482 谷底の生き物を殲滅する (2)
それで谷底の皆さんの昼食。
観察ちゃんに付き添われて神父さんの留守番組が食事配達。両手で武器を振るう谷底組にびっくり仰天。あれはできないと呟いた。
「前進中止。ティランママお願い」
マリアさんが頼んだ。
ティランママが重低音の咆哮をする。地面も地表のものも全てが揺れる。
得体の知れないもの達の足が止まる。固まってしまった。
遠くでもブランコの咆哮が聞こえる。谷底は嘘のように静まり返った。
見学者はのけぞる。こっちも固まってしまった。
「さあ、食べましょう」
マリアさんが言ってみんなで集まって昼食。
「いやあ、腹が減るな。しかし、今度の連中は食えそうにないな。腹を壊しそうだ」
「あなたは何を食べても大丈夫。ワンワン印もワンワン印(改)を飲んでもなんともなかったじゃない」
ティランママとティランサンは何も知らないからティランサンが聞いた。
「ワンワン印ってなんでしょうか」
「あれはね。エスポーサ様が共同開発と言って旦那で実験して作っているドリンクよ。実験した相手がなんともなかったので、魔物に飲ませたら走り回って死んでしまったり、神父さん連中に飲ませたら走り続けたり、大変な効き目のドリンク」
それはもはや毒物ではないか、旦那に飲ませたのかしらと思う神父さんの連れ合い。
「エスポーサ様が飲ませたけど、神父さんも強いから大丈夫だったわ。だいぶ走ったり泳いだりして良い訓練になったようよ」
やっぱり飲ませたのだと思う奥さん連中。
「エリザベス様は飲んだのでしょうか?」
「旦那が美味しそうに飲むからついうっかり飲んでしまったけど、なんともなかったわ。もうちょっと味付けを工夫したほうがいいわね」
「みなさんは飲んだのでしょうか」
勿論エチゼンヤのみなさんはお付き合いで飲んだのだそうだ。みんな不味いという感想しか出て来ない。
「蜂蜜を入れて飲んだら美味しかった」
アンナさんの感想である。さすがである。
やっぱりこの人たちはおかしいし恐ろしいと思う奥さん連中。そそくさと片付けをして引き上げるのであった。
「午後の部をはじめましょうか」
全員配置についた。
「前進」
マリアさんが号令する。
得体の知れないもの達の金縛りが解ける。
午後の部が始まった。
見物人たちの金縛りも解ける。
午後もジェナとチルドレンは二度出撃。
狐面、棒の剣、狐面、棒の剣と呟いて、裸足ではない、裸足ではないと自分に言い聞かせている宰相殿。
チルドレンは登って来る獲物の真ん中あたりを殲滅、上側の獲物は稜線組に残しておいたのだそうだ。
夕方になる。僕が谷底組が前進したところにバリアを張った。もちろんバリアは谷底全てを覆っている。これで今日の続きから明日始められるわけだ。過重労働はいけない。ホワイト企業のシン様組だからね。
尾根を平らにして1000人収容の大テントを2張り設置してテーブルを出した。みんな戻ってくる。揃ったら夕食だ。
板長さん、料理長さん、弟子たちは大忙し。
女将さんも観察ちゃんが連れてきて手伝ってくれる。流石に手際が良い。
タロー大君、コトヒメ奥さん、コジローちゃん、ラシード隊長のアミーナ奥さんも手伝いに来てくれた。タロー大君は意外とマメである。
先の王妃、侍女さん、王妃、元国王の奥さん、元宰相の奥さんも自分で食事を取りに来た。
みんな食事を取りに来てくれるからいいのだけど。
あれ、座りっぱなしの人がいる。てっきり誰か取りに行って給仕してくれるものだと思っていた宰相、公爵、アングレア王国元国王、元宰相。
昼食時に固まっていたので食べていないから空腹である。待っていても誰も持ってきてくれない。
先の王妃たちがおいしそうにパクパク食べているのを見て、やっと腰を上げて食事を貰いに来た。
「もう鍋底が見えるな。まあお湯を入れてかき回せばみんなの分の薄いスープが出来るだろう」
板長さんの容赦ない発言である。エチゼンヤは権力など関係ないのであった。仕方なく、宰相が寸胴鍋にお湯をもらって入れて、かき回してみんなに装った。パンはあった。
席に戻って薄い鍋底スープを啜ってパンをかじる宰相、公爵、アングレア王国元国王、元宰相であった。
「あら、あなた達、ずいぶん健康に良さそうな特製スープね。長生きしそうだわ」
先の王妃に追い打ちをかけられた。もう帰りたくなったお偉いさんたちである。
食事が終わって皆テントを張り出した。
またまた、ぼーっとしているお偉いさん。
「はい、大テントを片付けます」
エスポーサ様に追い出された。
先の王妃、侍女さん、王妃、元国王の奥さん、元宰相の奥さんは、自分たちでテントを張って中へ入っていった。
当然入れてくれるだろうと元国王、元宰相。
「今日は女子会よ、あなた達は、男子会?老人会?頑張ってね」
入口は閉じられてしまった。
宰相と公爵は誰かいないかと周りを見回すも、誰も彼も知らんふり。考えてみれば、他国の女王率いる兵、シン様の二百人衆、神父関係、その他も全てシン様関係者である。こちらからは何も言えない。ティランママとエスポーサは鉱山都市組にテントをやって張り方を教えている。いろいろ説明をしているらしい。こっちは見てくれない。
残るはエチゼンヤであるが、料理人でさえ宰相に底に料理がこびりついているような寸胴鍋を押し付けて湯を入れてかき混ぜればいいと言って平然としている、世俗の権力者など屁でもない連中である。確かに神の前には世俗の権力など塵芥に過ぎない。シン様の息のかかった連中はこれだから困る。
公爵の孫は知り合いを見つけたらしく、行ってしまった。
しょうがないと宰相がテントを取り出して公爵が手伝いテントを張った。当然、元国王と元宰相が転がり込んでくる。老人会になってしまうのであった。




