089 みんなのための食堂を作ろう
板長さんは神国に着いて目を見張った。泉があり、丘があり、森があり、小川があり、湖があり、小鳥が鳴き、小動物が走り回る。皆、生の喜びに満ち溢れている。神の国だ。シン様が出てきた。思わず跪く。
「板長さん、お気楽に。200―250人位の人のための食堂を作りたくて、来てもらいました。早速ですが、このように考えています」
「まずメニューですが、定食。これはその日に食堂が用意した決まった食事のセットです。朝、昼、夕食、各2種類くらい用意して貰いましょうか。定食が好みの料理でなかった人の為に幾つかお好み料理のメニューを用意してもらいます」
「厨房と食堂をカウンターで仕切ります。カウンターには予め本日の定食を作って並べておきます。お客さんは食堂入口から入って、カウンターに並んだ定食をお盆に乗せてフォークなどをとってテーブルに行き食事をします」
「もし定食でないものを希望する場合は用意されたメニューから選んで注文し、色で料理と紐付けた色付き番号札を渡し、テーブルで待っていてもらいます。厨房は札の色で料理が分かりますから、その料理を作ります。カウンター天井近くに番号表示板を作り、料理が出来たら、料理の色の番号の灯りがつくようにします。注文した人は、自分の番号札の色の番号が付いたらカウンターに取りにいき、番号札と料理を引き換えます。いずれも食べ終わったら自分で食器をお盆ごと回収場所に戻します」
「貴族や大店の奥と違い、大人数相手で決まった食事を大量に作るのは板長さんに失礼かと思ったのですが、新しいシステムを理解して消化して適切に運用していただけるのは板長さんだけと思いお願いしました。忘れてた。幼児食もお願いします」
板長さんが答える。
「食事は美味しく食べてもらってなんぼだ。数人の貴族が顰めっ面して食べるのを眺めているより、200人が笑顔で食べてくれたほうが料理人冥利に尽きるってもんだ。蘊蓄を述べながら料理を突っつくようなやつに喜んで料理を出すのは邪道だ。料理は、食べた人が美味しいと笑顔になってくれる、その笑顔を思い浮かべながら、どうしたら良いか考えながら作るものだ。蘊蓄野郎のために、珍しい食材、珍しい料理方法を駆使して当て物を作るものではない。普通の材料を使い、食べてくれた人が笑顔になる、そんな料理を作るのが、料理人の本懐だ。さっき聞いた話で厨房を設計する。カウンター、表示装置、食堂は頼みます」
「それと厨房に冷蔵庫と冷凍庫を置かせてください。カチンカチンに凍るのが冷凍庫、凍らない程度に温度が保たれたものが冷蔵庫です。冷凍は物によっては、解かすと味が落ちたりするものがあります。研究してみてください」
「おお、それはいいな。でかいものを頼む」
板長さんは一晩かけて厨房の設計をしたようで、朝、設計図を貰った。ちゃんと冷凍庫、冷蔵庫の場所も確保してある。
よし、建てよう。二百人衆の宿舎の近くに湖がよく見えるように少し土を盛り湖側は大きな一枚ガラスとした。勿論丈夫だ。大きな石をぶつけられても傷一つ付かない。厨房も設計図どおり作った。設備はシン製だ。カウンターよし、番号表示板よし、テーブル、椅子よし。カトラリーよし。男女別トイレ、入り口付近に手洗いよし、職員休憩室、更衣室よし。盛り土した部分は半地下とし食材置き場、食器置き場、厨房用品置き場、掃除用具置き場などにした。
食堂職員の制服はオリメさん、アヤメさんに頼んだ。白で清潔、動きやすい服だ。帽子も頼んだ。
板長さんに点検してもらう。小物を加えOKが出た。食材は前の週に一週間分必要食材の表をもらい当面僕が調達することにした。職員は二百人衆から至急20人募集する。営業は朝昼晩の3回。利用者は150人前後を見込む。今のところ食費は無料とする。
早速ステファニーさんに20人募集をかけてもらった。スパエチゼンヤで働く最初の20人の募集も頼んだ。両方ともすぐ集まった。面接して20人採用。板長さんのもとで研修してもらう。設備も一週間すれば過不足がわかるだろう。食堂の20人も交代でスパエチゼンヤに行ってもらうつもり。
食堂は板長さんに任せて、明日20人スパエチゼンヤに送りだそう。もちろん武闘訓練付きの駆け足300キロ死の行軍だ。ちゃんと面倒は見ます。はい。携帯でローコーさんに連絡しておく。まだエリザベスさんは戻ってきていないようだ。今日は泊まりだろうな。すぐ帰ってこられるから良いだろう。
ステファニーさんに明朝、日の出とともに泉前からスパエチゼンヤに向けて最初の20人を連れて行くのでよろしくとお願いした。
明日は僕、アカ、マリアさん、ブランコ、エスポーサ。それに借りっぱなしのバトルホースにゴードンさんに乗ってもらう。
ゴードンさんに武器は何が良いか聞いたら、ハルバートだと。それとショートソードがあればなお良いそうだ。長いものは今まで持ち歩くのが大変だったから使ってなかったけど、今は収納があるから得意とするハルバートがいいんだそうだ。
作ったよ。ハルバートとショートソード。金属は二百人衆に渡した刀と同じ。丈夫でなんでも切れる。早速振り回している。なるほど元極級冒険者だ。長物でもショートソードと同じに楽々振る。振り抜いてもすぐ元の構えに戻せる。動きにキレがある。いいね。




