443 スパーニア王都にて (上)
さて、朝食は今日もスパエチゼンヤ。みんなと美味しく食べて、出かけます。
スパーニアの王都を望む地点に転移しました。
城壁は高く、厚いです。周りが魔物だらけだからね。ちゃんと入場の列に並びます。結構入る人がいます。近所の村で作った農作物を持ち込んでいるらしい。
城壁から近いところに石壁で囲まれた村がいくつもある。野菜などが入ってこなくなると大変だから兵が見回りをしているのかもしれない。
城壁から離れてしまうと兵も見回りせず人も少なくなるから魔物が増えるのだろう。
来る途中の街は街中に畑があったな。壁で囲まれた街の中で自給自足して足りないものを行商で補っているのだろう。魔物が多いから行商はエチゼンヤしか無理だろうな。
あ、入場の番が来た。門番さんが僕らを見て驚いている。
プリシラさんが線指輪を見せる。
「皆さん連れです」
「どうぞ」
入れたけど、門番さんが一人走って行った。
ま、いいか。朝だから朝市だな。一緒に並んでいた人たちが次々店を開いて農作物を並べていく。毎日消費する野菜が中心みたいだよ。いくらか加工品もあるようだ。
屋台も出ている。ドラちゃん、ドラニちゃん、チルドレンは屋台だ。小遣いを渡してあるから自分たちで買っている。串焼きを買って一人分収納している。ブランコのだね。
「おいしいかい」
うんって言っている。可愛いね。
みんなで食べよう。僕たちも買って広場の木陰に座って食べる。確かに美味しい。
少し離れたところで娘さんが男たちに囲まれて絡まれている。みんな見て見ぬ振りだ。やだねえ。
ティランママが串を手に歩いて行った。
絡んでいる男の手の甲に串をぶすり。串が突き抜けた。
「あら、ごめんなさい。つまづいてしまったわ。そちらは人生につまづいたようね」
串が刺さった男は手首を握って痛え、痛えとうるさい。
「てめえ、何をする」
一緒にいた男たちが色めき立った。
ティランサンが娘さんを逃してやった。
あ、ナイフを取り出した男がティランママにナイフを繰り出した。横合いからティランサンが腕に串をぶすり。
「僕もつまづいてしまった」
ナイフを落とした。
「痛え、痛え」
ナイフはティランママが踏んだ。ナイフは折れ曲がり、下の石がひび割れてしまった。
「あら、やわらかなナイフだったわね。使い物にならないわ」
どうもやり口がエスポーサみたいだ。
男たちは怯んだ。
「僕の、僕のお父さんは偉いんだかならな。お前たちは牢屋だ」
「へえ、ぼくちゃん。そうなの。どういう人かしら」
「衛兵の」
「衛兵の何かしら?」
「隊長だ」
「隊長?ほんと?」
「小隊長だ」
「そう。それでとらえに来るのかしら」
「当たり前だ。お前たちは牢屋だ」
「そうかしら。何かしたのかしら」
「串を刺して、手の甲と腕を貫いた。敷石を破壊した」
「串?自分でころんだんじゃない。違うの?」
串を刺された男二人はティランママに睨まれた。
「「じ、自分で転んで串が刺さった」」
「ほら、自分のせいだってよ」
「お前ら」
衛兵さんが来た。
「お父さん、この女が串をダチの手の甲と腕に刺した」
「知らないわ。それに自分で転んで刺したと言っているわ」
「おい、どうなんだ」
「「自分で転んで刺さってしまった」」
「本当か?」
「「本当です」」
「だってさ。じゃ行くわ」
「待て、敷石を割ったろう」
敷石は直しておいたんだよね。僕、気がきくから。
「どこ?」
「その曲がったナイフの下だ」
「お前、割れてないぞ。これじゃ器物損壊で逮捕できない」
「ナイフを踏んで曲げた」
