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目覚めた世界で生きてゆく 僕と愛犬と仲間たちと共に  作者: SUGISHITA Shinya
第四部

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473/499

473 フロランスちゃんの夜働き 王都大店強盗編(下)

 翌朝、日の出とともに衛兵隊長と衛兵が荷車を引いて宮殿に向かう。荷車にはシートが被せてあった。


 宰相が朝出勤すると執務室の前が騒がしい。

 「どうした?」

 「それが、金貨が詰まった木箱が執務室に山積みです」

 「なんだと。壁は無事か?」

 「壁はなんともありません」

 「そうか」


 「宰相、衛兵隊長がお見えです。至急とのことです。

 これの関係か、まさか狐面裸足幼女ではあるまいな。

 「宰相」

 「わかっている。応接室に通せ」


 応接室に向かうと衛兵隊長も来たところだ。

 「宰相様にはご機嫌麗しく」

 この前もそんなようなことを言ったな。危ない兆候だ。

 応接室に入った。


 「なんだ」

 「昨夜、店に泥棒が押し入ったと通報があり、駆けつけたところ、犯人はダレル商会の会長だと証言がありました」

 大店ではあるがよくない噂のあるダレル会長だ。今のところ出足はまずまずだと宰相。


 「ダレルの店に急行したところ、ダレルは花街だと店の者が申しました」

 やや怪しくなったと宰相。


 「店の中から大音が聞こえてきて踏み込んでみると、店の者が蔵に開いた大穴の前で、盗人から盗むとは太いやつだと叫んでおり、逮捕しようと争っていると、屋根の上から瓦が降ってきて、みると狐面裸足幼女が盗賊に投げつけておりました」

 お先真っ暗の宰相である。


 「それから、狐面裸足幼女が‘天に代わって成敗する。このムジンボーケンが悪を許さない’と見得を切って、奇怪な貼り合わせ男を投げつけてきました」


 「なんだそのムジンボーケンと見得と奇怪な貼り合わせ男とは」

 「ムジンボーケンはわかりません。見得は得意そうに切っていました。大向こうから声がかかるのを期待していたようです。声がかからずがっかりしていました。次回は狐屋と掛け声をかけろと言っていたと衛兵が申しております。奇怪な貼り合わせ男はこちらです」


 衛兵隊長が先に応接室を出てしまう。やむを得ずついていく。秘書もついて来る。

 受付の外に荷車から下ろされたのだろう。シートの被ったものが置いてある。荷車はすでに外を向いており、逃げる態勢だ。シートのそばに盗賊らしい男どもが縛られて転がされている。


 衛兵隊長がシートを捲る。

 「なんだこれは」

 「ダレル貼り合わせです」

 衛兵隊長が答えた。


 真っ裸の男が背中合わせになって貼り合わせてあって、首は真横を向いている。首が90度曲がって真横が正面のようだ。同じ顔が並んでこっちを向いていて動かない。気持ちが悪い。

 手はだらんとしている。既視感がある。


 「なお、花街の自称ダレルは支払いを済ませ帰ったそうです。他人の空似のようです。ではそう言うことで、よろしくお願いします」

 衛兵隊長と衛兵は荷車をガラガラ引いて逃げていった。


 「ハビエル神父様とトルネード様でしょうか」

 秘書が聞いてきた。

 「そうだ」


 蹄の音が聞こえる。こんなところで馬に乗れるのは俺か近衛隊長か、それともハビエル神父だ。

 「これはみなさんお揃いで。ご機嫌よう」

 タイミングが良すぎる。怪しいことこの上ない。


 「今日は、王妃様と、先の王妃様にシン様の奇蹟のお話をしようと参りましたが、なにやらお困りのご様子」

 白々しい。


 「これだ」

 「ほうほう、これは双子のようですな。顔も体格もそっくりです」

 そうか、なるほど。盗賊のやろうとしていたことの一端が理解できたが、なぜこうなったかがわからない宰相。


 「これはすっかり背中がくっついてしまったようですな。それに口が動かないようです。手にも力が入らないようですな」

 ハビエル神父がわざとらしくダレル会長の腕を持ち上げてみたりしている。

 「これは面妖ですな。一心同体で悪事を働き続けた結果こうなったのでしょう。本人たちは望むところかもしれませんな」


 「俺たちの金を狐屋が蔵の壁を壊して盗んだ」

 縛られた盗賊が口を挟んだ。

 「狐屋とは?」

 「狐面だ。次回は狐屋と掛け声をかけろとほざいていた」

 「なるほど。狐屋ですか。それで、それはどのようなお金だったんでしょうか。まさか盗んできたお金というわけではないでしょうな」

 盗賊は黙ってしまった。


 「木箱はお前らの乱闘で壊れた蔵の壁から入って没収した。狐面?暗いので何かと見間違えたのだろう。以後迂闊なことを言うとこういう病気になる。牢に入っていても病気になる」

