082 モーリス侯爵とウルバノ大司教が宰相を訪れシン一家の壊滅を要求する
王宮宰相執務室
「宰相、モーリス侯爵とウルバノ大司教がお見えです」
「めんどうな組み合わせだな。応接室にお通ししろ」
応接室に宰相が行くとすでに侯爵と大司教が座っている。
「これはこれは宰相殿、ご機嫌はいかがですかな」
「大司教様、今日は何用でおいでいただきましたか」
「この頃シンとかいう者にお心を乱されているとか」
「乱されてはおりませんが」
「シンは神とか言われているそうだな」
侯爵が発言する。そう言えばこいつは晩餐会にも出てこなかったな。反国王派だったな。国王主催の晩餐会にも含むところがあったのだろう。大司教の腰巾着めと思う宰相。
「自ら神と名乗ったとは聞いていません」
「巷では神と神の使徒、神の僕の二百人衆の話題で持ちきりですがご存じかな」
「そのようなことは私の耳には入っていません」
当たり前のことを誰も言ってくるものか。二百人くらいの人が行進したとは聞いているが、あれが二百人衆と呼ばれているのか。へえそうかと思う宰相。もう関わりたくない、聞きたくないと言うのが本音だ。
「神を詐称し人心を惑わす不逞の輩だと思うがいかがか」
「大司教様のおっしゃる通り、そのような不埒者に国王陛下始め王族、臣民がたぶらかされてはなりません。捕まえて、極刑が適当でしょう」
ふん、やってみろ。お前たちを含め我が国が滅びの草原になってしまう。と思うが大司教と侯爵殿だから黙っている。
「特に問題があるとは聞いていません。版画とか我が国に利益を与えていると思います」
「利益を与え根を腐らせるのが悪魔の所業です」
腐れ大司教め、お前は神の名の下に財を信者から吸い取って肥え太っているだけではないかと思う宰相。
「スパエチゼンヤという施設が我が国の国土をかなり広く囲って、悪魔が二百人衆と中にこもっているそうだな」
「侯爵殿、あの土地はローコー様のものです。適法に土地取得して使用していると聞いています」
「悪魔がローコー様をたぶらかし拠点を作り、わが国を占領しようと策謀しているのではないか」
「大司教様、悪魔が誰を指すのかわかりませんが、長年にわたり国民の富を吸い上げ続けている悪魔のような者がいるのではないかとの噂は耳に入っておりますが」
宰相が皮肉を言う。大司教の顔がどす黒くなって怒鳴った。
「それはこの大司教に対する皮肉か」
「とんでもございません。噂ですよ。清く正しい神聖教大司教様におかれましてはお心当たりが全く無いでしょうから、それこそお心を乱すようなことではないかと存じます」
人は本当のことを言われると怒るものだな、なるほどなと宰相。
「それで今日は何のご用でしたか。ご用がお済みでしたら、私はこれから会議があるので失礼させていただきます」
「だからシン一派を叩き潰せ、壊滅させろと言っているんだ」
「侯爵殿、それはどのような理由で。それにあの者たちは我が国民ではありません」
「神聖教を蔑ろにする悪魔だと言っているんだ。信者を惑わせ大司教様もえらく迷惑をこうむっている」
「悪魔はこの宰相、生まれてこの方見たことはありません。人の醜い心が悪魔と思われる所業をなすものだと思っております」
ははあ、なるほど。二人が勢い込んで乗り込んで来た動機がわかった。
神がかったドラゴンが出現したので、神聖教の妄信信者の信仰心がグラグラ揺れる。言いなりだった献金を渋るようになる。その結果献金が激減する。大司教の実入りが減り、侯爵殿がおこぼれにあずかれなくなる。原因を取り除かなければ収入は漸減し続ける。従って原因のシン様一家を叩き潰したい。そういうことだな。自業自得だ。ざまあだ。
「もういい。だったら自分の私兵と教会の兵で叩き潰すが良いな」
「侯爵殿の私兵と教会の兵の行動を私が許可する立場にはありません。シン様御一家は我が国の国民ではなく、庇護下にありませんが、御ローコー様ご夫妻やスパエチゼンヤで働いている人達、銭湯や庭園のお客さんは我が国民であり、庇護下にあります。またスパエチゼンヤの施設は名前の通り御ローコー様の所有です。庇護下にある国民、財産が私兵に襲われたなら相応の対応をさせていただきます。ご自身の責任において慎重に行動されん事を願っています」
侯爵と大司教は罵りながら出て行った。
宰相は練達の秘書官を呼んだ。
「これからスパエチゼンヤを視察してこい。ゴードン本部長はこの頃スパエチゼンヤの門番をしているらしい。お前は独り言が多いらしいな」
「モーリス侯爵とウルバノ大司教が私兵を率いて向かっている」
「中々良い独り言だ」
「行って参ります」
さて国王陛下にご報告だな。