「ナイフ?どうしてナイフがあるのかしら?」
「それは俺のダチがお前を刺そうとしたからだ」
「それって、殺人未遂だわね。私の様なか弱い女性にナイフを振るうなんて、なんて人なんでしょう」
うそだあと言う声が観客から聞こえて来ます。
「おまえ、刺そうとしたのか」
衛兵が息子のダチに聞く。
「いや、ナイフを落としたら曲がった」
「よかったわね、殺人未遂にならなくて。結局みんな一人芝居よ。それじゃね」
「待て、お前らの宿はどこだ」
「決めてないわ。朝市も見たし、また午後来るわ」
さてそれでは行きましょうかね。みんなで裏道に入って転移。エチゼンヤさんの荷車がどうなったかな。荷車のそばに転移だ。
「がんばってますか」
「シン様。がんばって引いています。そろそろ休憩ですが一緒にどうですか?」
そうだね。
「じゃそうしましょう」
人力荷車は道の端によせて休憩だ。
僕たちはおやつです。お茶はプリシラさんがエチゼンヤさんの人たちにも淹れてあげました。
これは美味しいと好評です。
盗賊さんたちはすぐそばの溜水のような流れです。馬と一緒。馬が飲み終わったらジョボジョボ。盗賊さんたちはジョボジョボ前に一口飲んだだけであとは飲めません。
「飲まないと後が辛いぞ」
店員さんが声をかけます。店員さんも馬も楽しそうだ。盗賊に恨みがあるのだろう。
休憩が終わる頃、いくらか尿が流れたろうと水を飲む盗賊さん。飲めたようだが、顔を顰めている。いくらか味がついていたのだろう。
「では行くぞ」
荷車が動き出した。暇だから後をついていく。ドラちゃんとドラニちゃん、ジェナとチルドレンが荷車に乗った。楽しそうだ。アカは僕の腕の中。盗賊は荷が増えたと苦い顔をしている。
観察ちゃんが少し先にこの盗賊の仲間が盗賊を取り返そうと待っているよと教えてくれます。
「店員さん。盗賊のお仲間が、荷車引の仲間になりたくてこの先で待っているそうです。こちらにきてもらいますので縄を用意しておいてください」
「わかりました」
「ドラちゃん、ドラニちゃん、向こうから追い出して来て」
「わかったー」
喜んで飛んで行きます。
盗賊のいるあたりを越えてから巨大化した。
うわー、ドラゴンだーという声がして、盗賊が走ってきます。15人ほどいますね。
ティランママとティランサンが太刀を抜きます。
盗賊さんたちは止まりました。後ろを見ると巨大ドラゴン、前は太刀2本と仲間20人、店員さんたち。うまくすれば勝てると思ったのでしょう。剣を抜いてかけてきます。
お縄になっている仲間が叫ぶ。
「止まれ。止まれ」
「神流一刀両断派参る」
閃光が二条輝く。
先頭の二人が走りながら二つに割れた。
大太刀を掲げながら、
「人呼んで閃光両断太刀」
ティランママも乗る人だった。
「同じく閃光両断太刀」
ティランサンも同じくであった。
走り寄って来た盗賊は前方が止まって将棋倒しになった。
もがいているところをあえなく御用。縛られて荷車の馬にされた。将棋倒しの時に仲間の剣が刺さってしまった盗賊が3人ほど昇天してしまって10人が荷車の馬だ。これで馬は全頭荷車引きから解放された。
「だいぶいましたね。いつもこんなにいるのですか」
「魔物が多いので盗賊も人数を揃えなければ魔物の餌食になってしまいます。ですからこの辺は盗賊団の人数は多いです」
「なるほど」
荷車の方で声が聞こえます。
「頑張って引け。夜になると魔物が増える。俺たちは馬に乗って逃げるからな。日のあるうちに王都に着かなければお前らは魔物の餌食だ」
心なしか荷車の速度が上がった。




