422 滅びの草原一周確認ツアー 熱帯雨林(上)
「みなさん、思わぬ大地の変動で、今日は火山地帯を進むのはやめておこうと思います」
みなさん、ほっとしています。
「その代わり、魔の森の熱帯雨林を進もうと思います。ではエスポーサよろしく」
「みなさん、溶岩地帯より楽だと思ったでしょう。溶岩地帯は熱いだけでさっぱりしています。熱帯雨林は湿度が高く、いろいろな有害生物がたくさんいて、危険な植物もたくさんあります。夕方にはきっと溶岩地帯のほうが良いと思うに違いありません。服装はどうでもいいですが、武器は抜いてすぐ使える状態で携行願います。今回密林ですから、大きく5グループに分けます。ゴードンさん、セドリックさん、三馬鹿さんです」
またさん付だ。ろくな未来は見えてこないと思う三馬鹿。
「では班わけの立て看板を見てください。そしてグループ毎にまとまってください。グループ長は班をよく確認してくださいね。グループ長の下の班長さんもよく班員を把握してくださいね。密林ですから逸れたら探すのが水の中より大変かもしれないですよ。先導はブランコですがすぐ見えなくなると思います。どうしても方向がわからなくなったら眷属に聞いてください。遭難しないでくださいね」
探すのが厄介だ、置いていこうと聞こえた気がする三馬鹿である。
「幻聴ですよ。おほほほ。いつものように赤ちゃん、小さいお子さんは預かります。橇に乗せてください。ドラちゃんドラニちゃんが引き馬なしで運転します。横倒しになって走ることがありますが、重力は床方向にかけてありますので大丈夫ですよ。バリアもかけてありますからたとえ火の中水の中、火はないか。上から害虫が降ってきても大丈夫です」
上もか、嫌な予感がする参加者である。
「では転移しますが、武器は抜いて持っていますね。ついた途端使うハメになるかもしれませんよ。今回は上からも下からも攻撃が有りですね。じゃ転移」
聞いてないよと参加者。
じっとりとした熱帯雨林の真ん中に転移した。植物が繁茂してすでにブランコ様は見えない。焦るグループ長。
「行くぞ」
上から何か降ってきた。子供の腕ぐらいの蛭である。
「出たー、巨大蛭だ」
慌てて切り付ける。体液が飛び散る。たかを括って普通の格好をしたグループ長、せめて顔だけはとあわてて狐面をつける。蛭を切り付けるたびに頭から蛭の体液を浴びた。慎重に極寒、極熱対応服を着ていた人は正解である。フード、狐面で直接蛭の体液が肌にかかることはなかった。
グループ長は全員蛭の体液だらけだと観察ちゃんが申しております。バトルホースとバトルベーベーはしっかりバリアを張っていると観察ちゃん。湿気が嫌いなベーベーもバリアが張れれば大丈夫だろう。
今回僕と眷属は全員後ろと脇についた。気づかれないように少し離れている。迷子になりそうなら手助けしてやろうと思う。
みなさんは蛭が密集していたところは抜けたようだ。
「体液や樹液が体につくと火脹れしたり腐ったりするものもありますよ。お気をつけて」
エスポーサだ。
そう言ってはいるが実はそのような物質がかかってもなんともないのである。慎重になったほうが良いので言っているだけなのである。決して三馬鹿がおっかなびっくり歩くのを見たいのではないのである。多分。
みんなおっかなびっくり進む。眷属とエチゼンヤ夫妻はニコニコして進む。ニヤニヤではないであろうが見方によってはニヤニヤに見える。
ゴードンの面前に人の頭ほどある蜘蛛が垂れ下がってきた。
「うわー」
極級冒険者でもびっくりすることがあるのである。飛び退いて仕留めた。ゴードングループは上方監視員を作ったらしい。何人かが上を見て歩いている。いいけど、ほら転んだ。
密林の地面は湿ってふかふかしている。何か下にいそうである。ほら出た。巨大ムカデだ。
「うわー」
セドリックである。極級冒険者二人が相次いで声を出した。もちろん飛びついて来るところをかわして鎖鎌で胴を切断したのだが、切られてもうねうねと動いている。何箇所も切って踏み潰して、一安心だ。
落ち葉の下にも何か潜んでいる、危ないと班員。
相次いで聞こえる極級冒険者の叫び声に気を引き締めて、腰は引けて進む三馬鹿。何も出てこないことを祈るばかりである。
