056 王宮でトラヴィス宰相とゴードン冒険者組合本部長に会う
王宮宰相執務室
エチゼンヤが悪巧みをしている頃、宰相は秘書官からの、急病になって戻れない、エチゼンヤ様の首尾は上々との手紙を見て困惑していた。確かに文字面からは切迫感が漂って来るが、さっき迄は元気だったのに分からぬものだと思った。
気持ちを切り替えゴードンに悪童連3時集合の手紙を書いて、秘書のステファニー・マリア嬢に渡す。小役人と違いうまく取り計らってくれるだろう。
3時少し前にまずゴードン本部長が到着した。
3時になりエチゼンヤとシンと従魔がやって来た。子供だ。従魔も小さい。宰相は心の内でニンマリする。
「マリア!」
「姉さん!」
突如マリア殿とステファニー・マリア嬢がかけ寄って抱き合った。宰相、エチゼンヤ、ゴードン本部長の心の内は???だ。
「生き別れた妹のマリアです。私がステファニー・マリアと名乗っていたのはもしかしたら名前を聞いただけでも分かってくれるかと思い名乗っていました。今日は胸騒ぎがしていました。それがマリアと会えて。何かのお導きと思います」
「それは驚きだ。長い苦難の道のりであったな。良かったな。別室を用意させよう。十分語られよ。良いなローコー、ゴードン」
「「勿論。良い部屋で王都一の茶菓子付きだ」」
くそ、俺が出すんだぞと思いながら秘書に別室を用意させる宰相である。
「さて、今日の顔合わせは幸先がいいな。私が宰相のトラヴィスです。そちらに座っているのが冒険者組合本部長のゴードンで従魔関係で呼びました」
「こちらは私が紹介しましょう。シン様、柴犬のアカ様、白狼のブランコ様とエスポーサ様、超小型ドラゴンのハイヤー様です」
「シン様は生まれはどちらでしょうか」
宰相が聞く。
「国外です。今は冒険者です」
国外の冒険者は国民ではないので出身の追求もできないか。侮れない返答だな。
「エチゼンヤ様とどのような関係でしょうか」
「街道を歩いていたら出会いました」
「私が商売で冒険者の護衛を付けコシに帰る途中、魔物に襲われていた所を助けてもらったんですよ」
「まだお子様のようですが」
「とんでもない。まずお強い。この世界一の強さと確信しています。それに様々な知識をお持ちです。これを見なさい。この瓶に貼ってあるラベルをどう思います?」
「これは描くのが大変だったろう」
「ではこれは」
「全く同じではないか。良く描けたな。不可能だろう。普通」
「これがシン様の知識、版画だ。同じ物が何枚も出来る」
「うーーん」
「もう商業組合に登録したからな。マネすれば訴えるぞ。それにこの瓶の中身だ。シン様特製だ」
「青毒蛇ドリンク?頭を持ち上げているな。効きそうだな」
「効くぞ。現にさっきうちに来た秘書官に一本飲ませたら、自宅に帰って、愛人、古女房と何戦しても萎えることはなかったぞ」
「「本当か」」
「まずは一本ずつやろう。只だぞ。飲むのは夜にしろよ。秘書官殿のようになったらたまらんだろう」
「「わかった」」
あれ二人ともすぐしまったよ。堅い友情で結構な事だ。しかし策士だなエチゼンヤさん。秘書官に飲ませて効き目を二人に実感として確認させるとは。堕ちたな、二人。
「ゴホン。ゴードン、それで従魔の方は」
「分からない」
「何が分からないのだ」
「底が分からん。今までどんな魔物でも、自分より強い魔物でも底は分かった。従魔様の皆様の底が分からない」
「ところでボンボンはどうした」
エチゼンヤさんが話題を変えるように宰相に聞いた。
「陛下は役人が立て続けに牢で病死したので忙しくてな。明日の晩餐会には出るから、話があればそこでしてくれ」
「そうかい。じゃ今日はこれでいいな。ステファニー・マリア嬢、これからはステファニー嬢か、マリア嬢と一緒に連れて行きたいが、トラヴィス、いいかい?」
「勿論だ。何日か姉妹でゆっくりしてもらおう」
「じゃ明日な」
エチゼンヤはマリア嬢とステファニー嬢を呼んでもらって、ステファニー嬢の荷物を回収して、シン様達と屋敷に向かった。
「じゃ俺も仕事に戻るよ」
「待て、大事な話がある」
「何だよ」
「シン様は人ではない」
「どういう事だ」
「人はもちろんどんな魔物、獣でもこの世界に根がある。俺はその根を見ることによって生き延びて来た。シン様には無い。アカ様にも無い。ブランコ様、エスポーサ様、ハイヤー様も根は無いが微かに根の痕跡のような残り香のようなものがあるが消えかかっている。今日明日にでも完全に消えるだろう」
「どういう事だ」
「この世界の埒外という事だ。この世界の理には縛られない」
「どういう事だ」
三度同じ言葉を吐いた宰相。ゴードン本部長もそれには気がつかない。
「この世界の外というと神の国しか思い浮かばない。あれは従魔登録はしてあるが、魔物ではない。気をつけろよ。ローコーが敬称をつけていたがわかっているんだろうな」
「明日はどうするんだ」
「どうにもならないだろう。神に指図は出来ないだろうよ」
「そうか。明日の段取りを変える必要があるかもしれん。国王と話して来る」
「待て、まだ続きがある」
「まだあるのか」
「ああ。マリア様は人ではない」
「それはそうだろう。長生種だ」
「長生種も人だ。長生きなだけだ。マリア様はこの世に根がない。前はあった」
「うううむ」
「それにまだある。ローコーも根が薄くなっている」
「陛下に何と言おう」
「ありのままを話すより他はあるまい。この国が滅びの草原にならないようにな。頑張れや」
「馬鹿、お前も晩餐会に来るんだ。係だろう。アカ様、ブランコ様、エスポーサ様、ハイヤー様の」
「まあ来るよ。友達だからな。腐れ縁というやつだな」
「ところであのドリンクはどうするんだ?」
「神の飲み物なら飲まざるを得まい」
「そうだな。今日は疲れた。帰るよ」
「ああ、俺も疲れた。明日は頼む」




