467 鉱山都市ミネリアに着く
翌朝、号令おじさんのベアグマンさんが頭をふりふり起きてきた。
「昨日は負けてしまった。オリメさんは大丈夫かい」
オリメさんがやってきた。
「おはようございます」
「ああ。やっぱり完敗だ。あはははは。信じられねえが気持ち良い位完敗だ。朝食が終わったら出るがいいかい?」
「はい、いつでもいいです」
「そうか、じゃ俺たちについてきてくれ」
「わかりました」
僕たちはエリザベスさんとエチゼンヤさんで朝食。
朝食が終わったらエチゼンヤさんは荷馬車を引いて戻って行った。重そうだよ。馬は全頭荷車に繋いで人は歩きだ。
エリザベスさんも渋々戻って行った。
それを見届けるかのようにベアグマンさんの荷馬車が動き始めた。鉄の延べ棒を積んできた時より帰りの方が圧倒的に軽いので馬の足は軽やかだ。僕らもその後に昼寝用荷馬車と続く。
山脈の切れ目を過ぎる。どこまでも森の平原が続くが、右手には遠くに山脈が見える。左手には遠くに西の森の山脈に接して山塊が見える。そこまでほとんど起伏がない。前方には山脈は見当たらない。へえそうですか。森の中の道に入ると見渡せないので一応どうなっているのかわからないことになっているが、時々観察ちゃんがジャンプして森の上に出て見て来るのでみんなわかっている。少しいったら道が消えた。いつも同じところを通行するのではないらしい。森の平原が続いている。
時々魔物が出て来るようだ。先の方で戦闘をしている。主に棒の先端に鉄の球がついたもので殴っているようだよ。僕らの方には魔物は来ない。昼は荷馬車を止めて昼食。ほとんど休まずに出発。僕らはチルドレンを荷馬車に乗せて昼寝してもらいながら進む。
夕方は森の中は急速に暗くなるから、明るいうちに隊列が止まって、食事してテントを張って就寝。寝ずの番をしているみたい。僕らは途中交代を申し出たら喜んでいた。真夜中交代とすることにした。
僕らの寝ずの番は基本的に二人。一人でもいいんだけど、それだと不安に思われるかもしれないから二人。ベアグマン隊の両サイドだ。僕らには魔物は近づいてこない。寝ずの番もいるだけで魔物は近づいてこないから居眠りしていても何の問題もない。
そうやって進むこと一月弱で森が切れた。1キロほど先にかなり大きい街が広がっていた。城壁で囲まれている。円形っぽい。差し渡しが長いところで二キロくらいか。もう少しあるかも。
「俺たちの鉱山都市ミネリアだ」
筋肉集団のベアグマンさんが教えてくれる。
城門に着く。エチゼンヤの荷は待ち侘びていたらしく、早く行けと言われている。僕らは待てだ。当然だろうね。
ベアグマンさんが、
「俺の隊の客だ。腕相撲で勝ったらここに連れてきて鉄の延べ棒を売ると筋肉に誓って約束した。そして俺の隊は全滅した。負けた」
「筋肉勝負で負けたのか?」
「ああそうだ。全員負けた。だから俺の隊の客だ」
「そうか。それじゃしょうがないな。だけどなあ。女と子供が、それも幼児もいるぞ」
「やってみればわかる」
「そうか。それじゃ一勝負」
好きだね。ここの人は。すぐテーブルが用意された。
「相手は誰を指名してもいいさ。だが、女児はやめろ。恥をかく」
「ううむ。そうか。それじゃ一番体格が良い」
「そちらもやめたほうがいい。桁違いだ」
「ほんとかよ。まあそれじゃ、そちらの方をお願いする」
オリメさんがご指名だ。オリメさんが出ていく。
「それじゃ俺が合図する。手を組んで。よーい、はじめ」
瞬殺である。
「負けた。気持ち良いくらいはっきりした負けだ。ベアグマンのほら話と思ったが本当のことだったな。通ってくれ」
「負けた仲間ができて嬉しいよ。すぐ組合で物資を分けるから後で取りに来てくれ」
