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目覚めた世界で生きてゆく 僕と愛犬と仲間たちと共に  作者: SUGISHITA Shinya
第四部

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458/499

458 先の王妃達の誘拐未遂事件の後始末

 現場についてしばらくしてハビエル神父がやってきた。

 「炊き出しをしていましてね。今日は不思議なことに来てくれる人がいなくて早仕舞いして来ました。今日は珍しく中央広場ですか。何のご用でしょうか」


 「これを見てくれ」

 「血の跡でしょうか」

 掃除して血の跡はないが見えるのか。


 「馬車だ」

 「さいですか。これはなんと申しましょうか。車軸が車輪のすぐそばでスパッと切れていますな。4輪とも。しかも動き出してから切られた様子ですな」

 「そのようだ」


 「しかし、見事な切り口です。これは人の切ったものではないですな。それで死体がこの辺りにゴロゴロしていたと言う訳ですな」

 「そうだ。死体は両断されていた死体が7体分、バラバラになった死体が2体分と衛兵隊長が言っている」


 「猟奇事件ですな。王都の中心部で猟奇事件が発生したとなればえらいことです。宰相の責任が問われます。人心が動揺するとそれで済みますかな」

 「さいわい、目撃者の証言が曖昧で、賊が女性たちを誘拐しようと裏道に連れ込んだ、太刀が煌めいたとか、誘拐された女性がいつの間にかいなくなった、馬車が壊れたくらいの証言しかありません」

 「そうですか」


 トルネードが馬車の車軸の切り口のあたりを踏み潰した。車輪の中央も踏み潰す。宰相は証拠隠滅だと思った。

 「おや。良くみると車軸が腐っていたかして車輪が動いた衝撃で車軸がばらばらになったようですな」

 トルネードが踏み潰したと思ったが手入れが悪く腐った車軸の馬車の故障の方が安全である。

 「そのようですね」


 「ついでですから馬車を運びやすいようにしておきましょう」

 ハビエル神父の手に剣が握られ鞘ごと数回振られた。車軸の上が細かくされて脇に落ちた。丈夫な鞘だ。すかさずトルネードが車体の下になっていた車軸を踏み潰す。


 「おお、すっかり車軸が腐っていたようですな。車体も弱くなっていて落ちた衝撃で壊れたようですな」

 白々しいが近衛兵に命令する。


 「馬車は車軸の手入れ不良により車軸が4輪を支えられなかった。車体部分も手入れが悪く落ちた衝撃で壊れたと記録せよ。通行止めは解除だ。馬車の残骸は焚き付けにでもしてしまえ」

 「承知しました」


 「では、衛兵隊詰所までお願いします」

 「参りましょう。しかし、天気がいいですな。こう天気がいいと気分良くドラゴンが空を舞いそうですな」


 嫌なことを言う。神父殿は怪しいことこの上ない。見上げると高空を飛ぶ鳥のようなものが二羽見えた。高空でもやけに大きいとわかる。不安になる宰相殿であった。


 衛兵詰所に着いた。

 衛兵に裏に案内される。シートをかけた荷車が三台置いてある。

 衛兵がシートを捲る。ウッと近衛兵。


 「これはなんですな。一刀両断ですか。大変ですな。普通両断はできません。途中で刃が止まってしまうでしょう。これは最後までスパッと行っています。これはあってはならない死体ですな。これがあると大猟奇事件に発展しますが」

 「ならないように祈っています」

 「さいですか」


 死体が消えた。荷車とシートについていた血も地面に滴り落ちた血も消えた。

 「死体はなかったんでしょう。賊はきっと斬りつけられて命からがらアジトに逃げ帰ったと思われますな」


 死体は観察ちゃんがアジトの貴族の屋敷の居間に転移させたのである。居間にいた貴族一家は仰天して家を飛び出した。とびだしたところで動くなと言う声が頭の中に聞こえ動けなくなった。屋敷が潰れ落雷があった。


 「馬車が壊れ、賊がまごついているところを、通りかかった人が誘拐されそうになった人を逃し、賊と交戦、賊は切られたがアジトに逃げ帰ったものと思われる。手助けしてくれた人は奥ゆかしくその場を立ち去ったと記録」

