496 星外飛来生物殲滅作戦参加者後日談 (11)
フロランス・ハミルトン侯爵と孫のカイルの活躍(4)
私はカイル君の後方に転移させてもらう。足を汚れ飛んでけして靴を履いて狐面と棒を収納。何事もなかったように後ろをついていく。
ドーン。スラムの方で音がした。火炎が一瞬上がって消えた。賊のアジトが消えたのだろう。
衛兵はトビアス商会を包囲、近衛部隊は騎乗の隊長を先頭に必死になって宮殿に向かっていると観察ちゃん。
後ろから走ってくる足音がする。血相を変えた近衛部隊だ。避けてやろう。
わたしたちも宮殿受付についた。裏に回っていた子供も帰ってきた。みんな揃った。
「みんなご苦労さん。よくやってくれた。皆気をつけて帰ってくれ」
カイル君に挨拶して皆帰っていった。探偵団としてはよくやったと思う。カイル探偵団の誕生だ。
カイル君と受付を通って中に入る。カイル君?宰相に用と言って線指輪を見せた。
現場に行く。
「まずいぞ。まずい。王宮に賊が入られたとあっては具合が悪い」
「さようですな。まず近衛隊長はお腹を召されなければなりませんな。それと近衛隊長に街へ出動を命じ、王宮の警備を手薄にした宰相のお腹も危ないですな」
ふたりとも真っ青だ。
「私は何も見てないわよ」
先の王妃だ。
「私が剣を振るう賊の腕をとって投げ飛ばしたなんてあろうはずがないわ」
王妃である。
「そのようですな。おや、死体もなく血も流れていない。何もなかったのでしょうな」
全く白々しいハビエル神父のお言葉であるが、いまはそれにすがるしかない宰相と近衛隊長。
「それとスラムに近いところで落雷があったらしいですな。住んでいた人はお可哀想にもれなく焼け焦げたらしいですぞ。天災ですな」
盗賊団がアジトごと壊滅したということかと宰相と近衛隊長。
「それと噂ですがどこかの商会で内紛があったらしく、一族がいなくなってしまったらしいですな」
「また噂ですが、放火現場で二人刺し違えて亡くなっているという話ですな。放火犯にちがいありませんな」
観察ちゃんが一人消えた。すぐ商会の中の人たちは、二人は刺し違えて放火現場で倒れて死亡、残りは滅びの草原行きだろう。
「そういうことみたいよ。トラヴィス。世の中を騒がした放火犯も衛兵と近衛兵に追い詰められて自害だわね。街の人は衛兵と近衛兵の活躍に感謝、一安心だわ。だけど今度近衛兵を動かすときは気をつけることね」
「「はは」」
宰相と近衛兵は先の王妃に最敬礼だ。
「公爵の侍従長と侍女長も宰相と打ち合わせご苦労様でした。カイル君も二人のお迎えご苦労様」
先の王妃が全て片付けてしまった。
「そうそう。宝物庫の屋根が傷んでいるみたいよ。すぐ直しなさい」
狐面裸足幼女が見得を切った時、ムジンボーケンで破壊したとは言わない先の王妃であった。
「はは」
宰相がまた返事をした。
「さて皆さん引き上げましょう。ボンクラが気がつくと面倒」
国王もボンクラにされてしまった。
「じゃ解散。ご苦労さん」
カイル君が尊敬の眼差しでハビエル神父と先の王妃を見つめる。
教育に悪いと思うけど。
「坊っちゃん帰りましょう」
カイル君は執事長と侍女長と帰っていった。
「フロランスちゃんもお疲れ様。オリメとアヤメと帰りなさい」
「うん。ありがとう」
オリメさんとアヤメさんと手を繋いで王宮を出た。
近衛兵が駆けていく。衛兵と口裏合わせだろう。そして衛兵といっしょに放火魔の死体を‘発見’するのだろう。
王宮が見えなくなったところで観察ちゃんがあたしの家まで送ってくれた。オリメさんとアヤメさんは神国に帰った。
夜も遅いのに宰相執務室は明るい。
宰相と近衛隊長と衛兵隊長が顔を突き合わせている。
「報告書は衛兵隊長がうまく作れ。幸い詐欺師ハビエル神父が上手に筋書きを作ってくれた。ただの放火だ。盗賊も出てこない。王宮も出てこない。商家の内紛があったがそれも放火とは関係ない。放火犯は外から流れて来た者だ。誰も顔を知らない。死体はシートを被せて、衛兵と近衛兵が放火犯を追い詰めたら差し違えたと野次馬に教えて、素早く片付けてしまえ。それにそって現場を確認して書け」
「わかりました。明日早朝、うつ伏せになって顔が見えない放火犯の死体を発見し、すぐシートをかけ、野次馬を待って片付けます。書類は明日朝現場を確認して提出します」
衛兵隊長が返事をした。近衛隊長が秘書を見る。
秘書が出て行った。衛兵に言って放火犯をうつ伏せにして遠巻きに見張っているのだろう。
「それにしても危ないところだった。俺と近衛隊長が腹を切るところだった」
「まったく。狐面裸足幼女のおかげですね」
何も知らない近衛隊長だ。
「あれは見なかったことにしておかなければまずい」
宰相だ。
「そうですね。あの狐面裸足幼女が絡むと大体が面妖事件ですが、今回は割合まともでした」
衛兵隊長だ。
「まともと言えばまともだが、王宮に賊が侵入したのだぞ。あってはならない異常事件だ」
近衛隊長。
「とにかくあれは見なかったことにしなければならない。ムジンボーケンは刃がついていないのにスパスパだ。そんなものは見なかったのだぞ」
力説する宰相。
「刃、ムジンか。ひょっとすると無刃かも」
近衛隊長。
「それじゃボーケンは棒の剣、棒剣だ」
衛兵隊長。
「「無刃棒剣だ」」
正解にたどり着いた衛兵隊長と近衛隊長であった。
なるほどと宰相。
「いやいやそんなものがあってはいけない。万一そうであっても、あれはムジンボーケンだ。見てはいけないものだ」
いやに力説する宰相。なにか知っているのかと思ってもどうせシン様関係で深入りは禁物、下手をすると天からズドーンだ。今回の賊のアジトのように。そう思った両隊長であった。
「それにしてもハロルド爺さんという狐面が今回初登場したと聞きましたがどなたなんでしょうか。王妃様のお知り合いのようですが。それに公爵家の執事長と侍女長、公爵のお孫さんが見えていたそうですがなんだったんでしょうか」
近衛隊長が聞いた。
「ハロルドなんていう人は知らない。王妃様と先の王妃様には恐ろしくて聞けない。肘掛けを片手で握り潰すのだぞ。それに利き手でない方の手でも握りつぶした。お前たちに出来るか?もはや数年前の先の王妃様、王妃様とは別人だ。人外だぞ」
握りつぶしの目撃者の宰相が答えた。
「恐ろしい」
「ああ気をつけたほうがいい」
公爵家の面々のことはとぼけてしまった宰相である。ハロルド狐面というのも怪しいが深煎りは禁物である。苦くなってしまう。俺は苦いのは苦手だ。
ひとしきり打ち合わせというか、口裏合わせと言うか、そういう会議をして散会になった。秘書さんもご苦労さんであった。




