058 王宮での晩餐会に出席した
昼食後は晩餐会の準備だ。シン一家は、オリメさんとアヤメさんを連れて会場の控え室で着替えるので特に準備はいらない。服は各人の収納に入っているからね。
御者さんは馬車を磨き立てている。今日は2頭立て馬車2台だ。お馬さんは牧場から連れてきたいつぞやのバトルホースだ。撫でてやろう。馬も大きく引き締まった体躯をしているし、馬車も立派だ。まるで王侯用だ。先の国王の弟だから当然か。
日が翳る頃出かける。
僕らの馬車には、エチゼンヤさん夫婦、アンナさん、シン一家とオリメさん、アヤメさん。御者はセドリックさんと御者の二人。
本店の馬車は、ヨシツナさん、イサベルさん、ベネディクトさん、ルシアさん。御者はローレンツさんに本店の御者の二人体制。
何があっても大丈夫なように万全の体制だ。ベネディクトさんとルシアさんもエチゼンヤの人間だから、武器を隠し持っているだろう。アンナさんはもちろん持っている。
王宮に着くとエチゼンヤさんの馬車が威容を放っている。お偉いさんの馬車の馬でもうちのバトルホースのオーラにかなうものはいないな。皆貧弱な普通の馬だ。蹄で少し蹴られただけで骨折しそうだ。
馬は知っているね。後ろから僕らの馬車が近づくと御者が制しても勝手に避ける。すぐ車寄せについた。
ドアボーイがドアを開け、宰相が出迎えてくれる。
挨拶して係に控え室に案内された。さすがエチゼンヤ、小部屋付きの控え室が3室取ってあった。本店、支店、僕らという区分けだろう。
早速控え室に入り、みんなに人化してもらい、着付けてもらって髪もそれらしくセットしてもらった。オリメさんとアヤメさんには美容の才能もあるね。服飾と美容を兼ね備えたスタイリストだな。えらい才能の人を見つけてしまった。これは引っ張りだこになるぞ。
こちらが終わったのでオリメさんとアヤメさんにはエリザベスさんとイサベルさんの着付けの手伝いに向かってもらった。
それにしてもうちは華やかだねえ。
アカにマリアさん、エスポーサにドラちゃん。素晴らしいね。マリアさんだけネックレスがない。すぐ謎金属、もうシン金属と呼ぼう。シン金属で作って着けてやりましたよ。似合うね。
ブランコは男前だ。言い寄られるとエスポーサに怒られるぞ。エスポーサ一筋だって。そうかそうか。家内安全だな。
バカなことを言っているうちに、オリメさんとアヤメさんが戻ってきた。
イサベルさんがお義母さん、体型が若返っているじゃない。私とほとんど同じ。ずるいとごねていたそうだ。
そうだなあ。確かに若返っているね。谷川の水をポタポタしたからかな、劣化袋を通した果物のせいかな。劣化袋は劣化の度合いが少ないんじゃないか。普通の人に出さなくてよかった。
あれイサベルさんに出したような気がする。強いのかな。でも多分谷川水をポタポタした人以外は危ないだろうな。
ベネディクトさんが呼びにきた。エチゼンヤさんと一緒に会場に入る手筈だ。
ベネディクトさんがびっくりしている。大人の僕と人化したアカ、ブランコ、エスポーサ、ドラちゃんを見たことないからね。人化というより神化だな。
僕の右にアカ、左にマリアさん、ブランコとエスポーサ、最後にドラちゃん。
ドラちゃんこっちへおいで。僕とアカの間に入れる。ドラちゃんは僕とアカと手を繋いで嬉しそうだ。
ローコーさん、エリザベスさんが先頭、その次が僕ら。次にヨシツナさんとイサベルさん。
会場がどよめいた。人化でなく神化だからね。宰相さんが飛んで来た。
ローコーさん、シレッと、
「ご存知の通り、シン様にアカ様、マリア様、ハイヤー様、ブランコ様、エスポーサ様です。万に一つ失礼の無いように。滅びの草原になりますぞ」
設営係が宰相のサインをみて人数を数え慌てている。上座に陣取っていた貴族連中を追い出した。やるねえ設営係。恨めしそうにしているよ、追い出された貴族の皆さん。
僕が一番の上座になってしまった。僕ら一家が並び、次にローコー夫妻。ヨシツナ夫妻。エリザベスさんもイサベルさんも他国の王家の王女で外交上上座は外せないのだ。
上座に座っていた貴族は随分下になってしまった。
ゴードンさんも来ているな。宰相を見てほらみろという顔をしている。
国王の御成と声が聞こえ国王が入ってきたけど、僕らを見ると慌てて跪いて、
「シン様とお見受けします。本日は晩餐会にご出席いただき誠にありがとうございます。どうぞごゆるりとお過ごしください」
王様はアカと挨拶し、順番に挨拶してゆき、イサベルさんの次に座っていた男をひっぺがして座り込んだ。玉突き的に一つ一つ席がずれた。どいたら一番下に行けば良いのにそうはいかないところが貴族だな。
国王の挨拶だ。
