472 フロランスちゃんの夜働き 王都大店強盗編(上)
わたしフロランス。
一ヶ月も出ていて昼間午前中に帰ってきたものだからお母さんに一緒に寝かしつけられてしまった。疲れていないのに。でもお母さんの温もりが心地よい。寝てしまった。
いつもの午後のおやつの時間くらいにはお母さんは起きてしまう。花街だからいつもお母さんは日が翳ると大忙した。忙しくなる前に夕食にしてしまう。わたしも一緒に食べた。お母さんと一緒に食べるのはやはり嬉しい。
それからはお母さんは女将さんなので大忙しだ。わたしはお母さんの寝間で寝ている。わたしいい子。だけど今日は昼間寝てしまった。寝られない。
窓から外を見る。通りの両脇の家々に灯りがつき始めた。通りは人通りが多い。暗くなったら出歩けないから今が一番多い時間みたいだ。
お金持ちそうな人と取り巻きが歩いて来る。どう見ても品が良くない。向かいの隣の店に入って行った。部屋は2階だ。障子をあけて外から見えるようにしている。下を見て顔を見せたりしている。なんだかおかしいね。まだそんな暑くないのに。ここにこの時間いるということをアピールしているようだ。
ふうん。
取り巻きの一人が店の外に出てきた。観察ちゃんがつけていく。多分こっちの男たちはここにいることが重要なのだろうから動かないね。わたしも観察ちゃんとついていこう。
この間世界樹様が線指輪をバングルにしてくれた。中に入っているものはそのままだった。狐面を取り出してつける。さてとまだ人通りが多いので下には降りられないな。向かいの屋根に飛び移ってやろう。観察ちゃんが今だと合図してくれます。ポンと飛んで向かいの屋根の棟を越えたところに着地した。裏側になるから誰も見ていない。
観察ちゃんがこっちこっちと呼んでくれる。花街の門を出た。もう薄暗くなってきたから花街以外はほとんど人通りがない。街の中心部に向かっているようだ。ずいぶん歩くね。すっかり日が落ちて夜になった。
お店が並んでいる通りに出た。だんだん大きなお店になって来る。物陰に隠れた。おや、お仲間が来た。
「兄貴は無事に花街について、店の連中や通りを行く者に顔を見せた。今頃はどんちゃん騒ぎをしているだろう」
指笛を吹いた。暗がりから多くの男たちが出てきた。みんな覆面をしている。あれ、一人覆面をしていない。顔は花街にいた男とそっくりだ。どうなっているんだろう。観察ちゃんが花街に男はまだいると言っている。
ふうん。ということはそっくり同じ顔の男が二人いるのか。
「やるぞ」
顔を見せている男が言った。首領らしいよ。
通用門が開いた。観察ちゃんが仲間が裏から塀を越えてきて内側から開けたと教えてくれます。
屋根の上から見ていよう。お店の屋根の上に飛び上がった。
盗賊たちが蔵の鍵を壊した。少し音がしたが店の人は気がつかないみたいだ。
蔵を開けて中に入っていく。木箱を担いで出て来る。重そうだ。金貨が詰まっているのだろう。
観察ちゃんが木箱を担いで逃げる最後尾の盗賊の足がつくところに丸い石を置いた。転んだ。転んだ拍子に木箱が放り投げられる。木箱が壊れて金貨が散乱する。金貨の音には敏感なのだろう。店の人が起きてきた。
「泥棒だー」
外から松明を持った盗賊が早く早くと言いながら、覆面をしていない男の顔を照らし、照らされた男はしっかり顔を見せて、顔を見られたというふりをして顔を隠して逃げていく。
へえ、面白いね。
木箱は4箱、盗賊たちが担いで逃げる。
店の人は衛兵、衛兵と騒いでいる。自ら追いかけるのは危ないと思ったのだろうな。
夜だからね。それも正しい。
衛兵が呼ばれてやってきた。
「犯人はダレル商会の会長だ。顔をしっかり見た」
そう証言している。
そうか。そういうカラクリか。
衛兵が店の者とダレル商会に駆けつける。
「衛兵だ。開けろ」
中からこちらを確かめて潜戸を開けた。
「なんでしょう。こんな夜中に」
「会長に嫌疑あり、どこだ」
「会長は、今晩は花街に行ってますが」
「中を改める」
「理由はなんでしょう」
「ダレルが強盗を働いたとの嫌疑だ」
「それはいつのことでしょうか」
「今し方だ」
「それはおかしい。会長は花街です。人をやって確かめてください。我々は逃げも隠れもしません」
「おい、裏も固めろ。花街に行ってこい」
観察ちゃんが蔵に木箱を運び込んだと言っています。
それじゃ、いただきましょうか。
その前にちょっと細工を観察ちゃんに頼んだ。
観察ちゃんが面白がって消えた。観察ちゃんはあと一人いるけど。
ぴょんと飛んで蔵の前に着地。