 「承知しました」

 近衛兵は慣れたものである。


 表から衛兵が駆けてきた。

 「宰相様、近衛兵が至急とのことです」

 「なんだ」

 「それが」

 「ではそれがしはこれで失礼します」

 「いや、お待ちください。一緒に話を聞いてください。応接室を貸してくれ」

 応接室を借りた。ドアの外は近衛兵が固める。


 「どうした」

 「下級貴族の屋敷が潰れました」

 またか。いつかもあった。ということは犯罪関係者か。そして二羽の鳥に見えたものはドラゴンだったのか。言わずと知れた方が乗っていたのだろう。


 「その貴族の名前は?」

 「ダミアーノです」

 「知らんな。それでその男の評判はどうだったか」

 「大変悪く、裏で犯罪をやっているのではないかと言われていたようです」

 ああ、結びついてしまった。


 「誰か助かったのか」

 「一家が外に出てきて助かったが、家の外に出たら動けなくなったようです。全員故意出火の疑いで捕らえてあります。抵抗はしませんでした」


 「屋敷の状況はどうか」

 「それが、屋敷が大破した後、火の不始末があったようで燃えてしまったと隣人が申しています」

 「何か残ってないか」

 「金庫が焼け残っていましたが開きません」

 「ということでハビエル殿。金庫を開けていただきたい」

 「では行きましょうか」


 宰相とハビエル神父が馬に乗って貴族街に向かう。ダミアーノという貴族の家は貴族街と平民住居との境であった。かろうじて貴族街と言うところだ。

 庭に貴族一家が捕えられている。

 焼け跡にポツンと金庫が立っている。

 「あれですな」

 「そのようです」


 「では、三馬鹿直伝の金庫開扉術を試みましょう」

 単に切り飛ばすだけだと宰相は思うが、一般人にはできないから、開扉術といわれればそうかもしれない。開かないのならそれ以外方法がない。

 ハビエル神父の剣が数度舞い、扉が落ちた。


 中には書類と金塊が入っていた。

 誘拐された者の名前と身代金が書いてある書類があった。

 「ほうほう、身代金に線が引いてあるのは、取引不調でしょうか。これは大変ですな。宰相殿。それでは失礼仕る。あ、そうそう。世の中の噂では女性に酷いことをした男には筒腐らしの刑という神罰があるらしいですよ。それとこれも噂ですが、大海の中に監獄島というのもあるそうです」

 ハビエル神父はトルネードと行ってしまった。


 なんとなく刑の内容がわかる宰相と近衛兵であった。捕らえた貴族一家を見ると男どもの顔色が悪い。

 「監獄島か。きっと何もないのだろうな。海は魔物の巣窟だし、船は通わないな。脱出不能だ。裁判が終わったらどなたかによってそこに送り込まれるのかもしれないな」

 女どもの顔色も悪くなった。


 後の裁判では身代金を取り損なったら慰み者にしてそのあと始末してしまっていたことがわかった。もちろん求刑通り全員死刑の判決が出た。判決を聞いた後、法廷で男どもは涙を流して筒腐らしの刑が執行されているので耐えられない、すぐ死刑を執行してくれと嘆願した。獄吏は死刑になれば貴族一家の男がトイレに行くたびにトイレから聞こえるこの世のものとは思えぬ絶叫から解放されるとホッとした。


 「宰相、お客様がお見えです」

 「だれだ、こんな朝早くアポはないぞ」

 「御ローコー様です」

 「何の用だ」

 「さあ」

 「まあいい」


 「元気か?」

 「勝手に入ってくるな」

 「そうか。秘書官には言ったが」

 「帰れ」


 「筒腐らしの連中の件だ」

 「なんだ」

 「それがな。怒っているお方がいてな」

 「ーーーー」

 「それでだ。今日は無事に死刑が執行された」

 「この時間ではまだ執行していない。言い方がおかしい」

 「死体はない。良きに計らえ。それじゃな」


 「待て。待て。どういうことか」

 「監獄島行きだ。川はあるが果物はない。こちらの大陸はうっすらと見える。望郷の念にかられるも、海は魔物だらけだ。外洋船は人は持っていない。脱出不能だ。自死は出来ない。死刑より辛い。ということだ。うまく処理しろよ。滅びの草原が広がるぞ」

 「ハビエル神父が言っていた監獄島だな。わかった。死刑は執行された」

 「それじゃな。この頃ドラちゃんとドラニちゃんが訪れないようだが、遊びに来るように言っておこうか」

 「いらん。じゃなくて、お忙しいでしょうから、おいで頂かなくて結構です」

 「そうかい。それじゃな」

 「二度と来るな」


 御ローコー様が出て行った。

 「陛下にアポをとってくれ。刑務官にすぐ口頭で連絡。わかっているな。通常通り死刑は執行された。書類もそうなっている」

 「承知しました」

 筆頭秘書官が出て行った。


 国王のアポはすぐ取れた。

 宰相が行くと王妃と先の王妃がいた。苦手である。

 「トラヴィス、入ってらっしゃい」

 先の王妃に声をかけられてしまった。


 「朝から何の用だい?」

 陛下である。

 「それが御ローコー様がお見えになり、さるお方が怒っており、例の筒腐らしの貴族一家は、今日死刑が執行された。死体はないと言われました」


 「あんな奴ら、八つ裂きでいいのよ」

 先の王妃のお言葉である。王妃も頷いている。何やら私怨でもあるのだろうか。わからぬ宰相である。


 「死刑が執行されたことにすると言うことだな。それで連中はどうするのか。御ローコー様はなんと」

 「連中は監獄島行きとのことです」


 国王が聞く。

 「監獄島とは?」

 「監獄島とは、川はあるが果物はない。こちらの大陸はうっすらと見える。望郷の念にかられるも、海は魔物だらけで外洋船は人は持っていない。脱出不能。自死は出来ない。死刑より辛い。という島です。もちろん、筒腐らしの連中は死ぬまで苦しみます」

 「筒腐らしも監獄島も恐ろしい刑だな」

 「当然の報いよ」

 王妃が言っている。

 どうも何か知っていそうだが恐ろしくて聞けない。のほほん陛下は聞き流している。


 死刑当日、牢から貴族一家全員が消えた。

 獄吏はあわてて刑務官の元に走った。

 ちょうど宰相の筆頭秘書官が出て行くところであった。

 入れ違いに刑務官の部屋に入った。


 「例の貴族一家だろう。心配することはない。御ローコー様より国王陛下に、今回の貴族一家は許し難い、よって監獄島送りになったと連絡があったそうだ。監獄島に文字通り飛ばされたそうだ。死刑より辛いという話だ。死刑はつつがなく執行したと書類を作れとのことだ」


 「どなたが送ったのでしょうか」

 「それは人の法を超えるのだから人より上の存在だろう。詮索しない方が良い。詮索したり言いふらしたりすれば監獄島行きだ。死刑は本日執行された。そう心得よ」

 「わかりました」

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