「わかった」
「最初に組合で物資をおろすからつきあってくれ。そしたら俺の家に行こう」
「わかりました」
ゾロゾロと大通りを荷馬車が行く。心待ちにしていたのだろう。家から人が出てきて一緒についてくる。
やがて町の中心だろうと思われる広場についた。広場に面して大きな建物がある。その中に入っていく。話していた組合みたいだね。
「おう、ベアグマン、おかえり。荷物はいつもの倉庫だ。それでそっちの方々は何だい?」
「この人たちがエチゼンヤとの取引場所に来て鉄の延べ棒が買いたいというので、腕相撲の勝負次第と筋肉に誓って約束したら、俺たちが全敗だ。だから俺の隊の客だ」
「そんなに強いのか。それでは一勝負」
またかよ。この人たちはよほど好きなんだな。
すぐテーブルがセットされる。
荷車についてきた人たちは観客だ。ハーマン頑張れと声援が飛ぶ。たまにお客も頑張れとの声が聞こえる。
「俺がハーマンだ。組合長をしている。そちらはどなたが出るのかい」
「誰でもいいですよ。ご指名ください」
僕がいうとベアグマンさんがニヤニヤした。
「女児でもいいそうだぞ」
「まさかこの俺が女児を相手にできんだろう」
「俺は負けると恥だから本戦はパスした。負けは負けだが不戦敗だ」
「ふん。軟弱者め。俺が一捻りしてやる。お嬢ちゃんごめんね。少し痛いかも」
「大丈夫だよ。おじちゃんも気をつけて」
フロランスちゃんに気をつけてと言われてしまった組合長、ううと唸っている。
ベアグマン隊の人は、ハーマン組合長はベアグマン隊長の口車に乗せられたという顔をしている。
それを見て組合長。
「なんだ。俺が負けると思っているのか。すぐわかる」
フロランスちゃんが出ていく。
「なんだ。小さいな。テーブルに届かない。だれか椅子を持ってこい」
椅子が運ばれ、重そうな鉄の塊で椅子の足を押さえた。フロランスちゃんは靴を脱いで椅子によじ登る。
「号令は副組合長がやれ。俺では具合が悪い」
ベアグマンさんの発言で女の人が出てきた。副組合長なのだろう。筋骨隆々だよ。
「手を組んで。いいかい。よーい、はじめ」
瞬殺である。シーンとした。
ややあって副組合長がフロランスちゃんの手をあげた。
「この子の勝ち」
広場はわーっと湧いた。
「負けた。負けた。俺が女児に負けた」
落ち込んでいる。
「心配するな。本戦は負けると恥だからパスしたが、後で後学のためにお相手を申し入れたら、俺たちも負けた。だから恥ではない」
「そうか。強ええな」
「待って、私もやる。あの体格のいい女性を希望だ」
筋骨隆々さんは同じような体型のティランママが希望だ。
「マルティナさん、よろしく」
マルティナさんが出ていく。組合の人は椅子をすぐ片付けた。
テーブルを挟んで、副組合長とマルティナさんが対峙する。
「組合長のように手加減はしないわよ」
「どうぞ全力でお願いします」
ティランママが答えた。
組合の人だろうか。声をかける。
「手を組んで。よーい、はじめ」
瞬殺である。呆然とする副組合長。
「負けた。この私が負けた。ハーマン組合長とベアグマン隊長にしか負けたことのないこの私が負けた。組合長も本当に負けたのか」
会場は盛り上がる。信じられないのか、次々に試合が申し込まれる。
それぞれに似たような体格の人を指名して、皆負けた。
組合長が叫ぶ。
「俺たちは完敗した。駆け引きなく全力を出して気持ちよく負けた。荷物を分けたら、組合ホールで我々の客人の歓迎会だ。無礼講だ。費用は負けた我々組合持ちだ。文句はないな」
オーっと割れんばかりの声が上がり、倉庫に行って急いで荷物を分け始めた。筋肉の人は単純でいいね。