「今日はシン様、ご眷属さまにおいでいただき誠に光栄です。ーーーー」
長いから省略。
乾杯は宰相さん。
乾杯が終わってもみなさん静まり返っている。どうも神々(そう見えているらしい)の威光に恐れをなして口がきけなくなったようだ。
その時下座から発言があった。
「その男は偽物だ。知ってるぞ。坊主が犬っころと狼とトカゲを連れて野宿していたぞ。控え室で化けたんだ」
アカを始めみんな怒った。アカが代表して神威を少し放出した。皆んなあわてて椅子から降り平伏した。災難が通り過ぎるよう祈っているね。ご発言の男は直立して動けない。
アカが言う。
「今、そなたの持っている物、全てを消した。家族、友人、愛人、使用人、仕事などの人間関係全て、家、土地、隠し財産を含む財産全てを消した。そなたの名前もそなたに関する全ての記録、記憶も消した。新たにそれらを得る事は出来ない。残るのは命以外全て剥奪の罰があったという事実だけだ。そなたは生きている路傍の石だ」
アカが神威を消した。
男は何か言おうとしているが、声は消えている。目も見えないようだ。財産が消えたので服も消えている。
誰も動かないね。何か言ってやろう。
「皆さん、どうぞお座りください」
参加者は平伏したまま立ち上がって良いものかどうか確認し合っている。
ようやく宰相が復活した。
「誰かその汚い物を捨ててこい」
衛兵が呼ばれ、衛兵は男を縛り担いで行った。粗大生ゴミだ。
もはや晩餐会どころでは無いようだ。
国王が跪き、
「本日はお見苦しいものをお目に掛け、誠に申し訳ありませんでした。一同神の力の一端に触れ畏れ慄いております。神様と同席し、晩餐会を開こうなどと不遜の極みと思い知りました。どうかお鎮まりいただきたくお願い申し上げます」
これは帰ってちょうだいと言う事だろうな。
「不幸な事態となりましたが、皆さんに思うところはありません。今日はこれで失礼しましょう」
家族を連れ退席した。オリメさんとアヤメさんに手伝ってもらって着替えをした。すぐエチゼンヤさんが迎えに来て屋敷に帰った。
お腹が空いたな。今日の参加者をスパ棟のホールに招いて食事だ。ステファニーさんも呼んだ。御者さんはお馬さんの世話があるとかで辞退した。後で果物でも届けてやろう。お馬さんの人参もね。食事は食べ慣れた板長さんの夕食を出して配膳してもらう。劣化袋通過の果物も出した。
王宮の王の執務室
王と宰相と冒険者組合本部長が集まっている。
「だから言っただろうが。この世の理の埒外、神だって。従魔なんて皆が畏れないように従魔に見せかけているだけだ。神か眷属だろうよ。マリア様もその中だ。命以外全て剥奪の神罰も恐ろしいよな」
本部長が言い立てる。
「誰に神罰が降ったのか調べても全く分からない。晩餐会に出ていたのだから貴族だろうが出席者名簿にそれらしい者はいない。命はあるが人としては抹殺されている。まさに神罰だな。陛下いかがいたしましょうか」
「あれほどとは思わなかった。せいぜい物語の聖者だと思っていた。どうしたものか」
王も聞いた。
「どうにもなるまいよ。我々に思うところはないと言う事だから、そっとしておくより他はない」
宰相が応えた。
本部長が続ける。
「思う事は無いと言う事は、眼中にないと言う事だ。何かあれば滅びの草原だ。助かるのはエチゼンヤ一家だけだ」
王が言う。
「エチゼンヤの周りを警備するか」
「エチゼンヤはそっちのプロだし、エチゼンヤは砦だ。外から襲うのは難しい。それにこの間、間諜5人を素知らぬ顔をして遠くの支店に人事異動させた。途中で魔物か盗賊に必ず襲われるんだろう。今日の事件で間諜を送り込んだ貴族もダンマリで震えているだろう。内部も鉄壁だ」
「お前よく知っているな」
「ある男から道中警備を要請されたからな。事情を聞くとエチゼンヤの人事異動で支店に行くと言うことで詳しい事は何も話さなかったが、あいにく冒険者が出払っていてな、残念ながら受注できなかった」
王と宰相は嘘をつけ狸めといった顔をしている。
「そうだ。ステファニー嬢がエチゼンヤに入り込んでいるだろう」
「あれはダメだ。何年生きていると思っているんだ。裏表全て知っているぞ。あれもアンタッチャブルだ」
それもそうだなと宰相が同意する。宰相殿も弱みがあるらしい。
「結局何もできないか。どうか早くお引き取り願えないか祈るだけだな」
王が纏めて会議はお開きになった。
夕食が終わって皆んなとのんびりしている。王都も居づらくなったから、コシに戻ろうかな。皆んなもそれが良いって言っている。
じゃ帰ろう。
明日、エチゼンヤさんはどうするか、オリメさん、アヤメさんはどうするか、ステファニーさんにも聞かないとね。今日はもう寝よう。