 宰相はとぼけて、ついでに脅かしてしまった。裁判で狐面などと言う話が出ると面倒なのである。衛兵隊からはもちろん狐面裸足幼女、自称狐屋などという話は絶対出ない。


 没収したことにしなければ俺の執務室に木箱が積み上がっていることの説明がつかない。狐面裸足幼女も俺に面倒なことをさせると宰相殿。

 盗賊は何か言いかけたが宰相に睨まれて諦めた。

 「こいつらは牢に入れておけ。神父殿と現場を見て来る」


 近衛兵がダレル商会に先導していく。

 「神父殿、ムジンボーケンについて何かご存知でしょうか」

 「なんでしょう、無尽に冒険でしょうか。少年、少女よ、縦横無尽に冒険せよとの標語でしょうか。なかなかの標語ですな。少年、少女よ、縦横無尽に冒険せよ。元気でよろしい」

 聞いた相手が悪かった。


 ダレル商会についた。

 「中に入ってみましょう」

 「ほうほう、この蔵ですか。だいぶ壁が弱っているようですな。乱闘の際崩れたこの穴から木箱を没収したというわけですな」

 ハビエル神父が無事な壁を押すと壁が崩れる。トルネードも壁を足で押している。周りの壁が全部崩れた。


 「なるほど、壁はもう崩れる寸前でしたな。手を突いただけで崩れてしまいました」

 壁が乱闘で穴が空いたり、手をついただけで壊れるはずがない。しかし、乱闘で壊れた壁から木箱を没収したと言った手前、現場がそれに合うようでなければ困る。現場捏造のような気がするが、黙っている。


 「蔵のなかに入ってみましょう」

 中に入る。

 「これは宰相殿、帳面がありますな。几帳面に盗んだお金と盗んだ商店名などが書いてありますな。これは面白い。没収したお金の返却に役立つでしょう。書いてある金額を黙っていて自己申告させると面白い人間模様が見られそうですな」

 さすが詐欺師のハビエル神父、人間の弱さもよくご存じだ。


 「それで、あの屋根の瓦が剥がれておりますな。さぞかし手抜き工事なのでしょう」

 タイミングよく瓦が滑り落ちてきた。

 「やっぱり手抜き工事ですな。盗賊は運が悪かったのでしょう」

 全く怪しいが、瓦が自然に落ちてきたのも事実だ。また一枚、二枚と落ちてきた。都合が良いこと甚だしいが手抜き工事なのだろうと一同思うことにした。

 「こんなところですな」


 「宰相、記録はどのように」

 「昨夜、店に泥棒が押し入ったと通報があり、衛兵が駆けつけたところ、犯人はダレル商会の会長だと証言があり、ダレルの店に急行したところ、店の中から大音が聞こえてきて踏み込んでみると、盗人とか、盗むとか聞こえ、盗人を逮捕しようと争っているときに、蔵の壁にぶつかり、大変脆くなっていた蔵の壁に穴が開き、盗品の木箱が見えたので没収した。安普請の屋根の上から瓦が滑り落ちて運悪く盗人に当たった。それから一心同体の双子を発見、一人はダレル会長と確認、逮捕した」

 「わかりました」


 「一心同体は裁判の前に、口が動かない腕が動かないと言う難病が進行して亡くなってしまうだろう。病気がうつるといかん。遺体は速やかに火葬にせよ。報告書はうまく作れ」

 宰相は証拠隠滅である。

 「承知しました」

 盗賊が金品を盗んだ事実は、事実として記録、その他はでっち上げである。近衛兵も怪力乱神を語らずの原則に従い加担するのであった。


 この頃作文が上手になった近衛兵たちである。綺麗に作ってくれるであろう。ダレル会長が花街にいたという話は出てこない。狐面裸足幼女、自称狐屋の話もどこにも出てこない。貼り合わせ男も病気が進行して今日明日の命であろう。最早全員知らぬふりである。


 それにしてもムジンボーケンとは、本当に縦横無尽冒険なのだろうか。疑問に思う宰相であった。

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