073 宰相殿 スパエチゼンヤの視察に行く
さて、宰相殿、スパエチゼンヤの粗探しの視察に行こうと意気込んでいる。
「今からスパエチゼンヤの視察に行く。女湯視察のため、家に寄って家内を連れて行く。馬車を用意してくれ」
「わかりました」
コイツらなんかコソコソしているぞ。
馬車の用意ができたようだ。さて行くか。
「おい、なんで付いて来る?」
「奥様をお世話する人が必要です。公的な仕事ですから私が付いて行きます」
この古狸めと思うが、古狸は公爵の縁続きでヤバいやつだ。しょうがない。
「わかった」
家に寄って家内を連れてスパエチゼンヤに向かう。家内もすんなり付いて来る。物見高いやつだ。只だからか。只より高いものはないと言う。一抹の不安がある。
大手門に着いた。
なんでコイツらがいるんだ。くそ神モードだ。逆らえぬ。頭が下がってしまう。辛辣奥様は、ダメだ。小娘のようにボーッとのぼせている。秘書の古狸ものぼせている。この女たらしめ。俺の目の前は絶世の美女だ。くそアカ様だ。様を付けてしまった。我としたことが。
「よくいらっしゃいました。ブランコとエスポーサがご案内します。ごゆっくり」
シン様とアカ様はドラゴン二匹に跨って飛んで行ってしまった。安心はする。
「奥様、秘書様これから少し山を登って滝を見に参りましょう。足元が御危のうございます。御手をどうぞ」
家内好みの若い甘いマスクのいい男だ。おっと手を引かれグラッと身を寄せている。古狸も勝手にグラッとしている。態とらしい。こっちは、随分綺麗で色っぽい女だな。
「さ、どうぞ」
付いて行くより他はあるまい。
庭園を見学した。確かに見たこともない庭園だ。王宮庭師では再現不可能だろう。銭湯も食堂もスパも大衆向けと言っているが、いままで見たこともないしつらえだ。利用者を多数入れなければ高級と言っても過言ではない。
次は馬車で高級スパか。くそ家内のやつ男にしなだれかかっているぞ。何者だ。秘書も反対側からしなだれかかって、口をだらしなく開けてよだれがタレそうだ。こっちはいい匂いだ。しょうがない。家内への小言は我慢するか。
石柱が並び立つ神殿のような建物が見えてきた。
「ここが高級スパです。ここでご案内は交代させていただきます。奥様、秘書様どうぞこちらへ」
「宰相様はこちらへどうぞ」
くそ男か。ここが脱衣所か。よくできている。トイレは革命だ。素晴らしい。
あ、男に俺の男が負けた。
ここがスパ本体か。すごい湯量だ。ここが洗い場か。頭を洗う。シャンプーとな。汚れが落ちて気持ちいい。広い風呂だ。のびのびする。次は、なんだこれは泡の水流だ。疲れがほぐれる。なに、こっちは寝湯とな。頭をのせて体を伸ばす。あ〜〜〜極楽。いかん。こっちは露天風呂とな。趣があってよろしい。次は岩盤浴。眠くなりそうだ。気持ちいい。いかんいかん。次は砂湯。砂をかけてくれるのか。体の中から疲れが溶けていく。いかんいかん。騙されてはいかん。出よう。あれ、新しい下着が置いてある。履いてみよう。おお、ピッタリする。落ち着くな。この筒はなんだ。髪の毛を乾かすのか。温かい風が出てくる。良い。いつの間にか綺麗になって畳んであった服を着る。おや青毒蛇ドリンクが並んでいる。一本もらって行こう。いかん2本持ってしまった。見つからぬうちにポケットにしまおう。
こちらへどうぞか。次は旅館か。エリザベス様が女将か。怖え。家内と秘書もやってきた。
「客室を案内しましょう」
森の中に入って行く。なんと森の中に宿泊施設がある。中に入る。なんだこれは。すごいベッドだ。思わず横になった。隣のベッドには家内。おっと古狸が睨んでる。わかったよ。交代する。ベッドは素晴らしい弾力だ。それにリネン類。国王の寝室も負けている。それになんだ、天井の明かり。昼間のような明るさだ。壁のスイッチなるもので点けたり消したり出来るのか。
「泊まって行かれますか?」
泊まって行くものか。
「帰るぞ」
「あなたは帰りなさい。私と秘書嬢は泊まっていくわ。公務よ」
「夕食も食べていただきましょうね。明日の朝、うちの馬車でお送りしましょう」
くそ俺だけ帰るのか。
「お帰りはこちらです」
さっきの男が現れて馬車まで連行された。くそ。
御者はご機嫌だ。何か貰ったか、食事か。クビにしてやる。ポケットで青毒蛇がガチャガチャいっている。それにブリーフとやらも履いて来てしまった。まずい。クビはやめだ。黙っていよう。
「帰るぞ。家内と古狸は泊まりだ。明日の迎えは要らぬ」
「へい、承知しました」
白狼が出て来た。見送りか。待てよ、さっきの男女はコイツらか。やられた。行動全てをシンとエチゼンヤに報告される。
クソクソと言いながら一人王宮に戻る宰相であった。
古女房がいないので夜は久しぶりに羽を伸ばす宰相である。アレを一本飲んで夜の街に繰り出した。