ゴットハルトの前方に綺麗な花が咲いている。ほっとする。匂いもいい。しかしやけに大きい花だ。近づいて行くと、シュッとツルが伸びて来る。ツルの先は槍のように尖っている。
「うわー」
危うくかわし、ツルを切り落とす。次から次へツルが伸びて来る。飛んでいる巨大バチに刺さった。ツルが縮んで花に巨大バチを近づける。巨大バチを取り込んで花が閉じる。満足したらしくツルは伸びてこなくなった。危なく食われるところであった。花も危ないとゴットハルトの班員は思った。
ラインハルトは俺の方には何も来るなよと思いながら歩く。綺麗な幹の木が生えている。幹の模様が動いている。次の瞬間、巨大蛇が口を開けて飛びついて来る。
「うわー」
避けるのが間に合わず蛇の開いた口にショートソードを差し込み、上方へ切り上げる。頭が上に向いて胴が伸びたところを切り落とす。血を振り撒きながら胴がうねる。
「おれは蛇は嫌いだー」
と言いながら、動く胴を切り刻む。やっと動きが止まった。
木の幹も危ないと思う隊員。
‘うわー’が四回聞こえた。次は俺かとベルンハルト。出るなよ、出るなよと進む。
馬鹿に色鮮やかな葉っぱが垂れ下がっている木があった。邪魔なので手でどかそうとすると葉っぱが顔に飛びついてきた。
「うわー」
あわてて顔にくっついたものを剥がし捨てる。次から次へ飛びついて来る。蛙だ。切った体液がかかった草がジュっといって溶ける。毒だ。
葉っぱも危ないと隊員。
慎重に進むと川になった。濁った川がゆったり流れている。一応波はない。しかし全員が川を前に思案している。こういう一見何もないのが危ないと経験させられた参加者一同である。
試しに倒した四つ足の魔物を投げ入れてみる。川が一斉に波だった。あっという間に魔物が骨だけになった。大量の小魚が噛み付いて食べてしまったらしい。
やっぱりと参加者一同。
「今まで大物の水棲魔物だったが、こんな小物の暴食小魚は初めてだ。おい、どうするか」
ゴットハルトが聞く。
「どこかの班が犠牲になって先に進んで小魚がそっちに行った時に残った班が渡るのでどうだ。他に魔物がいなければ川の上を渡って向こう岸まで行ける」
ゴードンだ。
「それしかないだろう。それじゃクジだ」
セドリック。
クジを作って引く5人。
作ったのはゴットハルトだ。作った人は最後に引く。
ゴードンが引く。
「ハズレだ」
ほっとする。この場合ハズレが正解だ。
セドリックもハズレ。ラインハルトもハズレ。
残るはベルンハルト。引く。
「ハズレだー」
喜ぶベルンハルト、がっかりするゴットハルト。
ゴットハルトの班員の視線がきつい。
「すまん」
早くいけと他の班。
諦めたゴットハルトと班員。
「走って向こう岸までだ。行くぞ」
ゴットハルトを先頭に水の上を走って行く。
川幅の三分の一くらいまで水の上を走れた。これはもしかするとと思った瞬間、川の中から水棲魔物が浮上してきた。口がバカに長い。ガバッと開けて襲って来る。たちまち水の中に引き込まれる。小魚も集まって来る。
「それいけ」
他の班が一斉に川の上を走り出す。うまく行ったと思った瞬間、川の中から大口を開けてでかいやつが襲って来る。よくみると鼻と目を出して大量にいる。全員水中に引き込まれる。水面から顔を出すと橇が頭の上を通過して行く。それはいいが、周りをゆっくりと眷属様と二百人衆とエチゼンヤ夫妻が歩いて行く。チルドレン、バトルホースとベーベーも歩いて行く。ティランママとティランサンは釣りをしながら歩いて行く。
「ご苦労様」
とエスポーサ様が言って川を渡って行った。やっぱりこうなると思ったと参加者一同。
ハビエル神父を乗せたトルネードにはヒヒンと言われてしまった。あざわられている気がする。
なぜハビエル神父だけバトルホースに乗っているのかと思ったが、ハビエル神父もトルネードも大変な曲者なので黙っていることにした。
それでも川を渡り切った。
ゴットハルトの班はあちこちに小魚をぶら下げて川から上がってきた。
「しつこい魚だ。牙ばかりあって、食べるところはなさそうだ。下魚の下だな」
服についた魚を毟り取りながらゴットハルトが言うと、全くだと班員。この後に及んでも食いついて来る下魚の下である。よほど貪欲なのか、下魚の下と言われたのに頭に来たのか。




