475 尾根からバルディア帝国へ デキウス皇帝が迎えてくれる
475 尾根からバルディア帝国へ デキウス皇帝が迎えてくれる
お昼寝が終わって再び出発。尾根を少し歩いては転移して奥に進む。暫くすると左は山塊になった。バルディア帝国の外れだろう。左に降りて行こう。いくつも谷筋があると観察ちゃんが申しております。へえ。いつの間に。優秀な斥候だ。よしよし。観察ちゃんが嬉しそう。
また褒めるとアカが申しております。だってそのおかげでバルディア帝国はいくつもの谷筋からなっている帝国とわかったからいいんじゃない。観察ちゃんがますますうれしそう。王宮はこっちこっちと言っています。だけど王宮は留守番がいるだけなのだそうだ。
皇太子、今は皇帝か。皇帝は前に使っていた皇太子宮にいると観察ちゃん。へえそうなの。
谷に沿って降りていく。まだ民家はない。先に城壁に囲まれた王宮が見えて来た。やっと道らしい道に出たし谷も広くなった。城壁の門は門番はいたが開きっぱなしで誰何もなく入れた。多分未だかつて山から降りて来た人はいないのだろうし守るべき人もいないから、魔物だけ警戒しているのかもしれない。
中に入ってみると街の規模で家はたくさんあるが、人影はまばらだ。もしかすると王宮が空になってしまったので下の方に引っ越したのかもしれない。王宮の守備兵がこちらをみてびっくりしている。余計な心配をするといけないから挨拶をして行こう。
「こんにちは」
「君たちは何者かね」
「僕たちは旅のものです。リュディア王国の方から来ました」
「山を通ってか。不可能だ」
「山は深く魔物がたくさんいましたが、越えて来ました。この先に行きますのでこの辺で」
「お待ちください。もしかしたらそちらの方はドラゴン救援物資のドラゴン様でしょうか?」
ドラちゃんとドラニちゃんが、キュ、キュと返事をしている。
「やっぱりそうですか。我々はあなた様方のおかげで餓死することはありませんでした。ありがとうございました。皇帝陛下のところにご案内します」
「いやいや、お手を煩わしてはいけません。ドラちゃんもドラニちゃんも来たことがありますので、自分たちでいきます。ご心配なく」
面倒だからさっさと歩き出す。
一騎挨拶して追い抜いて下の方に駆けていった。皇帝にご注進だろうな。まあいいや。
いくつかの谷筋が合併して横幅が広くなって来た。先に城壁に囲まれた街が見える。あそこが現皇帝の居城だろう。
「一騎で駆けていってこの辺は魔物が少ないのでしょうか」
オリメさんに聞かれた。
「そうだねえ。土地が貧しく何もなさそうだから山の中の方が豊かなのかもしれないね」
「鉱山都市ミネリアのときのように食べ物が無くなると襲ってくるかもしれないけど、そうでなければ山の中なのかもしれない」
ステファニーさんも同様な考えのようだ。
城壁が近づいて来た。建設中らしい。作業をしている。こちら側には門が無いらしい。下へ廻ろう。門がある。門は一箇所みたいだね。いってみよう。
門のところに見知った人がいる。戦争の時に山を越えて逃げて来たコッリーナさんとルチャーノさんだ。こちらに気がついた。走ってくる。
「シン様、皆様。その節は命を助けていただき誠にありがとうございました」
「元気にやってますか」
「はい、おかげさまで、二人とも王宮で働かせていただいています」
「そうか。それはよかった」
門の詰所から人が出て来た。
「デキウスです。我が国を飢餓と戦争という塗炭の苦しみから救っていただき感謝の念に堪えません」
あれあれ、皇帝が門まで来てしまった。身軽なのは良いことだけど。
「どうぞお顔をお上げください。帝国軍の進発を教えてくれたお礼です。スパーニア王国、リュディア王国、アングレア王国は大いに助かりました。それに罪のない人々が苦しむのは見ていて辛いものがありますから」
「そう言っていただけるとありがたいです。さ、こちらへどうぞ」
自ら宮殿に案内してくれるらしい。
「城壁が二重になっているのですね」
ステファニーさんが聞いた。紹介がまだだったね。