まずは観察ちゃんに頼んで、蔵の中の木箱全部をどこかに移動させなければならないけど、どこがいいかな。明日朝まで絶対安全な場所。
閃いた。たまには‘お父さん’に仕事をしてもらおう。
今の時間は執務室には誰もいないと観察ちゃんが言っています。観察ちゃんに宰相執務室に全部の木箱を転移してもらった。
木箱がだいぶあった。全部いただきだ。
こちらも目撃者を作ろう。
ムジンボーケンで蔵の壁を殴りつける。派手な音がする。壁に大きい穴があいた。
さっき木箱をしまった連中が飛び出してきた。覆面はしていない。
わたしもしっかり狐面を見せる。見せてから顔を隠して夜の空に飛び上がった。
「なんだ。蔵の中を確かめろ」
「ない、何にもない。盗まれた」
「盗人のうちから盗むとは太いやつだ」
「聞いたぞ。ここは盗人の家だそうだな。全員逮捕だ」
大音が聞こえたので衛兵は店の者を押しのけて店に踏み込んでいた。
衛兵と盗人集団が戦闘になる。衛兵の方が少ないね。
わたし親切だから、家の瓦を剥がして盗人に投げつける。面白いように倒れる。
衛兵が屋根の上の私をみた。
「出た。狐面裸足幼女だ」
衛兵が叫ぶ。
「あいつが泥棒だ」
泥棒一家が叫ぶ。
「天に代わって成敗する。このムジンボーケンが悪を許さない」
ムジンボーケンを屋根にどんと突いて見得を切る。決まった。けど、みんなポカンと見上げている。失礼しちゃうね。出たって言った衛兵さんは知っているんだから、掛け声をかけたっていいじゃない。狐屋とか。出ただけじゃがっかりだよ。言っておこう。
「次回は狐屋って掛け声かけてね」
観察ちゃんに頼んだ細工物が届いた。
細工はね、観察ちゃんに花街にいた男とこっちにいた双子らしい男を神国に送って、ジェナ様に頼んで背中あわせに貼り合わせてもらった。頭は、ブランコ様に頼んで二人とも同じ方向の脇を向いて動かないようにしてもらった。オリメさんとアヤメさんに頼んで口も動かない、手にも力が入らないようにしてもらった。
ブランコ様は、正常に治すのはなかなか道が遠いみたいだけど、こういうふうに元の通りでなくて良いとなれば綺麗な仕事をする。
なかなか良い出来だ。さすがみんなすごい。花街に一緒にいた男たちは財布を残して滅びの草原だ。もちろん張り合わせ男の財布も花街に置いてきている。十分支払い可能だろう。
貼り合わせ男を衛兵と盗賊の乱闘の場に投げ入れた。
真っ裸の顔がそっくりなダレル貼り合わせが落ちてきたので、衛兵も盗賊もしばし休戦になったようだ。さて帰ろう。屋根を飛んで帰る。
花街の私のうちに2階から入って綺麗綺麗して、さて寝よう。おっと狐面を外さなくちゃね。
今日もいい夢が見られそうだ。
カラクリがバレた盗賊。戦意喪失である。
衛兵隊長が衛兵を率いて駆けつける。
「なんだこれは?」
「それが隊長、狐面裸足幼女が屋根の上から投げ落としました」
もう逃げ腰の隊長であるが、宰相に押し付けるのにも事情を聞かなければならない。
「どうしてこうなった」
「店に泥棒が押し入ったと通報があり、駆けつけたところ、犯人はダレル商会の会長だと証言がありました」
「それで」
「このダレルの店に来たところ、ダレルは花街だと店の者が申しました」
「それで」
「店の中から大音が聞こえてきて踏み込んでみると、店のものが蔵に開いた穴の前で、盗人から盗むとは太いやつだと叫んでおり、逮捕しようと争っていると、屋根の上から瓦が降ってきて、みると狐面裸足幼女が盗賊に投げつけておりました」
「それで」
「それからこの奇怪なダレル貼り合わせを狐面裸足幼女、自称狐屋が投げつけてきました」
「あいつは大盗人です。俺たちのお宝を盗みました」
「黙ってろ。盗賊のくせに。うっかりなことを言うとこうなってしまうぞ。狐屋がどこで聞いているかわからんぞ」
盗賊は、衛兵隊長に一喝されて黙ってしまった。
「ダレルは双子のようだな。双子を隠してアリバイを作って犯行に及んでいたのだろう」
「どうしましょうか」
「しれたこと。狐面裸足幼女だぞ。それにこの奇怪な貼り合わせだ。ここで見張っておいて、明日早朝宰相に押し付けにいく」
花街に見に行かせた衛兵が帰って来た。ダレル会長は来ていたが、財布を残していつの間にかお帰りになった、お代は十分いただいたと店の番頭が言っているとのことだ。
「わかった。ダレルはここにいた。花街のダレルは他人の空似、別人だろう。支払いが済んでいるなら問題はない。ここは何人か見張りを残して、引き上げだ。金目のものはすでにないようだから心配ないだろう」




