぞ」
王妃の気がそれた一瞬の間に逃げおおせた国王。逃げ遅れた宰相。
「シン様は、神様なので、御神水は恩寵としていただく物で要求する物ではありません」
そうよねえとため息をつく王妃。
「今度お見えになったとき、昼夜尽くせばもらえるかしら」
何やら危険な発言をする王妃であった。
スパエチゼンヤに戻り簡易宿泊棟を、「神国名誉総領事館」・「在神国リュディア王国総領事館」に改築する。
外見は立派にしなくちゃね。一応国を代表する施設なのだから。玄関、玄関ホール、名誉総領事執務室、秘書室、事務室、会議室(大・中・小)、応接室3室、ダイニングルーム、多目的ホール、予備の部屋を付け加え、働く人のための更衣室、休憩室、倉庫、用具置き場など。さらに必要なら宿泊もできるように2階を作り、客室を作った。宿舎程度のグレードでいいね。重要人物は旅館に泊まってもらったらいいしね。あ、豪華になってしまった。部屋数も多くなってしまった。ま、いいか。一応在神国リュディア王国総領事館用の総領事執務室、秘書室は作る。あとは共用だ。看板も掲げる。「神国名誉総領事館」「在神国リュディア王国総領事館」。元の部分はほとんど残っていない。新築同様だ。迎賓館風になってしまった。