「紹介しましょうね。こちらが僕のアカ、全体の責任者です。こちらが国の内政・二百人衆担当のステファニー奉行と申します。隣は同じくマリア副奉行です。それから共同運営商会、オリメ商会のオリメ会長とアヤメ副会長です。軍事作戦、よろず参謀のエスポーサ参謀、領土の飛地を管理しているマルティナ代官とサントス副代官母子、警護隊のブランコ隊長、ドラちゃんとドラニちゃん隊員、情報担当長官の観察ちゃん、娘のジェナと友達のチルドレンです。今日はいませんが、外交担当はゴードン大使といいます」
勝手に役職を作ってしまった。奉行、会長、参謀、代官、隊長、長官だ。でもみんなニコニコしているからいいのだろう。ドラちゃんとドラニちゃんが隊長、隊長とブランコをからかっている。
「ほぼ全員上層部が揃っているのですか。すごいですね。留守にして大丈夫なのでしょうか」
言われてみればそうだね。
「みな僕の眷属と僕ですから全く問題はありません」
「なるほど、そうでしょうね」
「城壁が二重との先程の質問ですが、私が皇太子から皇帝になっても皇太子宮を動かなかったものですから、今まで父が使っていた宮殿の周りの家々が引っ越してきて手狭になり、周りにもう一つ城壁を作り、今までの城壁内にあった畑などを移して、土地を開け、引っ越してきた人はそこに住んでもらっています」
話していたら宮殿に着いた。近衛兵だろうか整列している。
「ササゲー トオー」
ここも捧刀だ。僕軍人ではないから頷いておしまい。
宮殿の中に入り、応接室に案内される。主だった人が集まって、もう一度お礼を言われてしまった。コメと芋のドラゴン救援物資、ブランコ、ドラちゃん、ドラニちゃんの間者退治、戦況の情報などなどのお礼だ。ひとしきりお礼を言われて、皇帝の下がって良いとの言葉で主だった人たちは下がっていく。
困ったねえ。こうお礼を言われても。何もしてやれないな。あ、そうだ。ドラゴン200芋があった。あれを進呈しよう。まずはドラちゃんの収納に移す。今度は大量でなくていいね。自分たちで増やしてもらおう。
「人口が増えると畑の面積が足りなくなってしまうでしょう。この間の芋からドラゴン200芋という品種を開発しましたので少しいかがでしょうか」
「それはどのような芋でしょうか」
「魔物が掘り出して食べたりいたずらしたりしない芋です。ただ魔物よけの効果はありません。つまり城壁の外で栽培できます。多産で剛健、美味しい芋です。ただし、一年に一度掘り上げて種芋にしてもう一度まかないと絶えてしまいます。欠点のようですが、頑健な芋がはびこることがなく、放置してしまっても安全です。畑の面積の不足をおぎなえるかもしれません」
「それはいただけるならぜひいただきたい。われらの国力では今の城壁が精一杯です。これ以上の城壁は作れません。お話の通り、畑の面積が不足しています。どうしようかと悩んでいたところです」
「今回はそれほど量はありません。ただ、頑健、多産なのですぐ増やせます。前の芋も良いところはあり、絶やさずに食べていただけたらと思います」
「ありがとうございます。我々はシン様に何度も助けていただきました。我々が今返せるものはありませんが、何かありましたらお声がけください。我々は全生命を捧げ命令に服します」
その場にいた人は平伏してしまった。いかん。どっかの国の様になってしまう。退散しよう。
「ではドラゴン200の種芋を出す場所に案内してください」
皇帝がみずから倉庫に案内してくれた。
「ドラちゃん、頼んだよ」
ドラちゃんが前足を出して、倉庫の片隅に芋を出す。今回はほんとに少しだよ。小さな一部屋ぐらいだ。
「これを使ってください。みんなが飢えの不安なく生活してもらえればと思います。ではこれで失礼しましょう。また会うときまで」
宮殿から少し海よりに転移する。
「消えた」
誰かがつぶやいた。
「本当に神だったんだな。この上は良い政を行い、民が不安なく暮らせるよう全力を尽くそう。そしてもし、シン様からお声がけがあれば、我ら全滅を覚悟でシン様の命に従おう」
「オー」
恐ろしいね、帝国は。こういう人々だったんだ。だから悪い方に進むと侵略を全力で始めるとアカが申しております。そうだねえ。




