489 星外飛来生物殲滅作戦参加者後日談 (4)
イヅル国
タロー大君の回想。
あるとき観察ちゃんが急いでコマチを迎えに来て、シン様から呼ばれたからしばらく出かけてくると言って転移していった。何やら放っておくとこの世界に甚大な被害をもたらすものの殲滅作戦に従軍するのだそうだ。
俺と奥とコジローももちろん観察ちゃんに志願して戦場に連れて行ってもらった。
長さ30キロくらいの谷にいるもの全ての殲滅作戦だった。
俺たちは後方支援だけだったが、戦場が広く前線組は大忙しであったので幾らかお役に立てただろう。
作戦が終わって帰ってくるとコマチは何やら存在感が違う。重いのである。庭で振るう小太刀の音も前よりさらに鋭い。
俺と奥とコジローも力が格段に強くなった。いわゆる人外相当だろう。
つい回想していたら、観察ちゃんがヒバさんとエレーネ女王を連れて来た。
挨拶もそこそこに三人が庭で稽古を始めた。
木刀を振るうのだが、凄まじい。ガンガン音がする。あっという間に木刀がささくれ立ち折れてしまった。
観察ちゃんが消えてすぐ戻って来た。三人に木刀を渡した。
稽古再開。ガンガン打ち合う。今度は折れない。木片も飛ばない。シン様から貰ったのかもしれない。
しかしとても俺では打ち込みを受けられない。時々一瞬だが木刀が炎を纏ったように見えた。見間違いだろう。
木刀だけで魔物を退治できそうだ。なんなのだ、この三人は。
「お父さん。国の奥の方を使っていい?」
「構わんけど、凍りはしないが寒いぞ。風も強くないが吹いている。雨も降らない」
「ちょうどいいわ」
それから、エレーネ女王とヒバさんが毎日交代で通って来た。ガンガンやってからコマチと観察ちゃんと奥の方に通っているらしい。
一月半ぐらいしたら三人で奥に行った。ニコニコして帰って来る。
「お父さん、ありがとう。これあげる」
娘が何か出した。乾いた魚型海の魔物のようだ。少し弾力がある。
「それは日持ちがしない。焼いて食べてね。それとこれ」
今度は完全に乾いている。薄い板のようだ。
「これは少し炙って食べてみてね」
「これはなんだい?」
「乾物よ。海の魔物の。試行錯誤して作ったから少し時間がかかったけどいいものが出来た」
「へえ。美味いのか」
「うん。旨みがのって大変味がいい」
「それから三人でアチネ商会を作ったからね」
「へえ」
「商会の住所は、アレシアス王国のエチゼンヤさんの事務所にしてもらった」
「へえ」
「味噌と醤油を頂戴ね」
「ああ。いいが何につかうんだ?」
「アチネ商会で売る品物の開発よ」
「へえ」
もはや頭が追いつかない。
「これからしばらくエレーネさんのところに行っているわ」
「へえ」
三人が観察ちゃんと消えた。
奥が、娘にもらった乾物とやらを持って行く。
コマチは味噌と醤油はしっかり持っていった。樽が減っている。今年は少し多く作るか。
奥からいい匂いがして来た。
昼時でもあった。お腹がグーっと鳴る。
みんなでお昼を食べる。うちは屋敷で働く者も全員揃って食べる。おかずは娘にもらった乾物とやらだ。
「旨い」
誰かが言った。
旨い、美味しいの大合唱だ。
確かに旨い。商会を作ったって言ってたな。売れるぞこれは。
でも日持ちがしないものをどうやって売るのだろう。
昼食後、炙ってといわれた硬い乾物を炙ってみる。かみごたえがある。噛めば噛むほど味が出てくる。これは酒のつまみか、子供のおやつにもいいな。これも売れるぞ。
これを奥の方で作っていたのか。なるほど。雨が降らず風が吹いていて寒いからちょうど良かったのだろう。
鼻歌を歌って歩いていたラシード隊。
前方が揺らめいてヒバとエレーネ女王とコマチさん、観察ちゃんが現れた。
「お父さん、これ売って」
唐突である。
「食べてみて。見本だから焼いてある」
みんなに配り出した。
しょうがない。食べてみる。
「旨え」
隊員の感想があちこちから聞こえてくる。
確かに旨い。
「日持ちがしないから収納しておいてね。それからこれ。炙ってある」
今度は硬いものを出して来た。
みんなで食べる。硬いが噛むと味がある。これは酒のつまみだ。遊びに行く子供に持たせてもいいだろう。
「こっちは完全に乾いているから日持ちはするわ」
「じゃあ、うまくストーリーを作って金持ちに売りつけてね。得意でしょう」
香具師の方を見る。
「俺っすか」
「頼んだわよ。ちゃんと代金は持って来てね。私たち三人でアチネ商会を作ったから」
「手数料ーー」
「今食べたじゃない。前払い済み」
「・・・」
「じゃあ、しっかりね」
エレーネ女王がベーベーをみた。
「ラシードさん。ベーベーが何も荷物を積んでいないようですが」
「お気楽そうですね」
コマチさんに言われてしまった。
娘たちが転移していってしまった。大量の乾物とやらを残して。しょうがない、収納した。
「おい、うまく話を作れ」
「俺っすか」
「そうだ。頑張ればお褒めに預かるかもしれない。しっかりやれ」
「隊長、何かベーベーに積んでおかなければまずいのでは」
「お前らなんで気が付かない」
「えへへ。隊長も」
「ベーベー」
「しょうがない。次の街が近い。荷物を積んでいこう。面倒だ。2、3頭くらいでいいな」
「隊長、それでは少なすぎます。10頭くらいには積まなければ」
「うるさい副長だ。じゃ10頭に積むぞ」
100頭くらいの隊商に荷物が10頭では少なすぎるが、お気楽ラシード隊の隊長、隊員、ベーベーである。
10頭に荷物を積んだだけで、よく積んだ、盗賊が出ないかなと期待しながら歩き出した。




